更生施設での生活その二
日が明るい時の話だ、更生施設にも昼休みが存在する。
更生施設の休み時間は利用者達の精神を健全に保つ為にある程度の自由が許されている。
外出する者、グラウンドで運動する者、静かに過ごす者、昼寝をしている者。
各々がしたい事が出来る。
無理な規則を強要する事より、習慣として覚えてもらう。
それが更生施設の方針だ。
「おいっ!何、ガン付けんてんだ?」
「あ?なんだよ?俺に何か用か?」
誰が見ても、喧嘩を売っているようにしか見えない。
「不味いぞ、誰か監視読んで来い」
「俺、読んで来るよっ!」
野次馬の一人が監視を呼びに行こうと走り出そうとした時だ。
「ぐぁ…」
喧嘩を売った方が突然苦しみ出し、倒れたのだ。
「あ~あ、力はご法度って知らなねぇ~のかい?良く見たら新人だな。
監視さん、こいつを医務室に連れて行って下さい」
「どうした?超能力を使ってた馬鹿者がいたのか?」
突然、人が倒れた原因は利用者全員が首に付けている「超能力発動停止装置」だ。
これは更生施設内での使用を防止する為に開発された、装置だ。
これを付けた状態で能力を使用すると、身体中に強力な電流が流れる仕組みになっている。
「ん?何の騒ぎだ?」
「どうした?」
「どうも、超能力を使った奴がいるみたいっすね~」
ドラゴン達は木陰で読書をしていた。
「それにしても、ドラゴンさんは何時も難しい本ばかり読んでるっすね」
「たまにはお前も、本を読んだらどうだ?教養が広がるぞ」
「哲学書は頭は痛くなるんっすよね~」
「これは哲学書では無い。善と悪とは何かと言う内容だ、それに武士道は何かと言う本もあるぞ」
「なおさら、頭が痛いっす」
「図体はでかいんだ、次はその頭を良くしろ」
「はっはは、手厳しいですね~」
二人が日常を過ごしていると、人影が近づいて来る。
「ドラゴンだな?」
「お前は?」
「俺は強力の使いだ、名前くらいは知っているな?」
「あぁ…、数年前にヒーローに捕まったと聞いたが?」
「そのお方が及びだ、付いて来い」
「断ると言ったら?」
「頭が良いお前なら、解るだろ?」
チンピラに言われるがままに周りを見渡すと数人の男達に囲まれている。
「良いだろう…。だが、こいつには手を出すな」
「理解が早くて助かる、こっちだ」
強力の使いとやらに付いて行くと、運動場の裏に連れて行かれる。
「連れて来ました、ボス」
「よう…、お前がドラゴンだな」
コンクリートの塀に囲まれ、瓦礫の山の上に重く腰を掛けるのは大男。
「そうだ、俺に何の用だ?」
口を開くと取り巻きが食って掛かる。
「おいっ!てめぇっ!強力さんに向かって、何て口の聞き方だっ!」
「おい、止めろ。こいつは怪人クラブのボスの息子だ…」
「「えっ!!」」
その発言にその場が凍り付く。
この雰囲気には慣れている、何時も自分は「特別扱い」だ。
自分は何もしなくても父親の七光りで何でも手に入り、周りは勝手に恐怖する。
「それで俺に何の用だ?」
「俺と手を組まないか?ここでの生活が良くなるぞ?」
「俺はそんな物に興味は無い。それに更生カリキュラムをこなせば、ここを出る事が出来る」
「断るのか?」
「あぁ、俺は手を組まない。他に用事が無いなら失礼する」
「おい、ちょっと待て…」
「俺は二度は言わん…」
ドスが聞いた声で口開くと空気が重くなる。
「ひっ!」
その日の夕方、何時ものように作業が終わり夕食を取っていると食堂が騒がしい。
「おいっ!てめぇっ!肩にぶつかったぞっ!」
「はぁっ!勝手にぶつかって来たんじゃねぇかよっ!」
どうやら、喧嘩が始まったが自分達には関係ないと知らぬ顔をする。
すると一人の男が机に倒れて来る。
「いってぇなっ!」
「ちょっ、ちょっと!何するんっすかっ?!」
「おい、お前誰だ?」
冷たい視線と重たい声で言葉にする。
「えっ?えっ?」
どうやら、クマは内容を理解していない。
「おい、答えろ…」
「くっ…、何でばれたっ!くそっ!」
微動だにせず、冷静で冷酷に言葉を並べる。
「良いか?もう一度聞くぞ、お前は誰だ?第一棟の人間ではないな?」
「くそっ!お前が悪いんだからなっ!」
男からポケットから刃物を取り出し、ドラゴンに向ける。
「くっ!」
それを条件反射で弾く。
その隙に怪しい男が逃げる。
「あ~あ、飯が台無しっすね~。それより、怪我はないっすか?」
「あ…、そうだな」
怪我をして、心臓の鼓動が強くなる。
「ドラゴン君、また喧嘩?」
「ち、違います…。さっき怪しい男に食堂で襲われました」
「そうなの?まぁ~、気を付けてね。消毒してテープ貼っとくから」
治療をしてくれている女性、成川百合30歳。更生施設第一棟で女医をしている。
綺麗で優しく利用者に大人気である。
自分を変えてくれた女性であり、今一番大切な人である。
一言で言うなら、この人に恋をしている。
「そうなの?何より、喧嘩をしなくなった事が一番ね」
「は、はいっ!無意味な闘争は何も生みませんし、リスクが大きすぎますから…」
「ふっふふ、その喋り方は変わらないのね。ここの生活は慣れた?」
「は、はいっ!百合先生のおかげで大分慣れました」
「そう、真面目にやっているようね」
「それでは失礼しますっ!」
俺は彼女と一つの約束をしている、更生施設を出てヒーローになったらデートをしてくれると言う約束。
それを完遂する為に日々を過ごしている、怪人クラブに席を置いていた時は抱かなかった感情だった。
彼女の事を思うと胸が苦しくなり、心臓の鼓動が早くなる。
前までは金と権力で女はいくらでも寄って来たが、彼女はそんな自分に臆する事なく誰とでも平等に接してくれる。
今までの自分が恥ずかしく思えてくる程に可憐で綺麗で何より、心が綺麗な彼女が愛おしい。
この更生期間を完遂し、ヒーローになる。これが今の自分の目標だ。




