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空振りソウル120%

作者: 犬公

 

「ユウイチ、頼む!」

 

 いつものことながら、僕に助けを求めてきたのはダイチだった。

 

黒川くろかわ高校の奴らとケリつけんだ。な、頼むよ」

 

 このセリフも、3回は聞いたような……。

 

 まず説明しとくと、ダイチ率いるヤンキー軍団と黒川高校のそれとは、妙な対立関係にあった。

そして、どういう訳か知らないが、『野球』でケンカの決着をつけていた。

 

 ダイチの話によると、2勝2敗で迎えた5試合目、これに勝たないとすごーくヤバイとか……。

 

 

 僕はちょっと戸惑った。

 

 ダイチたちのグループとは仲が良くても、黒川の連中とは全く関係がない。

今までダイチの頼みを断ってきたのは、……こわい……からだ。

 

「絶対イヤだね」

 

 僕は迷いながらも、はっきり過ぎるほどの口調で言った。

こうでもしないと、ダイチは諦めないだろうから。

 

「……ったくよー、ユウイチ、お前意地わりいぜ? じゃあなっ」

 

 僕の心には、悲しげなダイチの表情だけが焼き付いた。

 

 断られたからって、あんな顔しなくてもいいじゃんか……。

 

 

 

 今日は世界史に化学に……って、キライな教科ばっかでつまんないよ。

早く授業、終わんねえかなあ……なんて。

 

 青い空と白い雲のベストマッチ。

いつ見ても飽きない放浪キャンバスを窓わくに、僕はふと、ダイチやその同志たちが無断欠席していることに、メイビーな疑問を感じた。

 

 もしかして、今日か?

 

 なぜか高鳴る鼓動に震えながら、放課後がやってくるのをじっと待った。

 

 

 

 きらめき川の近くにある大広場。僕はそこしかないと思った。

 

 ああ、今日はヒカリと一緒に帰るはずだったのに……トホホ。

 

 自分が決めたことだ。もう引き返す訳にはいかなかった。

 

 

 

 広場にはやはり、ダイチたちがいた。しかし、黒川の奴らはいなかった。

 

(1、2、3、……、あれ? 8人しかいない)

 

 僕は一瞬、最悪の事態を考えた。

 

(まさか、まさか……)

 

 試合を8人で? そんな訳ない……よね……?

 

 実際、そうでないことは明らかだった。

ダイチの顔には笑みが浮かんでるし、何しろ、試合後にのんきにキャッチボールなんかするだろうか? バリバリのヤンキーたちが。

 

 僕は何となく、声をかける勇気がでなかった。

 

 こんなに一生懸命、汗を流しているダイチたちが、まぶしくてならなかった。

 

 

 

 翌日、朝9時に起床。僕はのんびり、休日を過ごそうとしていた。

 

 ヒカリとデートでも、なんて考えてみたが、確か今日は用事があるとかでムリだったかな、と危機一髪のところで思い出した。

 

 勉強に身が入らず、気付けばもう4時をまわっていた。

 

(たまには散歩、なんてのもいいかな)

 

 僕は心の中で言い訳をつくって、すでに目的地をあの広場と決めて、まっすぐ玄関を出た。

 

 

 

 広場に着くなり、僕の足は微かに震え始めた。

 

 

 カキーーンっ!!

 

 

 快音が響く。

 

 打球はヒュルヒュルと外野手の頭上を越え、ランナーに十分な時間と、黒川高校に4得点を与えた。

 

 

 満塁ホームラン……。

 

 

 僕は、マウンドでひざをつくダイチを見守った。

 

 あんなに……、あんなに昨日、頑張って練習してたのに……。

 

 僕の足の震えは小さくなり、やがて完全におさまった。

 

「ダイチーーっ!!」

 

 僕は叫んだ。

ダイチは、驚きで固まったままだった。

 

「………」

 

 声もなく、ダイチは駆け寄ってきた僕の目をじっと見つめた。

 

「なんで言わなかったんだよっ! ひとり外野手が足りねえじゃねえか!」

 

