起動実験
相川さんから呼び出しを受け、研究室に足を踏み入れる。
「失礼します」
「どうしたんですか?!その傷!」
「あ、これですか?さっき、マッスルさんと実戦の訓練をしていて…」
「ちょっと待って下さい!救急箱持って来ますから!」
そう口にすると慌てて、可愛らしく走り出す。
「いてて…」
「取っ組み合いなんてしてるからですよ!これから実験が始まるんですから、怪我には十分気をつけて下さい!」
「は、はい…。でも、社長命令でトレーニングをしておけと言われまして…」
「言い訳はしなくて良いです!」
「すいません…」
何故か母親に叱られている気分になっている、相川さんは自分と親子程に歳が離れているはずなのに。
「大事な用件を忘れてました。実験の日時なんですが、二日後です」
「え?随分、早いんですね」
「起動実験っと言っても、今の段階では基礎的な運動だけです」
「そうですか」
「でも、怪我には十分に気をつけて下さいね!解りましたか?」
「は、はい!」
「それでは私は調整に戻りますので、何かあったら来て下さい」
「え?良いんですか?!」
「当たり前じゃないですか、一緒に仕事するんですから」
こんな綺麗な女性にそんな事を言われたら、勘違いもしてしまうのが男の性である。
「誤解を招く発言は控えるんだ、相川君」
「あ、主任」
タイミング良く、嫌味な女主任が研究室に入って来た。
「ど、どうも」
「男は変な妄想をする生き物だからね、気をつけたまえ」
「加藤さんはそんな事はしません!誠実で、優しい人です」
「君が信じているのなら別に良いが、君は若い狙っている輩も多いはずだ」
「え?そうなんですか?」
「君も鈍感だな…」
期待を胸に雑務課に戻り、席に座る。
「お疲れ様です、どうぞ」
「あ、どうも」
自然の流れでお茶をすするが不自然な点に気づく。
「あれ?!あなた誰ですか!」
「自己紹介が遅れました。助けてもらった、とかげですよ。白牙さんが事件が落ち着くまで、ここに居ろって言ってくれたんで」
「そうなんですか?別に私は構わないですが」
「何かと便利だから、しばらく置く事にしたんだよ」
「白牙さん、仕事してくださいよ…」
「俺は良いの!普段仕事してるから、のんびりしてても良いの!」
何時もの光景が流れていて内心安心するが、事件は解決していない。
今の所は犯人の目立った行動の報告は無い。
だが、安心は出来ない。早く、自分も戦えるだけの技術を身に着けなければならない。
せめて、自分の身を守れるくらいまでの力は身につけたい。
二日後、技術部。
『加藤さん、聞こえますか?』
「はい、大丈夫です」
『それでは、プロトタイプウルフの起動実験を行います』
重かった身体が何かのエネルギーが入ったかのように軽くなり、鉄の鎧は歩き出す。
「すごい!」
『何か、異常はありませんか?』
「何もありません!まるで本物のヒーローにでもなった気分だ!」
『ふふふ、気が早いですよ。それでは次に軽く走って見てください』
「解りました」
両足に走れと命令を送ると脳から電気信号が送られ、軽快に走り出す。
しかも、普段の何倍もの力で動いているのが感触で理解できる。
『はい、そこまで。今日の実験は終わりです、お疲れ様でした』
この時確かな実感が湧いて来た、こんなちっぽけな自分でもこのスーツがあれば誰かを助ける事が出来るかもしれない。
そんな、自信が自然と胸の奥から湧いて来た。




