雑務課
季節は四月に入ったばかりで周りには新社会人と言った、初々しい若者が緊張した表情が手に取るように解る。
そんな中に混じって、白髪交じりの疲れている顔をぶら下げたおっさんが一人。
「ふぅ…」
溜息を付くがこれは現在の生活に嫌気が指しているわけでは無い。
新しい生活に胸が高鳴っているからだ。
これから始まる出来事に恥ずかしいがときめていてる。
株式会社ヒーローの大きな入り口の前に立ちながらビルを見上げる。
本当に自分が二十年前に就職したばかりにタイムスリップした様に感じる。
この大きな存在に少し戸惑うが今日からここの一員になるのだから、気を引き締める。
「おはようございます~」
周囲の人間が建前上の挨拶を交わして行く中、顔見知りが居ない自分はちょっと気まずつい。
「お。あんた、内に就職決まったのか!」
ビルに入ると先日、ぶつかった清掃員のおじさんが声をかけて来る。
「あ、この間の!はい!おかげさまで!」
余りの嬉しさで大きな声で返事をしてしまう。
「元気が良いな…。その調子で頑張って」
「はい!失礼します!」
そのまま受付に向かうと、恐らく新入社員と思われる人がもう一人説明を受けていた。
近づくと、若くて綺麗な黒髪をした女性。
「おはようございます」
「おはようございます。あの~、連絡を頂いた加藤ですけど…」
「加藤様ですね、配属部署の案内がありますので人事部に向かって下さい。
彼女も人事部まで一緒なのですが、ご迷惑でなければご一緒でも宜しいでしょうか?」
「え?別に構わないです」
年甲斐もなく、綺麗な女性を前に緊張してしまう。
「よ、よろしくおねがいします」
「じゃ、行きますか」
「人事部はこの二階にありまので、直ぐに解ると思います」
この綺麗で若い女性と短い時間だが一緒にいれるとは嬉しい、しかも良い匂い。
「あの~。もしかして、私と同じ新入社員ですか?」
目的地に向かっている、最中に嬉しくも口を開いたのは彼女だった。
「え?そうです。いや~、この歳でリストラされちゃって」
「え!そうなんですか?!これは失礼な事を聞いてしまって、すいません」
「君が謝る事じゃないよ、それに今時リストラなんて珍しい事じゃないしね。
あ、そう言えば君の名前は?私は加藤努って言うんだ、よろしく」
「私は相川桜って言います、よろしくお願いします」
「言え、こちらこそ」
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行き、人事部に到着する。
「失礼します」
ドアをノックして、入る。
「どうぞ」
「あ、この間の」
「ようこそ、株式会社ヒーローへ。それでは加藤君と相川君、早速で悪いが君達の配属部署に案内するよ」
二人は人事部のおじさんの後に続き、部屋を後にする。
「まずは相川君を案内するよ。この会社の部署は色々あってね、開発部は一番規模も大きいし広い。
それに私達は君に期待している。こんな若くて有能な技術者が我が社に来てくれて、嬉しい」
「そんな事ないですよ…」
「はっはは!とにかく、頑張ってくれたまえ!ここが今日から君のオフィスだ。君、彼女を室長の所まで案内してくれ」
相川さんはその辺いた研究員と一緒に行ってしまった。名残惜しいが仕方ない。
それにしても開発部は一言で言うならお洒落だ、開放的でそこら中にボードが設置してある。
誰かが何かを思い付いたら、直ぐに書き込めるようにしてある。
開発部と言うから、静かで暗い場所なのかと思っていたが百八十度違う。
「加藤君、君の案内するよ」
急に人事部のおじさんの態度が変わる。気持ちは解るが露骨に出すのは止めて欲しい。
「君の配属先は雑務課と言うんだ」
「雑務課?」
「付いてくれば解る」
後を付いて行くと、地下に付いた。
なんかほこりぽっいし、薄暗い。第一印象ははっきり言って最悪の一言だ。
「ここだ」
「え?ここですか?」
いかにも物置の様な入り口の前で立ち止まる。
「入るぞ、白牙」
「う~ん。むにゃむにゃ…」
そこには完全に寝ている、白髪頭の人が居た。