 僕は、優しい言葉をかける訳でもなく、まるで、ダイチを追い詰めるかのように怒鳴った。

 

 でも、ダイチには、これくらいがちょうどいいんだ……。わかってるよ。

 

「オレがセンター守るから……」

 

 僕がそう言い残して、守備位置につこうとした時だった。

 

「……ユウイチ。俺の代わりに投げてくれ……」

 

「……はっ!?」

 

「野球経験が少しはあるお前の方が、俺なんかより絶対いいからよ……」

 

「さっ、最後まで投げきれよっ……!」

 

「……勝ちたいんだ」

 

 

 

 『勝ちたいんだ』――

 

 

 

 ダイチはぞっとしたらしい。知らぬ間に、僕の目がかわっていたようだ。

 

 

 

『ピッチャー交代』

 

 途中から一人加わったということで特別に、ダイチはセンターの守備につくことができた。

 

 5回の表、ワンアウトながら黒川の攻撃は続く。

 

(野球経験アリって言っても、豪速球を投げれる訳でもない。ただ……)

 

 バッターボックスには、すらっとした茶髪の男。

 

「お手やわらかに……」

 

 僕のつぶやきは、誰にも聞こえていないようだった……。

だから、誰も、それが挑発的であったことなど知るはずがなかった。

 

 第一球目。

 

 シュルルル……

 

 カキッ!

 

 

 普通のストレートに、逆に意外とでも思ったのか、初球はファール。

 

「へへへ、すっげえヒーロー登場かと思ったのに、とんだ勘違いだったぜ!」

 

 黒川ベンチがざわざわと盛り上がる。

 

「いけいけタクヤーっ、ぶちかませーっ」

 

 私服のバッター、タクヤの目は、絶対的な自信に満ちあふれていた。

 

 

(……なるほど、ヤンキーとはいえ、技術はなかなか本格的な訳ね)

 

 次に投げるボールは決まっていた。

 

 

(ほら、よいしょっ)

 

 

 シュッ……

 

 

「もらったぁーっ!」

 

 

 ブオオオーーン!!

 

 鋭いスイング音。

……ただ、ボールはキャッチャーミットの中だ。

 

「ちっ……!」

 

 

 もちろん、すごい変化球を投げた訳ではない。

初心者でも打てるような、ど真ん中の絶好球だった。

 

 唯一違うのは『速さ』だけだ。

 

 

「……なめたコトしやがっ て!」

 

 

 僕は何だか、心が晴れなかった。

 

(人の本気を……。まあ、仕方ないのかな、そう見えても……)

 

 僕には、バッターの気持ちが分かった。だから、三球目は……。

 

 シュッ……

 

「……っまた!?」

 

 体勢を崩されては、打てるものも打てなくなる。

 

 ブーン!

 

 

 センターのダイチは、驚きを隠しきれなかった。

 

 ダイチは、守りにつくチームメイトの士気が回復するのを見逃さなかった。

 

「さ……三振だっ……」

 

「……マジかよっ!」

 

「よっしゃあ!!」

 

 

 

(やっぱ楽しくないとね。たとえ勝負ゴトでも)

 

 

 

 その後、続く打者を凡打に打ち取り、5回の裏、ダイチからの好打順でこちらの反撃が始まる。

 

 僕の打順は9番ということで、黒川の方からも承諾を得た。 

 そして、この回、すぐに打順が回ってきた。

 

 

 カキーーーンッ!!

 

 

 

『自分のため』にやる時よりも、『友達のため』にやる時の方が、僕はチカラが出る気がする……。

 

 

 

 とうとう最終回、裏。

 

 

「9対8か……。こんないい試合になったのも全部、ユウイチのおかげだな」

 

 ふと、この回先頭打者のシュウジは言った。

 

「……えっ、……オレのおかげ?」

 

 僕は不思議な気持ちになった。

 

『自分だけ』が祝福されるのはおかしい……よな?

