実戦テストその二
気づいたら、そこには赤く輝く鎧が誇らしげに静かに聳え立っている。
この光景を呆けて眺めていると、声が耳に響いて来る。
その声の正体は自分も良く知っている声だ。
「準備は良いですか?加藤さん」
その言葉に疑問を抱かずにはいられなかった。
「相川さん?!いきなりすぎませんか!」
「社長命令で、今が良いだろうって」
「そんな急に…」
「良いから早く、スーツを着たまえ。君も男なら覚悟を決めろ。それに君もヒーローになりたくて、会社に入ったのだろう?」
「そうですよ!ささ、早く」
若い女性の手が自分の背中に温度が伝わると、心臓の鼓動が若干早くなる。
「わ、解りました!」
やはり男と言う生物は色事が絡むと、頭が空っぽになると思うと自分が情けない。
しかも、自分の娘見たいな年齢の女性にだ。
だがこの決心は揺るがない物だ。だから、この鎧を着る。
『人体への装着が確認されました。バトルスーツ、プロトタイプウルフ起動します』
その一歩はとても軽かった、サラリーマン時代の嫌な物に纏われ付かれた変な重さは無い。
ただあるのは、これからあの「怪物」と戦う「恐怖」と「勇気」だけ。
会社を解雇され、絶望の底に落ちた自分が「ヒーロー」に助けられ、自分もヒーローになりたいと奮い立った。
そして、ここに子供の頃に憧れた「ヒーロー」に自分自身がなっている。
そうだ。人生はまだ、終わってない。
「君もやるね…」
「しぶといな、ささっと死ね」
一人のヒーローが危機を迎えていた、黒い狼によって。
だが、ヒーローは膝を付かない。
後ろにいる非難している人達の時間を稼ぐ為とこれから、来るもう一人の「ヒーロー」の為に。
「ここを通すわけには行かないんだ…」
その目には決意と勇気が宿っていた。
息はとっくに上がっているのに、腕は重いはずなのに、足は鉄が付いているように重いのに、何故か燃えている。
理由は簡単だ。ただ守る、それだけだ。クサイ言葉だし、キザな言葉かもしれないが自分はヒーローだ。
「つまらない意地は止めろ、貴様の身体はもうボロボロだ。それに俺との力の差は歴然だ」
「そうだね…、確かに君は強い。でも!僕は君を止める!」
「そうか、ささっと死ね!」
黒い恐怖が感情を剥き出して来た時だ、声が聞こえた。
「遅くなりました…」
その姿を見た時素直に思った、これが一筋の光と。
「間に合ってよかった。正直、僕だけではどうする事もできなかった」
「そんな、私は戦力になるか解りませんよ」
「いえ、来てくれて心強いです」
そんな二人を憎悪が宿る瞳で見つめる獣がいる。
「狼?貴様もか?そんな事はどうでも良い…。邪魔する奴は許さない!」
その動作は余りにも早く目で追えるものではなかった。
その衝撃が加藤に襲う。
「危ない、危ない…」
「何っ?!」
鎧を纏った男は人間では捕らえる事が出来ないはずがその両腕で押さえる。
「これがデビュー戦か…。社長も無理を言うな」
「貴様、余裕だなっ!」
「うっ!」
『腹部に打撃を受けましたが問題ありません』
数メートルを蹴り飛ばされたが、痛みは殆ど無い。
これもこのスーツのお蔭で怪我は無い。
体勢を立て直し、構える。
「くっ…。しぶとい奴だな!」
「さすがに怖いな…」
戦闘が初めてで、相手の殺気が直に肌に刺さる。
だが、自然と身体が動くのは嬉しい。
サラリーマン時代は上司に怒られると良く胃がきりきりと痛くなり、身体が硬直した。
だが、そんな状況がちんけに見える状況に自分が立っている。
これは自分が成長したと言う証明だと、自然と笑みが生まれる。
「加藤さん、危ない!」
声が聞こえる。それは自分の危機を知らせるものだと、理解しているがこの状況を危険だとは思っていない。
「何っ?!」
黒い狼がまぬけな声を上げる。
その理由ははっきりしている、プロレスラーの様に相手に突撃をして地面に背中を付けさせる。
大体のスポーツはこれで勝負が決まるがこれは競技でない、「殺し合い」なのだ。
だが、この世界のヒーロー達は怪人の命を取る事を決して無い。
怪人達を保護をして、社会復帰を目的としている。
「こ、これで勝負は決まった…」
「は、離せ!」
完全に勝負は加藤の勝利が決まったと思った瞬間だった。
「何を遊んでいる?黒牙?」




