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闘うカメさん  作者: 宮月
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4.カメ VS ウサギ

「おはよう。」

 合コンと言う名の飲食から始まり、カオスで終わった昨夜。翌日の今日は、仕事も休みだし、ゆっくり眠って、いつもより遅い時間にリビングに降り立った。

「おはよう。」

 リビングに腰掛け、並んでテレビを見ている両親。画面には旅番組の映像が流れている。

「朝、適当に食べてもいい?」

「もちろんよ。コンソメスープとサラダがあるから、それは食べてね。」

「ありがとう。」

 相変わらず仲が良いなと思いながら、キッチンに立つ。

ロールパンを軽く温めて、ウインナーを挟んで食べよう。と冷蔵庫を覗き込む。

「お兄ちゃん達は?」

「もう出掛けたわよ。集合合図が掛かったとか何とか言いながら、重い足取りで出て行ったわよ。」

「あぁ。」

 昨夜の『怒りの鉄槌』というヤツだろうか?多分、間違いないだろう。


それにしても、あのウサギさんとやらは、何を考えているのだろう?

この私に惚れとかと何とか…。ありえないだろう。

うん、一時の迷いだ。私も忘れよう。


「和亀、今日はどうするの?」

「別に予定はないよ。」

「じゃあ、お兄ちゃん達がお昼までに帰ると思うのよ。お昼ご飯、作ってくれる?」

「それって、五人分?」

「そう。和亀の料理、美味しいし。」

「で、何が食べたいの?」

「パスタ。それ以上は任せるわ。」

「了解。」

 母の声に受け答えをしている間に、すっかりあのウサギさんの事は忘却の彼方に消え去り、手抜きの朝食を美味しくいただいた。

「御馳走様。しばらく部屋にいるね。」

「えぇ。」

 さっさと朝食の食器を洗い、二階の自分の部屋に。


ずっとやりたかったゲームが手に入ったので、一人、その世界に浸るのだ。

私は乙女ゲームなるモノが好きだ。

見目麗しい男性と恋愛に堕ちる。色々なイベントを発生させながらも両想いに持っていく。

疑似体験で満足を得ているのだ。

実際の恋愛はほとんど未経験と言っていいと思うが、疑似体験では色々なタイプの方と恋愛を楽しんでいる。

うん、悪女の様だ。


「うん?何か煩いな。」

 人がせっかく良い気分で疑似恋愛を楽しんでいるのに、階下が騒がしい。

ただ、御客が来ただけなら、そんなに騒ぐ事はないだろうに。一体、何が起こったのだ?

「どうしたの?」

 仕方なしに、ゲームをセーブして、自分の部屋を出る。

「あっ、和亀。」

「げっ、ウサギさん。」

 先程せっかく忘却の彼方に放り投げた記憶が一気に戻ってきた。だから、『げっ』と失礼な声が出た事も許されるだろう。

それにしても何故、ここにウサギさんが?

「お兄ちゃん達なら出掛けていますよ。」

「何を言っているのかな。もちろん、君をデートの誘いに来たに決まっているじゃないか。」

 確か、連絡先を交換しなかった。する気もなかった。

それなのに、何故、家を知っている?それも家まで突撃してくる?

「和亀、本当にコイツと付き合っているのかい?」

 疑問を頭の中だけで並べていると、涙目の父が私に縋ってきた。

「はい?」

「それも結婚を前提にした付き合いなんて、聞いていないよ。どうして、一番に相談してくれないんだ?」

「へ?」

「だから、この間のお見合いも断ったんだね。付き合っている人がいるなら、言ってくれればいいじゃないか。お父さんは、全否定はしないよ。和亀が選んだ男性がどういうヤツなのか、見極める為に色々するけど、和亀を幸せに出来るヤツなら、何も言わないのに。」

 …全否定って…、見極める為に色々って…?