 

 

 

 シュウジは思いっきりバットを振った。……が

 

 

 ガキッ

 

 

 打球はつまってショートゴロ。すぐに鋭い送球がファーストに……。

 

 

 『ワンアウト〜』

 

 

 黒川の奴らは、勝利へのカウントダウンに酔っていた。ニヤリと笑い、ツーアウト目をねらう。

 

 

 

 僕は気付いていた。 

 あの、面倒くさがり屋のシュウジが、全力でファーストベースを駆け抜けていったことに……。

 

 

 

 次のバッターは……リョウだ。

 

 短気な性格は相変わらずで、今までの4打席は全て、ボール球を大振りしての三振だったらしい。

 

 

(ボール球に手を出したらダメなんだ。……落ち着けよ、リョウ……)

 

 

 僕の想いが届いたのかは分からないが、この打席のリョウは違った。 

 

 

 『フォアボール』

 

 

 

 なんと、四球を選んだのだっ!

 

 黒川のピッチャーが、リョウをからかってボール球で揺さぶったのだが、リョウは全く反応しなかったのだ。……いや、相当苦痛だったに違いない。

 

 

 

(……我慢したんだな)

 

 

 

 ワンアウト一塁。貴重なランナーが出た。

 

 続くヒロシが上手くレフト前に落とし、ヒットで応える。 

 7番、コウスケは、落ちるか落ちないかの面白い打球。

しかし、惜しくもセンターフライに終わった。

 

 

 『ツーアウト〜』

 

 

 追い詰められた……。

 

 チャンスとピンチは、いつも共存している。

 

 

 この重要な打席に立ったのは、8番、リクだった。

 

 

 リクはチーム唯一の左バッターだ。足が速いだけに警戒されている。

 

 

「もうセーフティーバントは通用しないぜ?」

 

 

 黒川の内野手は、異常なほど前に出てきている。

 

 恐らく、今までの4試合の成績から判断して、こんな守備体形をとっているのだろう……。

リクもなめられたモンだ。

 

 

 

(リク、どうする?)

 

 

 

 オーバースローから繰り出される第一球は、アウトコース低めに決まった。

 

 

 『ストライ〜ク』

 

 

 続く第二球も、低めギリギリのコントロール。

 

 

 『ストライ〜クっ!』

 

 

 もう外野手は棒立ちだった。

 

 セミの声が、限りなく広がる青空に響き渡った。

 

 

「最後だっ……!」

 

 

 ビュンッ!

 

 ズバーーンッ!

 

 

 キャッチャーミットには白球。

 

 ただ、それはキャッチャーの頭上に高々と掲げられていた。

 

 

 『ボール!』

 

 

 僕はたまらず、大きく深呼吸した。 

 

「イっケねー、手が滑っちまったよ」

 

 

 余裕たっぷりにおどけて見せる黒川のピッチャー。

守備につく他の連中も、ケラケラと笑っていた。

 

 

「これで本当に……最後だっ!」

 

 投げ出されたボールは、真っすぐホームベースの上を通過しようとした。

 

 

 カキーン!

 

 

 ボールの邪魔をしたのはリクのバットだった。

 

 ふわーっと打ち上がり、前進していたショートと棒立ちしていたレフトの間にポトンと落ちた。

 

 

「くそっ……!」

 

 

 まさに矢のごとし。レフトからすごい球が返ってきた。

 

 三塁を蹴りかけていたリョウは後ずさり、三塁ベースで止まった。

 

 

 

 ツーアウト、満塁。

 

 

 

 次のバッターは……。

 

 

「ユウイチーっ! かっ飛ばせーっ!」

 

 ベンチにいるダイチが叫んだ。それに皆は続く。

 

「いけーっ!!」

 

「一発頼むぜっ!」

 

 

 

(これで何もかも決まるのか……)

 

 僕は、ゆっくりとバッターボックスへ向かった。

 

 もちろん、打席に立ったら、ケリがつくのは早いはずだった……。打つか……『負ける』か……。

 

 

 キーン!

 

 ガキーンッ!

