ブラッククロウ攻略その二
株式会社ヒーローに入社して始めての連休、やる事が無い。
「ふぁ~」
「お父さん、行って来ま~す」
「あぁ、行ってらっしゃい」
娘の登校姿をジャージ姿で見送る。その姿はただのおじさんだ。
娘を見送り、朝のワイドショーをコーヒーをすすりながら何となく眺める。
『いや~、厚生施設も変わりましたね~。近所の農家の手伝いをさせる何てね~』
『人と接する事で社会復帰へと意識を持って行く事が目的だと聞いています。それと農家はお年寄りが多いですからね。
その辺は大変喜ばれてと聞いています。これはまるで不良がスポーツを通して更生して行く見たいですね、良い話だと思いますよ』
『そういえば!最近、ドラゴンが更生施設に入ったらしいですよ!』
『えっ!あのドラゴンがですか?!捕まえたのはいったい誰ですか!?』
『確かA市支社のヒーローしか掲載されてないですね…。たぶん、ミスターマッスルかミスター侍でしょう』
『いやいや、ミスサイコかもしれませんよ。彼女もかなり強いですからね』
聞き流す音をテレビが鳴らす。
「ふぁ~」
サラリーマン時代の癖で休みの時はやる事が無い。
趣味と言う趣味が無いのが仕事人間の痛い所だ。何か楽しみがあれば、家族と一緒に共有できたかもしれない。
そんな薄暗い思考が頭の中を駆け巡る。
「あー!駄目駄目だ!じっとしてると駄目だ!外行こう!」
垂れ流しのテレビを消して、外に行く。
仕事以外で外出するのは久しぶりだ、何時も行きなれた道でスーツ姿と学生服が行き来する。
何となく歩いていると商店街にいた。
「あ!部長さんじゃないか!今日は休みかい?」
「あ、どうも…」
商店街の住人が声をかけて来る、何時もの光景だが違う気がする。
何となく歩いていると、気が付くと商店街を出ていた。
すると、スーツ姿の人間が多々見える。
この光景は数ヶ月前も自分もこの風景の一部だった事を思い出す。
そして、何となく歩いていると懐かしいビル街に辿り付いた。
「もしかして、加藤さんですか!」
とあるビルの前に通り過ぎると、懐かしい声が耳に入って来た。
「もしかして田中!?」
「久しぶりだな、これから仕事か?」
「そうですね、元気そうで何よりですよ!」
「何とかやってるよ」
「どこかに再就職したんですか?」
「恥ずかしいけど、ヒーローに就職したんだよ」
「え?!あの会社に?!本当ですか…、話が違うな」
田中が表情に少しに影が掛かる。
「部長、会議が始まるので急いで下さい」
「え?!お前、部長になったのか!」
「まぁ、それではまた機会があれば。この辺で失礼します」
その姿は自分が面倒を見ていた頃とは全く正反対だ。
まだ自分が会社に在籍していた頃を思い出す。
あの時の頃は今でも鮮明に覚えている、田中が入社したばかりの頃は何時も自信なさげな表情を作っていた。
それが今では、自信に溢れ返っていた。しかも、あの二十代で部長。
羨ましくないと言えば嘘になる。自分は四十で課長でリストラになった。
そんな思考がぐるぐると回るが、気にせずに歩き出す。
「何か食べるか…」
再び歩き出し、ビル街を進む。
歩き進むと覚えのある匂いが鼻を刺激する。
ラーメン屋「ほいほい軒」。以前、上司である白牙と一緒に仕事で訪れた。
ここの料理は安い、美味い。
「いらっしゃい!部長さん?珍しいね、白ちゃんは?」
「どうも、今日は休みなんですよ」
「そうかい、何にする?」
「とりあえず、ギョーザとビール」
「昼間から飲むかい?良いね!景気が良いね!ちょっと、待ってな直ぐに用意するから!」
『お昼のニュースです。先ほど、ミスターブラックホールが未知の生物の駆除に成功しました』
『いや~、ブラックホールさんは良い意味で言うと破天荒ですよね~』
『でも、彼が通った道は何も残らないって言われてますからね~』
「へい、お待ち!ギョーザとビールね!」
グラスにビールが注ぎ、それを喉に流し込む。
「はぁー!美味い!」
「のみっぷりが良いね!これおまけね」
その時、扉が開く音が聞こえる。
「いらっしゃい!」
その声に反応して、その方向を見るとあの時の少年が入って来た。
「あ…」
「あ…」
この間と違って、あの溢れるどす黒い殺気は無い。
「今」はただの少年だ。
「ラーメンカツ丼セット大盛りで」
「はいよ!」
何故か自分の近くに座った来た。いや、顔は知られていないだろう。たぶん。
「あんたは何故、戦う?」
「へ?!」
ばっちりばれている。
突然の言葉に動揺をするが、相手も食事中だ。襲われる心配は無いだろう。
勝手に安心しているが、確証は無い。
「な、何故私がヒーローだって解ったんだい?」
「匂いだ…。俺は鼻が良いからな」
「そう…。ところで君、名前は?歳は?」
「名前は聞く時はまず、自分が名乗るべきだろう」
「ご、ごめん。加藤努って言うんだ」
「黒牙剣だ。歳は十五だ」
「十五!?学校は?」
「行ってるわけないだろう」
「そっか…。両親は?」
「十年前に殺された」
いきなり不味い事を聞いてしまったようだ、はっきり言って気まずい。
少しの沈黙が生まれる。
「ラーメンカツ丼セット大盛りね!」
「どうも」
運ばれた料理に手を合わせ、箸を付け始める。
その姿はまだまだ子供だ。当たり前の話だ、相手はまだ十五歳。
「私もラーメン大盛りで」
「景気が良いね!直ぐに用意するよ!」
隣で静かに食事している姿を見ていると、どうしても娘の事を思い出してしまう。
同じ年頃だからか、重ねてしまう。
これはただの同情なのか、自分でも解らない。
「へい!お待ち!」
「あ、どうも」
この店で初めて食べるラーメンは何だか、懐かしい味がして身体に沁みる。
「聞いて良いかな?」
「何を?」
「両親がこ、殺されたって…」
「あぁ、あれは十年前の話だ。俺が五歳の時の話だ、俺の両親は怪人クラブで研究員をしていたんだ。
何の研究をしていたかはまでは覚えていないが、それが原因で殺されたのは覚えてる。
だから、俺はあいつらを許さない。この命を無くなっても必ずボスの首を墓に持って帰る」
「いや~、歳のわりには物騒な事を言うんだね…」
その会話を外から聞いている人間が一人いた。
「部長も人が良いな…」




