黒い眼光
怪人殺人事件が起きた翌日の話だ、雑務課の二人は突然の呼び出しで社長室に居る。
その雰囲気は何時もと違い、重苦しい。
先日、あんな残忍な事件が起きたばかりで周囲の人間が苛立つのは無理もない。
「突然呼び出して悪いね。白牙と加藤君、パトロールを一日に朝と夜の二回に増やして欲しい」
「それは事件が関係があるのか?ミスター」
「そうだ。しかも、被害者は二件とも怪人クラブの怪人だ…。裏に何かある」
「確かにあいつらにちょっかい出す何て普通の人間じゃないな」
「それで事件が落ち着くまで良い」
「了解。行くぞ、部長」
「はい…」
やっぱり身体に異常が起きているのだろうか、二人から異常な匂いを感じた。
気のせいかもしれないが、俗に言う殺気と言う物なのだろうか。
一瞬だけ血生臭い物を感じてしまう、これも輸血が原因だろうか。
疑問だけが、頭の中を駆け巡るが身体が良くなっていると言う事で気にしない事にした。
だがこれだけははっきりしている、白牙さんの後ろ姿が何時ものと違い苛立っている。
「あぁ!白牙のおじちゃん!」
「よっ!今日も元気か?」
「うん!今日もママとお散歩してるの!」
「おはよう、みきちゃん」
「おはよう!おじさん!」
「二人とも何時もどうも、あら?この間の…」
「お母さん、どうも」
「白牙さん、また新しい人ず入ったの?」
「違うよ、同じおじさんだよ」
「え、ずいぶんお若くなってますね…」
「そ、そうですか!ありがとうございます」
「それではこの辺で」
「ちょっと、奥さん」
「何か?」
「最近は危ないから、早く家に帰った方が良い」
「え?何かあったんですか?」
「ニュース見てないのか?」
「あ~、殺人事件が近くであったんですよね。怖いですよね」
「知ってるなら良い、とにかく気をつけてくれ」
「解りました、それでは」
公園の光景を見ている限り、殺人が起きたと信じがたいがそれは事実だ。
こののどかな日常に不穏な影を落とす、それは見逃せない事だ。
早く、解決したいと言う気持ちが強くなる。
何時もの商店街を歩き、日常風景を視界に入る。
やはり、何時も見ている風景は気持ちを落ち着かせる。
昨日の事件があったばかりでなおさら安心せざるおえない。
人間は非日常は中々受け入れようとしない、それは何故か。
人間の持つ自然な心理状態なのだろう、何時ものと違う事が起きると人間は拒絶しがるものだ。
「異常」をすんなりと受け入れる人間は中々いないだろう。
普通の人間は受け入れるのではなく、慣れていくのだ。
昔テレビで軍事評論家が口にしていた。
初めは戦場で食事は出来ない。それは簡単な話だ、死体だらけで死臭が漂う場所で笑いながら食事は出来ない。
だが、人は慣れていく生き物だ。時間が過ぎて行く事に足元に死体が転がっていようが平気で食事が出来る。
これは人として、慣れてはいけない事だ。
「おばちゃ~ん、いる~」
「あら、いらっしゃい。あ!加藤さん退院したの?」
「おかげさまで」
「良いから、中に入んなさい」
何時ものように近所のおばちゃんの家にお邪魔して、世間話をする。
「白ちゃん、今日は何の用?」
「ニュースは見たか?」
「あ~、あの怪人がどうのこのって奴?」
「そうだ。今は危険だから戸締りをしっかりして夜の外出は絶対するな」
「あら?白ちゃん、私の心配してくれてるの?」
「まぁ~、そうだな」
「せめて事件が落ち着くまで、大人しくしててくれ」
「そうですね、私もそう思います」
「そんなに危ないかい?」
「あぁ、怪人クラブの連中が殺害されてる。これは普通じゃない」
「犯人は解ってるのかい?」
「手がかりは今の所は何も無い、解っている事は俺と同じ獣の匂いがする奴って事くらいだ」
「でも無理はしちゃ駄目だよ?あんたは直ぐにむきになるから」
「大丈夫だ、今は部長もいるしな。そろそろ帰るわ」
「それでは失礼します」
家から出て、夕方のパトロールを始める。
商店街を二人で歩いていると人影は殆どいない、その光景は寂しいの一言だ。
だが、そんな中一人の男が自転車でこちらに向かって来る。
「白ちゃん、何しての?」
「おっちゃんこそ何しての?ニュース見たか?危ないぞ」
「だから、俺も帰る所だ。全く、迷惑な話だよな、商売あがったりだ」
「それもそうだが、何かあったら大変だから早く帰れよな。じゃーな」
「おう!白ちゃんと部長も気をつけてな!」
挨拶を交わし、過ぎ去るその姿は何も怖くないと言った所だ。
その姿を最後まで見送り再び歩き出す、すると商店街に警報が鳴り響く。
『怪人出現、怪人出現。直ちに外にいる、一般市民は建物の中に避難してください、繰り返します…』
耳に響く警報音は嫌な予感を運ぶ、二人は身を構えるがまた誰かが走ってくる。
「助けてくれー!」
「「え?」」
二人揃って、まぬけな声を出す。
「はっ…、はっ…。あんた達、ヒーローか?頼む、俺を保護してくれ!頼む!俺はどこにも入ってないんだ!」
「ちょ、ちょっと落ち着け!あんた怪人だろ?なんで逃げてんだ?」
「く、黒い奴に追われてんだよ!突然現れて、襲って来たんだ!」
「白牙さんもしかして…」
「あぁ、犯人かもな」
二人に助けを求めて来たのは見た目はトカゲのような姿の怪人だ。
それに彼が言っている、どこにも入っていないと意味はどこの組織にも所属していないと意味だ。
「それでその襲って来たって奴はどんな姿をしていた?」
「え…。全身真っ黒って事しか解らなかった、逃げる事で精一杯で…」
「そうか…。この臭いは、まさか…」
白牙の顔が険しくなる、これは只事ではない事が解る。
すると数メートル先から、殺気が肌に伝わる。
「部長、下がってろ…」
「は、はい!」
二人が警戒態勢に入ると、その殺気の正体が現れる。
「な、何?!」
一番驚いているのは白牙だ。目の前の敵が自分と同じ姿をしている。
その姿はホワイトファングと非常に似ていて、違いがあるとするならば漆黒に染まる身体。
そして、刃のように鋭い眼光と鋭い爪。
「ちっ、邪魔が入ったか」
その黒い狼は一言言い残すと陽炎の様に消えて行く。