その前に、私はウサギさんとは付き合ってもいないのに…。

「えっ、違うよ。」

「申し訳ございません。和亀さんに一刻も早くお会いしたくて、私が突然訪問させていただいたせいで、和亀さんを責めないでください。恥ずかしかっただけなんだと思いますし。」

 な、何を言っているんだ?この黒いウサギさんは?

私の否定の言葉を消し去りやがった。

「だから、違うの。」

「改めて自己紹介をさせてください。宇佐木勝利です。和亀さんと同じ会社で、光くん達と一緒に働かせていただいています。光くんとは大学から仲良くしてもらっているんですよ。」

 また、私の言葉を消し去った。絶対にわざとだよね?この黒いウサギさんは。

「ほう、光と同じ大学か。」

「えぇ、会社では鶴ケ谷課長と鶴ケ谷係長、和亀さんのお兄さん方にもお世話になっています。」

「あぁ、あの営業成績が常にトップだという宇佐木くんかな?」

「いえ、トップというほどではないかと…。しかし、頑張らせていただいております。」

 あぁ、この人の背後から黒いモノが見える…。父を丸め込もうとしているのかな?しかし、何のために?

あっ、そっか。この父親、こう見えても会社の専務。うん、上に取り入った方が動き易い事も多いだろう。

って、今はそんな事に納得している時ではない。付き合っている云々を否定しなければ、もっと大変な事になる気がする。いや、多分、この流れだとそうなるのだろう。

「だから、お父さん、違うのよ。」

「用意出来ているかな?もう行ける?」

 また、まただよ。私の声を遮った。絶対にわざとだろう。

黒いウサギさんは、知らない間に父との会話を終わらせたらしい。

そして、満面の笑みで私の顔を覗き込んだ。

「あっ、いや。」

「じゃあ、早くバッグを持ってきて。ねっ。」

 うん、この場で否定するのは難しいらしい。いいや、ウサギさんが帰ってから思う存分否定しよう。きっと兄達も加担してくれる。うん、味方は多い方がいい。

「わ、わかりました。」

 このウサギさんにちゃんと話を付けないといけないだろうし、仕方がない、出掛けるか。

ごめんよ、見目麗しい男性達。一刻も早く話を付けて、貴方達に会いに行くからね。待っていてね。


ゲームに後ろ髪を引かれながらもしぶしぶ出かける支度を整えた。

「和亀、気を付けて行くんだよ。何かあったら、すぐに連絡するように。いつでも出られるようにお兄ちゃん達に用意させておくからね。」

 父よ、何か物騒な響きを感じるのは気のせいだろうか?

だが、安心されたし。話を付けに行くだけだ。兄達を呼び出すような事になるまい。いや、なりたくない。

「行ってきます。あっ、お母さん。お昼、ごめんね。」

「気にしないで、楽しんでいらっしゃい。」

 母よ。貴女も勘違いをしているのか?うん、帰ってきたら一番に誤解を解かないと大騒ぎになりそうだ。

「じゃあ、行こう。」

 さりげなく、私の肩に手を添え、家の前に駐車された車に誘導されていく。助手席のドアを開け、乗る様に促す仕草は慣れを感じさせる。

「じゃあ、失礼します。」

 彼は運転席の窓を開け、両親に挨拶を残し、車を発進させた。


「何処へ向かっているのですか?」

 車が動き出してから、五分が経過した。見覚えのある景色が窓の外に流れているが、何処に向かっているのかを知らない事に、気が付いてしまった。

「デート、でしょう。」

「デート?」

 何故、デート?それも私と?

「とりあえず、映画と動物園と遊園地とか考えたんだけど。どう?」

「…。」

 確かに動物園は好きだ。でも、デートとなると悩む。

じゃなく、ウサギさんと出掛けた目的はデートじゃない筈だ。

「あの、お話をしませんか?」

「話?」

「色々話すべき事があると思います。」

「まぁ、関係を深める為に会話は大切だと思うけど、デートしながらでも出来るでしょ。」

「そうではなく、ちゃんと話をしておくべきだと思います。」

「…そういうなら、それでいいけど、何処で?ドライブしながら?」

「いえ、何処か止まりませんか?」

「俺の部屋でいい?」

 俺の部屋?冗談だよね?