 

 

 ファールボールが続く。

 

 僕は苦戦していた。

 

(さっきからチェンジアップも混ぜてきやがる……。こいつら学習能力高いんじゃないの?)

 

 僕は、なぜ打てないかの本当の理由には気付かなかった。

……自分が、奴らを見下している、という真実には……。

 

 

 そして遂に、2ストライク、3ボール。

フルカウントという局面に足を踏み入れてしまった。

 

 相手にしても辛いはずである。

 

「こいっ!」

 

 僕の口から勝手に……。 

 

 ピッチャー、振りかぶって……運命の一球!!

 

 

 ビシュッ!

 

 

 僕は、迫りくるボールを目で追った。

そして、自分の手元が狂うのをはっきりと感じた。

 

 

 カキーーーンッ!

 

 

 ボールは高く高く、勢いよく上がった。……だが、僕には分かっていた。

 

 

 汗で手が滑ったんだよ、なんて言えない……。

 

 

 ボールは、太陽の光をたっぷり浴びた後、地上にむなしく舞い降りた。

 

 

 ……パシッ

 

 

 高々と打ち上がったセンターフライ。

 

 外野の頭を越えると思っていたベンチの仲間、それに……自分の打席までつなげてくれた……リョウや、ヒロシや、リクのことを思うと……、自分が許せなくて仕方なかった!!

 

 

 

 『ゲームセット!』

 

 

 

 僕は、涙だけは流すまいと必死だった。でも、涙の方が、

「流れたい、流れたい」

と言って、僕にはどうしようもなかった……。

 

 

 ダイチやチームのみんなが集まってくる。

 

「泣くなよユウイチっ」

 

 優しくダイチは言った。

 

「そうや、お前は泣かんといけんようなこと、全然しとらんのやで?」

 

 関西弁のヒロシが、僕の肩を軽くたたいた。

 

 みんな僕を責めるようなことはしなかった。

……それに、何だかみんな、すっごく嬉しそうだった。

 

「めちゃ楽しかった!」 

「ほんと、最高やった!」

 

 仲間が、チームメイトが口々にそう言ってくれる……。幸せだった……。

 

 

 そこに、黒川のヤンキー連中が、横に列をなしてやってきた。

 

 第一声は驚くべきものだった。

 

 

「マジで楽しかったぜ」

 

 

 黒川のピッチャー、……イケメンでキザなあの表情には、優しい笑みが浮かんでいる。

 

 ダイチも、リーダーとして、代表で一言。

 

「ああ、すげえワクワクする試合だった。……負けたけどなっ」

 

 

 少し沈黙があった。

 

 

「……約束通り、俺が『告白権』をもらうぜ?」

 

 

(……こくはくけん?)

 

 

 ダイチは残念そうに、キザ男に言葉を返した。

 

「真剣勝負。負けたからには何も言えねぇ……」

 

「決まりだなっ。……俺の告白相手も、そろそろ来るはずだ」

 

 

 キザ男は、告白前の緊張感の中、夕日のナイスな沈み具合を見つめ、告白の成功を信じていた。

 

「……来たっ!」

 

 キザ男の代わりにダイチが叫んだ。

 

 

(……まさか、ダイチとキザ男の奴、『好きなあの人への告白をかけて』みたいな賭けやってたのか!?)

 

 

 僕はあきれてモノも言えない。

だが、一歩一歩、着実に広場に近づく例の『告白相手』を見て、他人事ではなくなった。

 

 

 

(ヒ、ヒカリ〜っ!?)

 

 

 キザ男は、なれなれしくヒカリの手をとった。

 

「待ってたよ。ヒカリちゃんっ」

 

 僕は、キザ男がヒカリを下の名前で呼ぶのが、妙に腹立たしかった……。

 

 

(ムキーっ! キザ男のやつ、覚えてろ〜っ!)

 

 

「……コウイチ君、わたしに話って……?」

 

 

(ヒカリもヒカリだ〜! なんで下の名前で呼び合う仲なんだよーっ!)

