ブラッククロウ攻略その八
山道を歩くのは何年振りだろう、小学生の遠足以来だ。
あの時は身軽な服装と弁当とお菓子が詰め込まれたリュックを背負い、友人達と談笑しながら歩いたものだ。
今は赤い鎧を纏い、まるで戦国時代の合戦にでも参加をする気分だ。
当時の武士の心情はきっと何かを重たい物を背負って戦ったのだろう。
今の自分の背中にも生活言う言葉が乗っかっている。
人に聞かせたら笑われるかもしれない、でも自分の戦う動機はこれで良い。
人によって戦う形は違う。武器を取って戦う、仕事をする、自分と戦う。
人の世に仇名す悪党を滅ぼす為に戦う、自分の信念を貫く為に。
最後に救いたい人間の為に戦う。
誰かを救いたいと言う感情はただの同情だろうか。
自分の中でそんな疑問が浮かび考えてしまう。
自分の娘と同じ歳の少年を重ねて、勝手に使命感に燃えている。
「この子」を「不幸」から救ってあげたい。
「はぁっ…、はぁっ…」
「何だ?部長、歳か?」
「い、いや!違いますよ!このスーツを着てると暑いんですよっ!」
「雑務課の二人は暢気でござるな~、ここはもう敵の本陣でござると言うのに…」
「三人も静かに…、何かいるぞ」
山道を進んでいると何か足音が聞こえて来る、その方向は不明。
気配と音に敏感なミスター忍者ですら、感知する事が出来なかったと言う事は非常に不味い。
「全員、警戒しろ!!」
白牙の声で全員が殺気立つ。
「やっぱり来たか…、白牙」
「鴉!やっぱり、お前来てたのか…」
全員が殺気立っている中を平気で木の中を飛びまわっている。
「白牙、俺達の邪魔はするなよ。邪魔すれば殺す」
その瞳は殺意が宿っていた。そして、その隣には加藤が心配している、黒牙の姿があった。
「黒牙君!」
加藤が思わず、声が出すが少し顔を後ろに向けそのまま消えた。
「い、今のが怪人鴉とブラッククロウでござるか…」
「何かとんでもない連中だったな…。あいつらも相手にしなきゃいけないのか」
「今はあいつらの事を考えるな、出会ったら考えろ。進むぞ」
四人は山道を進む。すると、轟音が響いて来ると同時に地震のような振動を感じる。
「なんだっ?!この音?!えっ?!地震?」
「多分、あいつらが先に到着したんだろう」
「えっ、あの三人ってそんなに強かったでござるか?」
「お前、何言ってるんだよ。内の四強だぞ?」
「そうでござったな」
暢気な会話をしていると、山道を出たようだ。
山道を越えた光景は四人の口を塞ぐのに容易で非現実がそこにある。
「何だよあれ!聞いてねぇよ!」
「いいから、逃げるぞ!あんな連中相手にしてたら、命がいくつあっても足りねぇよ!」
「貴様ら、敵前逃亡だぞ!待て!」
見ているこちら側が申し訳ない気持ちになるのはなぜだろうか。
「怪人クラブが聞いて呆れるわ!」
ミスサイコの声と共に木が空から降り注ぎ、地上の戦闘員達が下敷きにされて行く。
だが建物は一切傷ついていない。それはやはり、三人の配慮と能力によるものだろう。
「おいおい。サイ子、あんまりやりすぎるなよ。環境破壊になっちまう」
「うるさいわね!解ってるわよ!後で元に戻しておくわよ!」
「相変わらず、お二人は仲が良いんですね」
「「良くないっ!」
「ほら、息がぴったりだ」
そのミスターアタックが二人を茶化していると一人の男が向かって来る。
「貴様ら、覚悟は出来てるんだろうな?」
スーツ姿の中年男が一人、物凄い迫力で立っている。
こんな大型台風見たいな場所で平気な顔で立っている人間が普通の人間ではない。
「あら、第一ステージのボス登場ね」
「ボスの為に貴様らの命を貰う!」
怪人クラブA市支部幹部怪人トルネード、レベル大。
「誰が誰の命を貰うって?」
「な…、何?!ぐはっ!」
トルネードが威勢良く口を開いた瞬間、見事な鳩尾が決まる。
「くっ…、動きが見えなかった。これがトップ20以内の力か…」
「ここには俺達と敵だけだ。何も加減はいらねぇ…」
その迫力がある声は他でもない、ミスターマッスルだ。
マッスルの高速移動は普段見る事を出来ない、街中で戦闘を行うとどうしても被害が出てしまう。
被害を最小限に抑えるために力を加減して戦っている。
「貴様のデータにこんなのは載ってなかったぞ!」
「何がデータだ、そんな物はヒーローに通用しねぇよ」
「くっ!」
突然、一直線の竜巻がマッスルに向けて放たれる。
「何っ?!いない!」
「俺はここだよ!マッスルボディープレス!」
巨漢が上空から早い速度で落下して来る。
「やっぱ当たらないか…」
「そんな子供騙しに私が引っかかるか、これでもこの地区の幹部だぞ」
「やる気になったか…、こっちも本気を出すか」
突然トルネードの雰囲気が変わり上着を投げ捨て、ネクタイを緩める。
「はっ!」
小さい竜巻が複数発生して、マッスルの周りを取り囲む。
中心である獲物に向かって竜巻が生き物のように歩いて行き、風速の影響で土が舞う。
「頭良いな、あんた。でもな、俺にそんな小細工は通用しねぇぜ!」
音速で突っ込むがこちらの動きについて来る。
「同感だ、私も小細工が苦手でね…」
「な…」
この数秒のやりとりの間に巨漢が吹っ飛ばされる。
「やるじゃねぇか…、幹部ぽっくなって来たじゃなぇか」
「私にも貫く信念と守る物がある!貴様らにも正義があるだろうが、それはここにいる人間が持っている物だ!ヒーローだけが持ってると思うなよ!」
「へぇ…、クサイ事言うじゃねぇか。俺もな貫く信念と正義があるんだよ、お前ら悪者に負けてられるか!」
一直線に向かって来るその姿に一瞬見とれてしまった、何故だろう。
その姿が美しく見えた、その真っ直ぐな目が羨ましく見えた、その悪を許さない意思が美しく思えた。
そうだ、これが幼い頃に憧れたヒーローだ。何故自分はなりたい「自分」にならかったのか、答えはとっくに解っていた。
自分に負けたのだ、ヒーローになれなかった。その拗ねた根性で怪人クラブに就職した。
子供の頃に見ていたヒーロー番組で敗れる悪役の表情は何時も爽やかだった。
子供の頃は理解出来なかったが、今理解出来た。
「ぐはっ…!」
気づいたら空を眺めていた、テレビの中の悪役もこんな景色を見ていたのだろう。
ボロボロになって悔しいが、何故か立ち上がる気にはなれなかった。
まるでスポーツで負けたような爽快感も残っている。
身体に中にあった悪い物が全部出た見たいだ。
「派手にやったな~」
「白か、久しぶりに本気になったわ」
「だ、大丈夫ですか?!ボロボロですよ?!」
「部長、何時もの事だぜ?身体はボロボロだが、以外に元気だぜ」
「さすが、筋肉脳みそのマッスル殿でござるな~」
「誰が脳筋だ!たまに頭使うわ!」
何時ものように会話するが、実際マッスルの身体はボロボロで立っているだけで精一杯だ。
「喋ってる場合じゃないわよ、敵の本陣は目の前よ」
七人の前に聳え立つ魔王城の様な空気をかもし出す、建物は攻略対象「研究所」
「行くか」




