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闘うカメさん  作者: 宮月
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1.カメ VS ツル

こんにちは。いや、『こんばんは』や『おはようございます』の人もいるかもしれないけど…。そのヘンはご愛嬌という事で。


はじめまして。私、鶴ケ谷和亀(つるがやわかめ)と申します。唯今、ピチピチ?の二十五歳です。


で、何故、私は誰かに向かっているように語りかけているのでしょう?

そのヘンも置いといて…。(それでいいのか?)



みなさん、私の名前、鶴ケ谷和亀を見て、どう思いました?

はい、八割方の人は、『お目出度い名前だね』とおっしゃります。

残り一割の方は、『何て読むの?』と言いますね。

少数派の方々は、絶句か『年齢、幾つ?』あたりですね。

つまり何が言いたいかというと、名前が特徴的なのですよ。


響きはまだ可愛いと言えない事もない、気がする。

『わかめ』ちゃん。そう、某国民的アニメの妹の名前の発音をされた事もあります。

でも、私は『わ、かめ』なのです。通しての『わかめ』でもなく、『わか、め』でもないのです。

この微妙なニュアンスわかってくれます?

漢字もそうです。せめて、『若芽』とかなら、可愛く見えません?

が、『和亀』なのです。どんなカメなのかしら?そう思うでしょう?

こんな名前を付けた父親に、名前の由来を詰め寄っても許されると思いますよね?

えぇ、詰め寄った事もありますよ。

そうしたら玉砕しました。えぇ、見事に砕け散りましたよ、私の心が。


「お父様、私の名前を付けてくれたのは、お父様ですよね?」

「あぁ、そうだね。」

「どうして、このような名前に?」

 まだ、この当時の十六歳の純粋な(?)私は父を尊敬していました。仕事をして家族を養い、子供にも母にも優しい父親ですからね。

「母さんの名前は若菜(わかな)だよな。」

「はい。」

「母さんのような素晴らしい女性になって欲しいと思い、母さんに似た名前を付けようと思っていた。それで、『わかめ』という響きにしたんだ。」

 えぇ、それはわかります。両親は未だにラブラブ夫婦ですから。

「じゃあ、どうして、同じ『若』という字を使わなかったの?」

「あぁ、僕達の苗字は鶴ケ谷だよな。」

「そうですね。」

 この辺りから嫌な予感が漂ってきました。

えぇ、想像通りかもしれない、あのセリフが脳裏を横切ります。

「鶴と亀なんて、縁起が良いだろう。」

 確かに縁起が良いですね、それは認めます。

キレそうになるのを私は必死に飲み込みました。

この時の自分は偉かったと思います。えぇ、偉いですよね?


この名前のせいで、苛められそうになった時もありました。

逆にやりこめましたけど…。

名前を笑われた事もありました。

言い返して、黙らせましたけど…。

そういう事が走馬灯のように流れたんですよ。

でも、黙って、怒鳴りそうになる言葉を飲み込みました。


「そ、そうですね。」

 引き攣りながらも口元に笑みを作ります。かなりひくひくしていたけど。

「だからさ。」

 次の瞬間、爆弾が投下されました。

「苗字に『鶴』の付く人と結婚してね。」

「はぁ?」

 あまりの爆弾に、脳への信号が断線しました。

出せたのは、裏返った声だけ。

「で、和亀も十六になったから、結婚を用意してあるんだよ。と言っても、僕の兄達の子供達だけど。つまり、和亀の従兄達。」

「へ?」

「ほら、僕の兄弟は全員男でしょう。その上、その子供達も男ばかり。唯一の女が和亀。だから、和亀が可愛くて、外に嫁に出したくないんだよね。で、皆、和亀となら結婚してもいいと言っているんだ。だから、和亀が誰にするか、選んでいいよ。」

「……。」

 血が沸上がります。体温が急上昇中です。

「ほら、一番上の兄さんの家は三人とも医者でしょう。」

 えぇ、医者ですね。下の一人は未だ医大生ですが。

「二番目の兄さんの所は、二人とも名の通った大学に通っているでしょう。」

 そうですね。

「三番目の兄さんの所は、公務員だし。四番目の兄さんの所は、未だ高校生だけど、年齢が近いし、話が合うでしょう?それなりの学校に行っているし、将来も期待出来るでしょう。」

 だから?

