女医とドラゴンその二
外の様子を窓から覗いていた。
これから自分は再び正義の下に屈すると思うと、言葉に出ない屈辱感が身体の奥から沸きあがっ来る。
「くそっ!」
苛立ちで壁を力任せに叩き、穴が開く。
思考が鈍り、これからのどうするべきかが解らない。
人間は混乱状態に陥ると、視界が狭ばり思考回路も鈍りマイナスしか生まれない。
普段なら解っているはずの事がヒーロー達が乗り込んで来た事に状況が一気に変わる。
初めは順調だった計画が崩れ始める。否、もう崩れている。
自棄になると行動は至って、幼稚になるか単純になるかの二択になる。
「そうだ…」
この状況を変えられる案を思い付いた気になっていた。
この男の回答は誰でも良い、人質を盾にして逃げよう。
元々、この脱走計画は自分一人で逃げるつもりだったのだ。
他の連中は全て捨て駒だ。
何も考えずに歩を進め、人質達がいる部屋に入る。
だが、そこには希望が満ち溢れるかのような表情が広がっていた。
「ヒーロー達が助けに来てくれるぞっ!」
「そうだ、諦めるのはまだ早いっ!」
「くっ…、黙れっ!お前ら、自分の状況解ってんかっ!」
再び壁を叩き、焦を露わにする。
「おい、女っ!俺と一緒に来いっ!」
「嫌よっ!離してっ!」
これで人質に連れて行かれたのは運悪くドラゴンの思い人、成川百合だ。
強力は人を選んで人質に取ったわけでない、たまたま目に付いたから。
そんな単純な理由だ。
「そんな、百合さんが人質に…」
その光景をテレビを見て、頭の中で働いた電子信号は「早く彼女を助ける」と言う感情だった。
「ん?あれっ?!この人って、あの女医さんじゃないっすかっ?!」
「おい、ドラゴン。お前、まさか一人で行く気じゃないだろうな?」
肩を掴まれ、足が止まるが感情が先走る。
「止めるなっ!早く彼女を助けないとっ!」
「落ち着け、お前らしくぞっ!良いかっ!相手は恐らく、俺達が原因で追い詰められてるに違いない。
それに他のヒーロー達もここに向ってる、奴は何をするか解らない。ここは…」
スパイが冷静に状況判断をしていると部屋の外から罵声が聞こえ、ドアに穴が空く。
「ここにもヒーローが嫌がったっ!くそっ!」
「マジか…」
複数の囚人達が監視棟に押し入るが、即座に銃を抜き無力化をする。
「どうやら、ここから早くずらかった方が良さそうだ。行くぞ」
四人は危険を感知して、監視棟を出る。
「これからどこに行くっすか?」
「俺は百合さんを助けに行く…」
「それはあながち、間違っていないみたいだな。あれを見てみろ」
指を指した方向に視線を向けると、囚人達とヒーロー達が同じ場所で乱闘をしている。
「その上を見てみろ、強力がいる屋上だ」
「良いのか?あの中に入ったら、怪我だけじゃすなまいぞ?」
「ここまで一緒に来たんだ、最後まで付き合うさ。それに任務はまだ終わってないしな」
「俺も付いて行くっす」
「しょうがない、俺も行くか。こう言うのを乗りかかった船って言うだろ?」
「お前ら、ありがとう…」
他人に感謝の意を表したのはこれで初めてだ。これが「仲間」と言うものなのか。
今までの人生で「部下」は腐るほどいたが、「信頼」は一切していなかった。
でもこいつらは自分の背中を預けても本気で思っている。
「俺が合図をしたら閃光弾を投げて時間を稼ぐ、ドラゴンお前はその一瞬で目を閉じて全力で建物まだ走れ」
「解った」
「後クマと看守は出来るだけ、あのヒーロー達と協力して出来るだけあいつらを屋上に近づけるな」
「解ったっす…」
「おいおい、俺はただの人間だぞ?でもやるけどな」
「全員、用意は良いか?」
腰のベルトから最後の閃光弾を手に取る。
「ヒーロー達は目を閉じろっ!!!」
「な、何だ?」
空に向って投げられた閃光弾が花火のように弾ける、それと同時に指示通りに目を閉じ全力で走り出す。
途中で何かにぶつかったが、そんな事はお構いなしに走り出した。
ただ彼女を助けたいから、ただ自分を変えてくれた人を助けたいから、ただ大切な人に危害を加える人間が許せないから。
感情のまま、階段を駆け上がる。
「百合さんっ!!!」
「なんだぁ、ドラゴンかよっ!てめぇっ!いったい何にしやがったっ!」
「強力…」
「彼女を放せって、お決まりの台詞を言うのかぁっ!あぁんっ!てめぇは何時から正義のヒーローになったんだ?
俺らと同じ穴の狢だろうがっ!良いからてめぇはそこで黙って見てろっ!」
その言葉を聞いた時に昔の事を思い出していた。
他の組織と自分の部下が揉め事を起こした時にけじめを付けろだの、黙っていろだの。
そんな任侠映画で聞く台詞を聞いた事を思い出していた。
「ふっはははっ!」
「な、何がおかしいっ!」
「いや、ちょっと昔の事を思い出してな。お前みたいな三流をな…」
「誰が三流だってっ!」
「お前は少しは名の知れた犯罪者だったよな?それなのに人質を盾するなんてのはテロリストの下っ端か強盗のする事だと思わないか?
お前はそいつらと同じ事をしてるんだ?自分でもそう、思わないか?なぁ、強力?」
「てめぇっ!調子に乗るじゃねぇぞっ!こっちには人質がいるんだぞッ!」
「それが三流だった言うだよ、俺はその女がどうなろうがどうでも良い。だがな悪党ならもっと堂々としていろ。
それとも俺が講義してやろうか?お前見たいな下の世界で生きて来た小悪党の為に、本物の悪党と言う奴をな?」
怪しい笑みを浮かべ、饒舌に口と頭を回す。
「ふざけるなぁっ!だれが小悪党だってっ!」
完全に頭に血が回り、人質を離しドラゴンに向かって力一杯に拳を振り下ろす。
だが平然とかわし、人質の下に駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「私のは大丈夫、ドラゴンはどうしてここに?」
「百合さんを助けに来ました」
「え、私を…」
「ひとまず、ここから離れて下さい」
「でも、あなたはどうするのっ?!相手は超能力強制停止装置を外しているのよっ?!」
その言葉を聞いた時は喜びの感情が湧き上がる。この人は自分の事を心配してくれている。
「こんな物は、くっ…」
引きちぎろうすると身体中に高圧電流が流れるがお構いなしに力任せに千切る。
「うぉぉぉぉっ!」
再び、巨体が襲って来るが片手でその拳を受け止める。
「冷静さを失った者ほど弱いものはないぞ、強力。変身…」
ドラゴンの身体が淡い輝きに包まれ、姿が変わる。
だがその姿は以前の禍々しい姿ではなく、どこか暖かさも感じる。
怪人強力、レベル大。




