怪獣襲来その二
『ご覧下さいっ!またしても怪獣が出現していますが。
我らが大阪市のヒーロー、ランキング13位のミスターたこやきの手によって迅速に対処されました。
本日の主役である、ミスターたこやきさんに早速インタビューして見ましょうっ!』
テレビのニュースが流されるが、三人の耳は軽いBGMにしか聞こえない。
「それで、昨夜現れた怪獣と言うのは?」
「それが妙なんだ。普段現れる奴より、手応えが全然ないんだ。なぁ、ニンジャ?」
「そうでごさるよ、弱すぎて違和感を感じるでござる」
「いつもの事だが、何かあるかもしれない気をつけろ。最近は何かおかしい」
その言葉を口にする男の顔は緊張と影が掛かる。
「今日からこのクラスの新しい仲間が入る、黒牙入れ」
この匂いは初めてで、違う緊張が生まれる。
自分の歳は世間一般は「学生」と言う身分に付く、この扉の向こうは自分が今まで経験した事がない世界。
足を一歩踏み入れると同じ年頃と思われる、男女が同じ制服を着て規則正しく座っている。
はっきり言って、この光景に違和感を覚える。
今まで自分がいた、世界とは全く違う。
一言で片付けると平和そのものだ。
人間は平凡が続くと刺激が欲しくなる生き物だ、その中に送り込まれたらどうなるかは明白だ。
「ねぇ、ねぇ。転校生イケメンじゃない?」
「そう?でも可愛い顔してるよね」
黄色い歓声が教室に広がる。
「え~と、空いてる席は…。加藤の隣が空いてるな、そこに行ってくれ」
「解りました」
なぜか通路に足が出ている、その周りに嫌味な笑みを浮かべる男子生徒が数人座っている。
それを無視して、通り過ぎる。
「え~と。私、加藤真紀っと言うの。よろしく」
「あぁ、よろしく」
簡素な挨拶を済ませ、指定された席に腰を下ろすと舌打ちが聞こえて来る。
「転校生の自己紹介が終わった所でそろそろ授業が始まるぞ」
人生で初めて学校の授業を体験をする、この席から座って見える景色は自分にとって新鮮だ。
「ねぇ、黒牙君。教科書、まだないんでしょ?見せてあげる」
「すまない…」
「あの先生の授業ってつまんないけど、ちゃんと受けないと怒られちゃうからね」
「こらっ!加藤っ!授業中の私語は慎めっ!」
「ほらね」
授業が初めの授業が終わると10分間の休憩が取れる。
これは疲労した、目と脳を休める時間を与える為だろう。
「ねぇ、ねぇ。黒牙君」
「何だ?」
「黒牙君って、彼女とかいるの?イケメンだからもてるでしょ?」
「彼女?何だそれは?業務規則には載ってなかったぞ?」
「はっはは、黒牙君って面白い事言うのね」
「ちょっと待ってくれ、今調べる」
「いないなら、私立候補しちゃうかな~」
「ずる~い、私も私も~」
「あれ、黒牙君ってマニュキュア塗ってるの?」
クラスの女生徒の一人が少しはがりの身体の異質さに気づいた。
「これは…」
説明すようとした瞬間に授業開始の予鈴が鳴り響く。
生徒達がその音に合わせて、慌しく席に付く光景を眺めていてると、一人の男子生徒が目を鋭く尖られている。
解りやすく表現すると、睨んでいる。
だが、その姿は小動物が可愛らしく威嚇しているようにしか見えない。
午前中の授業が終わり、昼の休憩が始まる。
「おい、転校生」
「何だ?」
「お前、今からパンとジュース買って来いよ。そしたら、仲間に入れてやる」
「はっ?お前何言ってるんだ?」
「ちょっと、佐々木君っ!何黒牙君にからんでるのよっ!」
「おっおおお。優等生の加藤様にはこれがからんでるように見えるのか?俺はただ、転校して来たばかりのクラスメイトとコミュニュケーショーンを取ってるだけだぜ?