「でも、高校生はまだ結婚はムリかな。婚約くらいで留めておこうか。」

 えぇ、確かに男性は十八歳以上でないと結婚出来ませんからね。

「つまり、誰を選んで嫁に行ってもいいよ。和亀ちゃん、モテモテだね。」

 プッチーン。

その後、私はキレ、暴れ出しました。

父に色々叫び、テーブルを引っ繰り返し、野生の動物よりも暴れまわったかもしれません。

誰にも、父はもちろん、母にも、兄にも手を付ける事も止める事も出来ず、三十分ほど暴れまくりました。

「疲れた。」

 突然、そう言い残し、自分の部屋に帰ったのです。

もちろん、片付けなんて知りません。私を抜かした家族で片付けをしたらしいですね。


その後、私には家族内で『キレたら一番ヤバいのは和亀だ』と伝説になったらしいです。


 そんなこんながあり、従兄と結婚させるのを諦めたらしい父。

従兄も次々とまでいきませんが結婚していきます。

多分、勝手に父等兄弟が盛り上がっていただけなのでしょう。

そういう変な連帯感のある兄弟ですから…。



 で、今、あの騒動から十年弱経ち、同じ様な気持ちで父の前に座る私がいます。

暴れ出した時のためでしょうか?両隣には兄二人が座っています。一応、背後霊のように母が控え、三人がかりで私を止めるつもりらしいですね。

「和亀にお見合いが来た。」

「……。」

 兄は腰を浮かし、いつでも私を羽交い絞めにする準備をしています。

「お相手は、鶴屋(つるや)さん。三十歳の弁護士の方。」

「ふぅん。」

 私の声を聞き、二人の兄の肩がビクリと震えました。

ちょっと面白いです。

「それと、大鶴(おおつる)さん。二十八歳のお医者様だ。」

「一体、何人いるの?」

「…五人だ。」

 父が私の声に反応して、ゆっくり息を吐き出した後、静かに答えを返す。

「ふぅん。」

 今度は、母が後ろでビクリと動いたのがわかる。


ちょっと待て。我が家族よ。私を何だと思っている?そんなに恐れをなさずとも良い。そんなに簡単には暴れ出さないぞ、私は。結構辛抱強い子なのだぞ。


「で?」

鶴見(つるみ)さん。三十二歳の国家公務員。鶴賀(つるが)さん、二十七歳の銀行員。鶴岡(つるおか)さん、三十五歳のお医者様だ。」

「これで全部?」

「取り敢えずは。」

「取り敢えず?」

「和亀がもっと年上で良いというのなら、あと二人ほどは、すぐにでも。どちらもお医者様だ。」

「ふぅん。どうせ、伯父さん達の伝手でしょう。」

「まぁ、な。」

 父が冷や汗だろうと思われる滴をポケットに入っていたミニタオルで拭いている。

母もここまでで話が終わりだろうと息を吐き出しているのが聞こえた。

でも、兄達だけは警戒を緩めていない。さすが、だね。


「それで、私にどうして欲しいの?」

「…どう、とは?」

 父の声が掠れている。

うん、私がキレる寸前だと思っているのだろう。

「五人、いや、七人と、お見合いすれば満足する?」

「そ、そんな事はないぞ。ただ、どの方も素敵な人なので、な。和亀が幸せになるための手伝いをしようと思って、だな…。」

「ふぅん。」

 顎を上げながらわざとらしく頷くと、一回息を吐き出した母も臨戦態勢に戻った。

「で、この五人の共通点、どうして、全員苗字に『鶴』が付くのかしら?これには、深い意味があるの?お・と・う・さ・ま。」

 一文字一文字切って発音すると、父の顔から汗が拭きあがった。

私を囲む三人にも緊張が走る。


 それにしてもこの家族は、私を何だと思っているのだ?こんなに怯えて。

余程、十六歳の私が暴れたのが怖かったらしい。

でも、こんなに恐れられると、ちょっと哀しいかな?