 

 

 僕は、キザ男と『○ウイチ』つながりなのも気に食わなかった。

 

 ヒカリがまだ、自分に気付いていないうちに、僕はヒロシの後ろに隠れた。

 

 

「わざわざ来てもらったのに悪いんだけど……、ここじゃ話しづらいんだ」

 

 

(キザ男のバカっ! なに言いやがる!)

 

 

「えっ……?」

 

 

(ヒカリもヒカリで、ときめいてるんじゃねぇーっつうの!……トホホ)

 

 

 そこに黒川の一味が提案する。

 

「俺たちが消えれば問題ないでしょう、兄貴」

 

 

「おっ、気がきくな」

 

 

 

 こうして、シチュエーションは完璧にととのった。

 

 半ば心配なのは、ヒカリが本当にオッケーをだすこと。

何せ、キザ男はジャ○ーズ系だし、普通に考えたら……。

 

 

(もう帰ろ……)

 

 

 

   * * *

 

 

 

 家に帰ると、不思議と力が抜けた。ひとり、自分の部屋のベッドで横になる。 

 もしかしたら、今日にでも別れのメールが届いて……。

 

 そい思った時だった。

 

 

 ピラぽらパ〜

 

 

 

「ひいっ!」

 

 携帯が鳴ったのだ!

 

 昨日、サイトからとった『おもしろ着メロ』も、気分次第……? 逆にこわかったような……。

 

 

(ヒカリからだ……)

 

 

 僕には受信メールを見る勇気なんてなかった。

 

(違うよな? 『別れよ』なんてこと……)

 

 

 そういえば、キザ男とヒカリは初対面って感じじゃなかった。

 

 コウイチだっけ? なんなんだよお前は! ヒカリといつ知り合った? どこで? それから、ヒカリと何をしてきたんだ?

 

(こんなこと考えてたら、どこかのストーカーみたいかな……)

 

 

 僕はメールを確認することに決めた。

……たとえ見なくとも、結果が同じであるならば、見た方がマシだった。 

 

 ポチッ

 

 

 

 

 件名:無題

 

ユウイチのばかっ。

いたんだったら言えばいいのに……。

 

 

 メールしてね。

 

 

 

 

 

 内容はそれだけだった。

 

 

(はあ? メールしてねって……、なに返せばいいんだよっ)

 

 

 僕はとにかく、ヒカリに返信することにした。

 

 

 

 

 件名:無題

 

何も話したくねえよっ。

 

 

 

 

 

 

 その日、ヒカリからメールは届かなかった。

 

 

 

 

 翌日、部活帰りのこと。僕は……不運にも、ヒカリに会ってしまった。

 

 

 僕は気付いていないフリをしたけど、やっぱり捕まった。

 

 

「ユウイチ……」

 

「何だよ、オレの名前呼ぶヒマがあったら、『コウイチ』って呼ぶ練習でもしとけば?」

 

「っひどい……」

 

「……じゃあなっ」

 

 

 

 僕は、本当に訳の分からない奴だ……。 

 

 

 

 今度、夏祭りがあるとか何とか……。でも、僕には関係なかった。

 

 

 ヒカリ……。

 

(いけねぇ、いけねっ……。また考えてた……)

 

 

 僕も無理するよなあ。

きっと今ごろ、ヒカリは悲しんでて……。

 

 ……悲しんでる? 違うな。

 

手っ取り早く、別れるなら別れれるこの状況。

逆に喜んでんだろ?

 

 

 

 一通のメールが届いた。

 

 もちろん、ヒカリからだったが、それを見るつもりは全くなかった。

 

 

 

 

 

 夏祭りの日。

 

 通りが明るくにぎわい、楽しそうな笑い声が聞こえてくる……ように感じただけなのだが、僕はなぜか、夏祭りの様子を絵に描くことができた。

 

 ただしその絵は、画龍点睛、最後の仕上げに欠けていた。

 

 

(ダメだ……。やっぱり、オレは……っ!)

 

 

 ふと、あの日のメールを思い出した。まだ見ていない、あのメール……。

 

 

 開けてみる。

 

 

 ポチッ

 

 

 

 

 件名:よかったら

 

夏祭り一緒に行こう?

