女医とドラゴン
「引き続き、現場の状況でお伝えしていますが緊迫した状況は続いております…。
ん?二人の男性?いや、少年ですっ!少年がこちらが近づいて来ますっ!」
真っ直ぐな瞳の少年は待機しているヒーロー達と機動隊に向かい、言葉を発する。
「あんた達に伝えたい事があるっ!今、建物の中でヒーロースパイとドラゴンが人質を助ける為に戦っているっ!
その手伝いをしてやって欲しいっ!俺は黒牙剣っ!少しでも人手が欲しい、頼むっ!」
その必死な姿を見た一人のヒーローは少年の肩を力強く掴み、口を開く。
「もちろんだっ!君は助けを呼ぶ為に我々の所に危険を冒して来たのだろう?
だったら、それに答えるのが我々だっ!皆、行くぞっ!ここでじっとしていたらヒーローの名がすたるぞ!」
「良し、行くかっ!」
「勇気がある少年だ…」
その言葉にその場のヒーロー全員が賛同。多くの英雄達が足並みを揃え、同じ場所へ行進を始める。
その理由は至って簡単だ、「誰か」が助けを求めているからだ。
それがヒーローだ。誰でも持っている感情なのだ、困っている人が目の前にいる。
それだけの理由でその身を危険に晒す、誰もが愚かな行為で報酬も無いかもしれない。
それでも彼らは危機的状況を笑い飛ばすだろう。
どんなにその身が辛くても、どんなにその身が傷ついても、一瞬で問題を解決する力を持っている。
だから、ヒーローなのだ。
その力に驕る事なく絶対的な誇りを持つ悪と戦う英雄達を引き連れ、少年は再び更生施設に向かう。
今度は正面からだ。
「見て下さいっ!ヒーロー達が少年の後に続き、更生施設に向かって行きますっ!」
その様子を監視棟のテレビで見ていた、一人の男が焦りを見せる。
「不味いちゅっ!強力さんに連絡しなくてはっ!」
近くにある通信機を取る。
『どうした?』
「強力さん不味いでちゅっ!なぜかヒーロー達がこっちに向って来ているでちゅっ!」
『何っ!こっちには人質がいるんだぞっ!蜘蛛はどうしたっ!』
「さっきから様子がおかしいんでちゅっ!蜘蛛からも連絡が来ないし、他の連中かも連絡が途絶えたでちゅっ!」
『何だってっ?!くそっ!お前はいったい今まで何してたんだっ!』
「そ、そんな事を言われてもこま…」
『おい、どうした…』
後ろから冷たく硬い感触が後頭部に辺り、額に冷たい汗が急に流れ始める。
「そのまま通信を切れ」
「何でもないでちゅ。そ、それじゃまた後で連絡するでちゅ…」
『ちょっしま…』
恐怖で通信を無理やり切断して、通信機の電源を切る。
「両手を挙げて、ゆっくりこちらを向け。こちらの指示に従えば、命は取らない」
冷たい声の方向に椅子を向ける。
「お、お前はっ?!ミスタースパイっ?!それにドラゴンっ?!どうしてここにいるんでちゅかっ?!」
「お前はこちらの質問に答えろ…」
さらに電流式警棒を首元に付きつけ、強迫を続ける。
「ひっ?!わわわ、解った…」
「なぜ、お前らはこんな大掛かりな事を起こした?」
「そ、それは脱獄でちゅ…」
「なぜだ?更生プログラムを受けていれば、ここから出られるはずだ」
「それは表向きでちゅ、結局ここは犯罪者を閉じ込める鳥篭。ここから出られる奴はヒーロー委員会が利用価値があると思った人間だけ。
お前達はここから年間、どれだけ出られるか知ってるでちゅか?」
「何?そんな事は講義でも聞いてない。だからじいが来たのか…」
「年間でここを出る人間はたったの十二人でゅ…」
「だから脱獄計画を企てたのか?」
「おいらはここにもう五年もいるでちゅっ!初めは真面目にやってたけど、駄目だったでちゅっ!
周りから話を聞いた時に五年でここを出られなかった場合は一生ここで過ごす事になるって言う話しでちゅっ!
そんな時に強力さんに脱獄の話を持ちかけられでちゅっ!」
「それでこんな事をやったのか?」
「そうでちゅよっ!お前見たいなお坊ちゃまには解らないちゅけどねっ!」
「そんな下らない理由でこんな大勢を巻き込んだのか…」
「お前に言われたくないでちゅっ!怪人クラブで散々好き勝手やって捕まった奴にっ!」
「なぜその労力を社会貢献に回そうと思わなかった?」
「どうせ、何をやっても無駄でちゅっ!どうせ、おいらは日陰者でちゅっ!何したって美味く行かな…」
その言葉を聞いた時、拳がモニターの画面を割っていた。
「ひっ…」
「そうだよ。俺は怪人クラブのお坊ちゃんで幹部をやっていた、それにヒーローに捕まったのも事実だ。
でも本気で自分も変えようと思うなら諦めるなっ!自分で自分を否定するなっ!
まず自分を信じろっ!きっかけは何でも良い、こんな俺でも変われるきっかけをくれた人がいるっ!」
「おい、そいつ気絶しているぞ」
「何?」
ネズミが気絶したのを確認した時、テレビから衝撃的な映像が流れる。
『ご覧下さいっ!一人の囚人が女性を人質に屋上に上がっていますっ!』
『早く、ヘリを持って来いっ!この女の命がどうなっても良いのかっ!』
その映像を見て一言零れる。
「百合さん…」