なぁ転校生良いから買って来いよ…」
「断る。なぜ、俺がそんな事をしなければならない?納得の行く説明を頼む」
「あぁんっ!てめぇっ!何時までも調子に乗ってんじゃねぇぞっ!」
感情が高ぶり、身体から電流が走り、周りの金属に感電する。
「まずいっすよっ!佐々木君っ!教室で超能力を使うのはっ?!」
「これは正当防衛で良いな…」
「あぁんっ!てめぇ、何ブツブツ言ってんだっ!痛い目に合いたくなかったら、言う通りにしろっ!」
「はぁ…。お前、あれだろ?いわゆる、不良って言う人種だろ?解りやすくて良いがな、無関係の人間に危害を加えるのは見過ごせない。
ここで、俺と戦うか?民間人が?」
少し目を鋭して、声を低くする。
「くっ…。お前覚えてろよ」
後ずさりをして、大人しくなりその場から立ち去る。
「黒牙君、大丈夫?」
「気にしなくて良い、こんな事は日常茶飯事だ」
転校初日は騒がしく終わりを告げる。
「黒牙君、一緒に帰らない?」
「すまない、これから業務に戻らなければならない」
「その業務って、バイトの事?」
「そうだな、そうなるな」
「じゃ~、見に行っても良い?黒牙君の働いてる所見て見たいッ!」
「私もっ!」
女生徒達が興味津々な様子で寄ってくるがポケットに入っている、携帯電話が着信を付ける振動で揺れる。
「もしもし、俺です。解りました、直ぐに戻ります」
「ちょっと、待ってよ~」
思春期の少年少女は非常に不安定の生き物だ。
多感な時期の為に扱いが難しく、言葉一つで喜怒哀楽の制御が出来なくなり、苛立ってしまう。
これは生物てとして成長している証拠なのだ。一つの事を色々な角度から見れるようになる。
だがそれは大人からの視点であり、まだ未熟な少年少女の視点では理解が出来ないかもしれない。
理解したいが、生きて来た時間が短い為に自分の中で整理が追いつかない。
だから、苛立つ。
その感情をコントロールが出来ないから、怒りを外にぶつける。
「ふざけんなよっ!あの転校生っ!」
「まぁ、まぁ。佐々木君、落ち着いて」
「落ち着いてられるかよっ!新入りになめられてよっ!」
繁華街をいつものように暇つぶしで歩く。
だが、いつものように気が晴れない。
その原因を作ったのが、今日転校して来たばかりの黒牙剣だ。
「あぁ~、イライラするっ!」
何となく歩いていると人通りが少なくなっているのに気が付く。
『怪人が現れました、近隣住民の方はお近くのシェルターに。繰り返します…』
苛立ちで警報が耳に入って来なかった。
「まずいっすよっ!怪人って…」
「ぎゃゃゃゃゃゃっ!!!」
「この声…。まさか、ニュースで言ってた…」
二人が立ち止まっていると、全長7メートルはあろうかと思われる怪獣だ。
「うるせぇっ!」
「でも…」
「ちょうど良かったぜ、ストレス解消にはよ…」
身体の電流を一気に的に向けて放出する。
その電撃は見事に標的に命中するが、皮膚の一部が焦げる程度で終わってしまった。
「なぁ…」
「逃げましょうよ…」
この現状を目の当たりにして、自分の無力さを思い知った。
今まではこの超能力で気に入らない奴を黙らせて来た。
それに自分の超能力は人より、頭一つ抜けていたのは知っていた。
自分は特別な人間だと思っていた。
その自尊心が鍍金が剥がれ落ちている。
それがショックでその場で立ち尽くす。
「お前は力のコントロールが出来ていない…」
目の前に見覚えのある、後ろ姿が現れる。
「こちら黒牙。合流に間に合わない為に現地に来ました。これより、対処に当たります」
「お前…」
「話は後だ、安全な場所へ移動しろ」
その言葉だけ言い残し、あの化け物に歩いて行く。
まるでテレビで見るヒーローだ。
「変身…」
その姿は漆黒で包まれ、狼を連想させる。
「転校生…、ヒーローだったのかよ」
開いた口が塞がらないと言うのはこの事なのだろう。
信じがたい出来事が、二度も起きて呆然としている。