「やっぱり、和亀には、『鶴』の字が付く苗字でいて欲しくて。あっ、でも、どの男性も優しくて良い男だよ。ほら、全員、名のある職業だし、収入も問題なしだよ。」

「そうね。でも、どうして、『鶴』の字が付く人と引っ付いてほしいの?そのヘンをしっかり説明してください。」

 下の兄が噴き出し、小さな声で笑っているのが耳に入る。

どうせ、噴き出した時点で上の兄に肘鉄を喰らい、続く笑い声を押さえたのだろう。

下の兄が笑い出した原因はわかっている。

『鶴』の付く人と引っ付いて欲しい。の駄洒落にもなっていないようなささやかな言葉回しだ。うん、よくこんなくだらない事で笑えるものだ。

「あっ、いや…。鶴と…はセット…と。」

「何?お父様、聞こえませんわ。」

「だから、鶴と亀はセットだろう。」

「鶴と亀がセットとは?」

「せっかく、名前に亀が付いているんだから、鶴とセットの方が縁起がいいだろう。」

「ふぅん。」

 私の返事を最後に沈黙が降り立った。


私を囲む三人は中腰になり、父はいつでも逃げ出せるように腰を浮かせている。

これは私に暴れろと言っているの?催促しているの?

でも、暴れると疲れるし、物が壊れるし、面倒臭いのよね。


「お父さん。」

 普段と同じ呼び方をすると、四人の力が一気に抜ける。

「な、何だ。」

「お見合いは全てお断りいたします。これからもお見合いはしませんので、ご用意いただくだけ無駄です。私よりお兄ちゃん達の心配をしたらどうです?二人とも三十歳を越えましたよ。」

「いや、お兄ちゃん達は、浮いた話を小耳に挟んでいるし、心配はないかと…。」


 うん、このまま、キレてもいい気がしてきたぞ。

確かに、私は彼氏いない歴と年齢が一緒だ。

仕方がないじゃないか。恋に堕ちるような殿方と出会えていないのだから。

恋はするものじゃなく、堕ちるものなんだから。

これは私が悪いだけじゃないはずだ。

私を恋に溺れさせてくれるような男性が身近にいないのも悪い。

うん、そうだろう?諸君。


「お父様は、私が恋多き女の方が良いと?」

「…いや、そんな事は言っていないが…。」


 確かに昔、淡い恋心を抱いた男性とデートみたいな事をした事もある。

が、それを壊したのは目の前にいる、父達だ。あと、後ろにも加担した人がいるなぁ。


「まぁ、デートに同伴者がいる時点で恋多き女になれるとは思えませんが、ね。」

「それはそのぉ…。」

「もういいです。が、今後一切お見合いを持ってきたりしないでくださいね。それと、もし、私がデートなどする時、邪魔などしないように。」

「…。」

 返事が聞こえないなぁ。

「そうお約束いただけないのなら。ねぇ。」

「わ、わかった。約束しよう。」

「もし万が一、お見合いが必要な時は、お父様にお願いしますから、ご安心ください。」

「は、はい。」

「じゃあ、お茶でも煎れて、のんびりしましょう。」

「あぁ、そ、そうだな。」

 強張っていた四人の体から一気に力が抜けていく。

どんだけ私がキレるのが怖いんだ?

「お母さん、この大福、食べてもいいよね?皆もお茶でいい?」

「もちろんよ。」

「ありがとう。」

 それぞれの疲れ果て力の抜けた声が返ってきた。


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