ユウイチに話したいことがあって……。

でもね、ユウイチがよかったらでいいんだよっ。

 

よかったら

メール下さい……。

 

 

 

 

 

(話したいこと……かぁ)

 

 

 でも、いいんだ。

話がどんな内容でも。今は……、今はとにかく、ヒカリに会いたいんだっ!

 

 

 

 僕は急いで、ヒカリと待ち合わせをした。

 

 

 

 先に待ち合わせ場所に来ていたのはヒカリだった。

 

 

「待たせた……?」

 

「……ううん、さっき来たところ」

 

 

 ヒカリが微かにほほ笑んでくれていることが、とても嬉しかった。

 

「じゃあ、行こうっ」

 

 

 

 

 

 僕たちは、小さな祭りを楽しみながら、お互いの様子をうかがっていた。

 

 そして、一応全ての屋台をまわったことで満足している僕に、とうとうお呼びがかかった。

 

 

「……ちょっと話があるんだけど……」

 

 

 

 

 僕たちは、いおり山神社の前まで来ていた。

ここは絶好のシチュエーションを誇る聖域だ。

 

 

「……話ってさ、オレに関係あるよね?」

 

 僕は先に聞いてみた。

 

「うん……」

 

 ヒカリは静かに頷く。

やはり、今夜の話は、僕たち二人の関係の『存続』をかけた重大な話らしい。

 

 

「ユウイチ……、最近わたしに冷たくない?」

 

「………」

 

 この切り出し方は胸にこたえた。

まるで、この世の終わりかのように、悲しく響いた……。

 

「……わたしとコウイチ君のことが、気掛かりなんでしょ?」

 

「……っ!!」

 

「教えてあげようか?」

 

「いいっ! そいつの話は聞きたくない! ……早く要件を言えよ……」

 

 僕は困惑していた。

冷静になれるはずがないんだ……。

 

 

「……じゃあ、ひとことで言うから……」

 

 

(くる、……来るっ!)

 

 

「その、ユウイチ……」

 

 

 

(『別れよ……』か? それとも『別れたいの……』とか?)

 

 

 

 

 

 

「好きだよ……」

 

 

 

 

 

 

「……へっ?」

 

 僕は、マヌケな声で聞き返した。

 

 

「……だ・か・らーっ、好きだって言ってるの!」

 

「嘘つくなぁ〜っ!」

 

 

 僕は、心の整理もつかず叫び続けた。

 

 

「アイツは? ……あのキザ男は!?」

 

「キザお? コウイチ君のこと!?」

 

 

 ヒカリは笑っていた。

 

「……断ったよ」

 

「本当のほんとに?」

 

「うん。あとね、コウイチ君には特別、わたしの好きな人の名前教えてあげたんだけど、そしたら、すんなり諦めてくれたよっ」

 

 僕は全く、その意味が分からなかった。

 

「でも、かっこよくなったよね、雪村コウイチ君」

 

 

(雪村……なああっ!)

 

「あいつ雪村!? 中学校のときと別人じゃん!」

 

 

 僕の疑問はさっぱり解消された。

 

 

 ちょうど、花火が夜空に咲き始めた。

 

「ごめん、ヒカリ……。オレ、変にパニクってたみたいで……。本当ゴメン」

 

「いつものことだし、許してあげるけど……」

 

 

 ヒカリは、僕のことなら何でも分かるんです……。

 

 

「ただ……やっぱり、ユウイチにひどいこと言われるのだけはゴメンかな……」

 

 

 

 

 

 

 今回の件で、僕とヒカリはいろいろ学べたようだ。

 

 僕の感じたあの感情が、『しっと』ってモンなのかは分からないけど……、いやーな気持ちだったのは間違いない。

 

 

 

 ……そういえば、ダイチの奴、もしあの試合に勝ってたら、ヒカリに……。

 

 

 なんか、ライバル(?)多いな……。

 

 ヒカリっていう天使に恵まれた、幸せモンには。

 

 

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