「いいえ、初対面同然の異性の部屋にお邪魔するほど図々しくはないですので、喫茶店にでも。」

「初対面じゃなければ、簡単に異性の部屋に行くの?」

「いいえ。従兄達や兄達の部屋にしか行った事はありませんし、これからも行く予定はありません。」

「ふぅん。…まぁ、いいや。じゃあ、適当な店に入るね。」

「お願いします。」

 うぅ、やっぱりウサギさん、怖い。何を考えているのか、わからない。普通の話し方だと思うんだけど、それが恐怖を誘うって、どういう理由?私の防衛本能のせいなの?


 ウサギさんが連れて来てくれたのは、賑やかな喫茶店だった。いや、カフェという感じで、若い人が集まる様な場所。確かにここなら煩いくらいなので周りを気にせず話が出来るだろう。

「で、話って?」

「えっ、あっ、うっ。」

 注文したコーヒーが手元に届くと、真っ直ぐに私に視線を向け、口を開いた。

突然の本題に、言葉を詰まらせてしまうのは仕方がないよね?

「あの、どのような意図でこのような事を?」

「このような事とは?」

「えぇっと。」

 言い辛いんだからこれで理解してよ。いや、この黒いウサギさんの事だ。わかっていても聞き出そうとするだろう。

「その、わ、私と結婚を前提に、つ、付き合いたいとか、何とか……。」

「もちろん、言葉のままの意味だけど。」

 うわぁん。黒いよ、黒い。このにっこりと口元は笑っているはずなのに、瞳が全く笑っていない顔。怖いし、真っ黒だよぉ。

「何が目的ですか?」

「何が目的って?俺はただ純粋に和亀に心底惚れたから結婚して、一生一緒にいたいだけ。」

 …惚れたって?この私に好意があるという事ですか?それも男と女として?

「信じられません。」

「どうして?確かに出会ったばかりだけど、一目惚れって言葉もあるし、そんなにヘンな事じゃないよね?それに、好きになるのは理屈じゃないでしょ?」

「…確かに、世間一般ではそう言われますけど…。」

 うぅ、完全に黒いウサギさんに負けている。

「和亀、俺の事、嫌い?」

 うっ、な、何故、首を傾げ、私より背が高いのに、上目遣いをするんだ?

わ、私が悪い事をしているようではないか?

「き、嫌いじゃないとは、思いますが。…いえ、はっきり言えば、それさえもわからないほどの時間しか一緒に過ごしていませんので、わかりません。」

 よし、負けの流れを意地で断ち切ったぞ。

「でも、生理的に無理な人は出会った瞬間から嫌いだよね。って事は、俺は生理的には受け入れられているってことだよね。じゃあ、大丈夫。」

「へ?」

  何が大丈夫なんだ?

「だって、俺、こんなに和亀が大好き、いや、愛しているんだから、和亀も俺を好きになる。」

「…。」

 何ですか?その理屈は?そんな理屈が通ったら、世の中に片想いは存在しないと思いますし、ストーカーなんて物騒な存在もあり得ないと思いますが…?

「とりあえず、一ヶ月、付き合ってよ。それで、本当に俺を受け入れられないのなら、ちゃんと断ってくれていいから。せめて、君を心の底から愛してしまった哀れな男に慈悲を与えて。」

 哀れな男、ですか?誰が?この目の前にいる黒いウサギさんの事ですよね?

うん、哀れには見えません。どちらかというと自信満々で哀れとは程遠い存在な気がするのですが…。

「…わ、わかりました。一ヶ月だけ、ですよ。」

 思わず頷いてしまった。一ヶ月という期間だけを気にしながら…。


後になって、強調すべきはそこじゃないのかもと気付いていたら、私の人生は何かが変わっていたのだろうか?

 


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