脱走計画その二
更生施設には刑務所と同じく面会をする事が出来る。
訪問者からの差し入れも受け取る事が出来るが、もちろんX線で荷物検査を受ける事になるが。
それは当たり前の話だが、凶器の類や脱獄の思わせる物が入っていないか調べる。
一人のスーツを着用した、紳士と見られるご老人がしっかりとした足取りで土を踏む。
「ドラゴンとの面会を予約をしていた者ですが」
「はい、そこにかけてお待ち下さい。今、担当の者を呼んで来ますので」
ドラゴンとの面会を望むこの老人、昔から怪人クラブのボスに使える執事である。
椅子に腰を掛けていると看守が声をかける。
「お待たせしました。こちらへ…」
「はい、ありがとうございます」
「念の為にお聞きますが、差し入れなどはございますか?」
「はい、手紙が一通だけございます」
「そうですか、お手数ですが荷物検査を受けてください。規則ですから」
「そうですか、それではお願いします」
「それではお預かりします」
簡単な検査が終わり、荷物が返却されるが警戒されているようだ。
当たり前か、日本で良く思われていない組織の人間の使いが訪れているだから。
「ここになります、制限時間は30分です」
「はい、ありがとうございます」
通された部屋には透明な特殊硝子で仕切られていてる。はっきり言って、刑務所の面会室と差し控えない。
老人はゆっくりと椅子に向かい、腰を深く掛け一声かける。
「お久しぶりでございます、ドラゴン様」
「迷惑をかけるな、じい」
「迷惑だなんて、微塵も思っておりません。私はぼっちゃまの為ならこの世の最果でも行く事覚悟でごいざいます」
「そうだな、お前はそう言う奴だったな。それで、用件は何だ?」
「そうだった、お父様からお手紙と伝言がございます」
「伝言?父上が?」
「はい、何時でも家に戻って来いとの事です」
「悪いが今の所はあの家に戻る気は無いと伝えておいてくれ。じいの気遣いには心の底から感謝している」
「ぼっちゃま、短い間に変わられましたね。それとこれをお受け取り下さい」
硝子の隙間から一枚の手紙が手渡される。
「確かに受け取った、ありがとう」
「そろそろお時間ですので、退室願います」
「解りました、失礼させて頂きます。ぼっちゃま、時間が出来ましたらお邪魔いたします。それでは失礼いたします」
面会が終わり、自室に戻りベットで横になり手紙の文章に目を通す。
『拝啓、ドラゴン様。お久しぶりでございます、お元気ですか?急な話でございますが、お父上がドラゴン様を更生施設から出す準備があると仰ってました。
その返事を三日後、再び私が面会に訪れるまでに返事を考えて下さい。それでは三日後』
その文書を読んで若干、嫌気が指し溜息を付く。
「はぁ…。何時もの事だな、あの人の過保護ぷりも」
そんな独り言を呟きペンを握り、言葉を綴る。
「おい。ドラゴン、消灯の時間だ。ん?珍しいな、お前が手紙を書いてるんなんて」
何時もの看守が様子を覗いて来る。
「あぁ。今日、久しぶりに身内が来たんでな」
「お前、家族居たのか?」
「俺にだって、家族はいるぞ。何だ、以外だったか?」
「俺もこう見えて、結婚してるんだ」
「話を聞いて欲しいのか?消灯の時間じゃないのか?」
「何だよ、たまには聞いてくれたって良いだろ?全く真面目だな、お前は」
「約束したからな」
「約束?何だ~、これか」
にやにやしながら、小指立てる。
「そうだな。俺は真面目になれたか?」
「えっ?!彼女いるのかよ…。以外だな」
「正確には女じゃ無い」
「お前、可愛い所があるな。それで、相手は誰だ?」
「くっ、お前は小学生か!早く寝ろっ!」
「そうだな、話過ぎたな。そろそろ寝るか、また明日な」
看守が去る。その足音が冷たいコンクリートに囲まれた空間に響き渡る。
その音はすっかり聞きなれた物になり、日常の一部になっている。
一つ違う所がある、それはこんなに長く看守と話をしたのは初めてだ。
更生施設に収容されて三ヶ月、本当に色々あった。
入ったばかりは周りの全員が敵でとにかく神経を尖らせ、その苛立ちを誰かにぶつけていた。
その度に喧嘩をして怪我をした、やっている事はその変のゴロツキと一緒だ。
その原因はもう解っている、自分が怪人クラブのボスの息子で元幹部だったと言うプライドがあったからだ。
自分の中では変なプライドは無いと否定して来たが、今まで父親の敷いたレールの上を知らず知らずの内に歩いていた。
それに生まれ付きの超能力が他人よりも強力と言う事もあり、自分はすごい人間だと思い込んでいた。
だがあのシルバーファングに捕まり、ここに入って自分の小ささを思い知った。
そこで知った。誰も自分自身を見ていないと、あくまでボスの息子、組織の幹部と言う肩書きを他人はずっと見て来た。
そんな自分に変わるきっかけをくれたのが、百合さんだ。
父親の権力でここを出た所で元の生活に逆戻りだ、そんな人生を変えたい。
百合さんの為に。他人の為に自分の人生を変えようとしているのは初めてだ。
この願いが叶うなら、自分の人生を百合さんと一緒に過ごしたい。
なら、やる事はたった一つだけだ。
俺は怪人からヒーローになると決めた、それが彼女と約束だ。
困難な事だとは解っているが、もう決めた事だ。
そして、約束の三日が過ぎた。
「ぼっちゃま、おかげんはどうですか?」
「俺は問題ない、父上にこの手紙を渡して欲しい」
「解りました、それで…」
「じい、俺は目標が出来た」
「目標でございますか?ぼっちゃまがそのような事を申し上げるなんて、珍しいですね」
「俺はヒーローになる」
「い、今何とっ?!そ、それはお父上が何と申すか…」
「もう決めた事だ、すまない。それと父上に伝えてくれ、俺は正々堂々と家に帰りたい。もちろんヒーローになってからだ。
じいには心配をかけると思うが、俺は真剣なんだ。解ってくれ」
「ぼっちゃま…、本当に変わられたのですね。いや、以前より大きくなられた。じいは嬉しいです。解りました、お父上には伝えておきます」
「ありがとう…、何時もわがままばかり」
「いいえ、それはわがままではありませんよ。それでは失礼します、またお時間がありましたら」




