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株式会社ヒーロー  作者: ボサボサ
おじさんヒーロー誕生
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初仕事

雑務課に人事部のおじさんと足を踏み入れると、そこには白髪頭の男が椅子にだらしなく腰を掛け寝ていた。


「おい!おきんか!馬鹿者!」


頭を強く叩くと鼻提灯が割れ、眠そうな顔で口を開く。


「あ~、誰だよ…」


そして、また眠りに付く。


「寝るな!昨日言ってた、新人を連れて来たぞ!白牙!後は任せたぞ!」


少し怒った様子でおじさんは部屋から出て行ってしまい、一人になる。


「ん~、仕方ねぇな~」


扉の閉まる音で目が覚めたのか、気だるく身体を起こす。

その様子が衝撃的過ぎて、少し同じ場所で硬直していた。


「それであんた誰だっけ?」

「え?!何も聞いてないんですか?!」


そのだらしない姿は一流企業に勤めている人間とは信じがたいがここはそのビルの中だ。


「私は今日付けで雑務課に配属になりました、加藤努です。よろしくお願いします」

「あ~、言ってたような気がする…」


そして、また寝る。


「ちょっと!寝ないで下さいよ!」

「まだ、俺はおねむの時間なんだよ!」

「もう、八時過ぎてますよ!」

「仕方ないな…、ちょっと待ってろ」


椅子から立ち上がり、歩き出す。


「ちょっと、どこに行くんですか?」

「顔洗い決まってるだろが」


散らかった部屋の奥に洗面所と書かれた扉に入る。


「それで、あんた誰?」

「だから!言ったでしょ!今日付けで配属になった、加藤努ですって!」

「あぁ…。そんな事を昨日聞いたな…」


書類の山の中を漁り、一枚の用紙を手に取る。


「これだ!ふ~ん。いかにも、真面目って感じの経歴だな」


書類に目を通す表情は雰囲気を持っている、この感じは幾つになってもなれない。

この沈黙が嫌いなのだ。これで大抵、下される審判はやり直し。

だが、これはあくまで経歴を見ているだけ。


用紙を見を終えると、一言口にする。


「さてと、パトロールに行くから付いて来い」

「え?は、はい!」


その言葉にヒーローぽっい感じを覚え、少し興奮する。


二人は雑務課を出て、外ら向かう。


時刻は朝の八時過ぎ、行き交う人々は通勤や通学で急ぎ足になる。

少し前の自分もこの風景の一部になっていた。

この風景を外から、眺めていると誰もが辛そうな表情をしている。

当たり前か。毎日スーツを着て、必死になって会社と会社の間を行き来して、何かあれば頭を下げている。

そんな事を続けて、楽しい訳が無い。

だが、辛くても、苦しくても、家族や守りたいものの為に歯を食いしばって耐えてる。


「以上無し、次行くぞ」

「は、はい」


次に足を向けたのは公園だ。朝の公園に訪れたのは何十年ぶりだ。

すると、女の子が一人寄って来た。


「あ!白牙びゃくがのおじちゃんだ!」


ぱたぱたと音を立てて寄って来るその姿は自分の娘が重なって見える。


「お!みき、今日もお母さんと一緒か!」

「うん!朝のお散歩してるの!この人誰~」

「こいつか?今日から俺と一緒に働く事になった、おじさんだ」

「ふ~ん」

「お譲ちゃん、よろしくね。僕はね、加藤って言うんだ」

「よろしくね、おじさん!」


おじさんと言う単語が妙に強調されて、少しショックを受ける。


「みきー」

「あ!ママだ!」


少女の母親だと思われる、女性が駆け寄って来る。


「白牙さん、おはようございます。娘が何時もお世話になってます、あら?そちらのお方は?」

「今日から、入った新人ですよ」

「そうなんですか?頑張って下さいね。これで失礼します」

「おじさん、ばいばい~」


軽い挨拶を済ませ、親子二人は立ち去る。


「次は商店街に行くぞ」


二人は駅前の商店街に足を向ける。


「お、白牙ちゃん!今日もサボりかい!」

「ちげぇよ、仕事だよ!パトロール!」


すれ違う人達が皆、挨拶をして行く。

これは自分が感じている事なのだが、この人はだらしない人間だが人徳に優れてのかもしれない。


「よ~、白ちゃん!今日も見回りかい?ちゃんと働くのよ」

「うるせぇよ!仕事してるよ!次行くぞ」


しばらく歩いていると、下町に辿り着く。

一軒の民家に辿り着く。


「ここって、ただの民家なんじゃ?」

「まぁ、良いから入るぞ」

「え?!良いんですか!」

「あら、白ちゃんじゃない」


声がした方向にはおばちゃんと言って良い、人が草取りをしていた。


気が付けば、昼食を三人を食べていた。


「あら、今日から白ちゃん所に?この子だらしないから、あなた見たいな人が来てくれて助かるな」

「そうですか?僕なんて、大した事ないですよ。この間、リストラされて妻に逃げれられたんですから」

「え?加藤さん、奥さんいたんかい?」

「はい。一人ですが娘もいます」

「そうかい!それで、娘さんはいくつなんだい?」

「十五歳になったばかりで、今年高校に上がったばかりです」

「可愛い盛りだねぇ」

「そうなんですが、妻に連れて行かれちゃって…」

「それは不味い事を聞いちゃったね…」

「良いんです。べらへら喋った、こっちも悪いですから」

「こんな真面目そうな旦那をほぽって、どこに行ったんだか…」

「若い男とよろしくやってんじゃねぇの?」

「あんた馬鹿な事言ってんじゃないよ!これだから独りもんは!あんたは早く、嫁さんでも貰って落ち着け」

「べ、別に一人でも不自由じゃね~し!」


三人で雑談をしていると、二時間が経過していた。


「そろそろ、行くわ」

「そう?気をつけるんだよ」

「それでは失礼します、お昼ご馳走様でした」

「良いんだよ、気にせずに何時でも来て良いから。白ちゃん何て、ほぼ毎日来てるから」

「じゃな、また」


帰り道。夕日が落ちる町を二人で歩く、何故か満足した気持ちだ。

今日出社して殆ど、何もしていない。

前の会社は朝から晩まで外回りをして、契約を取れずに何度も上司に頭を下げる毎日。

それが終われば書類の作成。上司に確認をして駄目であればまた作り直し、部下達と頭を抱えたものだ。

それでも、充実はしていたと思う。家族がいたから、それが支えになっていた。

今は何もないそんな空っぽの自分だが、今は何故か満足している。

でも想像していたのと大分違うがこれもありなんじゃないかと思えてくる。


「初の仕事はどうだった?」

「え?」

「正直、地味だったろ?」


突然の言葉に少し戸惑う。


「そ、そうですね…。もっと、こうヒーローぽっいの想像してました」

「普通そうだよな。でもなヒーローは常に戦ってる訳じゃない、怪人が毎日出るわけじゃないしな。

それにヒーローも普通の人間だぞ?外から見ればかっこいいかもしれないが、会社に戻れば書類整理とか営業にだつって回ってる奴もいる。

世間が思ってるほど、俺達は特別じゃないと思うけどな。それに人々の触れ合いも立派な仕事だ。

あんたも前の会社で教わったろ?」


この言葉を聞いて、入社当時の事を思い出していた。

入社式で社長が人と人の繋がりは何よりの財産になると話していた。

それを今、思い出した。

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