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ある春の日の昼下がり

作者: 十六夜神月

「懐かしいな…」


とある街の駅のホーム。


そこで新幹線から降りたばかりの青年が、そう口にした。


降りてすぐの所にもかかわらず、普通に立ち止まっている。


かなり新幹線の乗り降りに邪魔になる場所である。


普段は礼儀正しい青年なのだが、今はそんなことにさえ気づかぬほど、

気分が高揚しているのだ。


その理由は唯一つ。


「帰って来たぜ、麗華れいか


1人の女性に会うために、青年、『桜崎真夜さくらざきしんや』が、確固たる足取りで歩み出す。


そんな、ある春の日の物語。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




今でも、どんな過去の記憶よりも正確に思い出せる。


小学6年生の3月末、卒業式を終え、中学入学をまじかに控えた日の記憶。


俺はその日、父親の転勤で引っ越すことが決まっていた。


一ヶ月以上前から分かっていたこと。


でも、別れがつらかったので、学校では内緒にしてもらっていた。


一人の少女、幼馴染であり、俺が幼いころから想っている相手、

如月麗華きさらぎれいか』にだけは、伝えなければならないとずっと思っていたが。


だがどうしても、告げられないでいた。


彼女の反応が怖くて、別にどうでもいいような反応をされるのではないかと思って。


今思えば滑稽だ、一体俺はどれだけ鈍感なら気が済むのだろう。


延ばしに延ばし、遂に告げることが出来たのは、出発の1時間前だった。


『僕、もうすぐ引っ越すんだ…』


俺からその言葉聞いた瞬間、彼女の顔は信じられないくらい青ざめた。


俺自身、あの時物凄く驚いたものだ。


何せ俺は、彼女は俺のことを幼馴染としか見ていないだろうと、

心の底から自分の考えを信じ込んでいたのだから。


『う、嘘?冗談よね?』


彼女の顔は、引き攣った笑みを浮かべていた、冗談だと思いたいが、

俺があまりに真剣なので、恐怖が混ざってあんな表情になったのだろう。


『僕は…冗談で麗華と離れるなんて言わないよ』


その言葉を俺が発した瞬間、彼女の瞳から、大粒の涙が零れおちた。


『嘘、嘘よ!!真也しんやが私から離れるなんて、そんな…』


幼いころ転んでも、俺と迷子になっても、どんなことがあっても。


決して泣かなかった彼女が、大粒の涙を流して泣いている。


俺には、その意味が理解できていなかった。


本当に、鈍感大馬鹿野郎である。


『私が風邪ひいたときも、クリスマスも、お正月だって今まで一緒に、

これからも、中学校に一緒に行って、寄り道して、それで――!!』


『ね、ねぇ?』


『ぐすっ、ひぐっ、なに、よ?』


『僕がいなくなるの、嫌なの?』


あの時の麗華のポカンとした表情は、今でも鮮明に思い出せる。


よほど俺があんなことを言ったのが意外だったのだろう。


『当たり、前じゃない!!』


『うわっ!?』


『寂しいわよ!!嫌よ!!だって、私は、真夜が…真、夜が…』


『ぼ、僕が?』


『す、好きなのよ!!』


『……え?はい?』


『ずっと前から!!ずぅっと前から好きなの!!悪い!?』


『えっと…本当?』


『なんで嘘言わなくちゃいけないのよ!!!!!!!』


『うわっ!?』


…怒鳴られてビビり過ぎだろう、あの頃の俺。


『ぐすっ、ああ……うわああああああああああああ』


そして、麗華は再び泣きだす。


俺はそれを見ながら、1人無駄に計算していた。


高校三年生になる春って何年後かなぁ?と。


まぁ、めんどくさくてやめた訳だが。


『ねぇ麗華』


『うわあああああああ』


『あのさ、僕も、麗華のことが好きだよ』


『うわああああぁぁ、ぐすっ…ふぇ?』


『ずっと前から』


『本、当に?』


『うん、本当に。そして、これからもずっと好きだよ』


『でも、真夜はもう…』


『だからね?高校三年生になる春、計算めんどくさくて何年後かは分からないけど。

そのぐらいになれば、1人暮らしできると思う。

だから必ず、高校三年生になる春に、この街に戻ってくるから。

その時にまだ、僕のことが好きならさ、

4月4日の2時、駅前の時計塔の所に集合ね?』


『約束?』


『うん、約束』


『分かった…絶対に、私は来るからね!!』


『うん、僕も絶対に行くよ!!』



こうして、俺はこの街を去った。


そして、俺はこの春、高校三年生になる。


今日は4月4日、現在時刻1時55分。


時計塔は、すぐそこだ。



……時間がない。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




駅前の時計塔。


そこは、恋人や、友達との待ち合わせに良く使われる定番スポットだ。


私の目の前も、もう何組もカップルが通過している。


ほぼ全てのカップルの男性が、私を見るのが嫌だけど。


理由は分かっている。


親友曰く、私は『美人過ぎる』だそうだ。


自分でも少しは綺麗だと思っている。


でも、知らないカップルの男性にいくら見られても、嬉しいはずはない。


クラスメイトの男子に言われても、別にうれしくない。


私が綺麗と言って欲しいのは、ただ1人。


『桜崎真夜』。


彼だけだ。


私の幼馴染で、今日、私が待っている人。


私の愛しい人。


気付いたら好きになっていた。


いつから好きだったのかは分からない。


小学一年生かもしれない、幼稚園かもしれない、もっと前かもしれない。


とにかく私は、彼さえいれば良いと言えるほど、彼が大好きだった。


そんな彼から引っ越しを告げられた時、私は絶望のどん底だった。


でも彼は、そんな私に好きだと言ってくれて…


今日、4月4日の2時に、この時計塔で会おうと約束してくれた。


その時まだ好きなら、なんて言っていたけれど、

私が彼を嫌いになることなんてありえない。


私は今日この日のことを考えて、今まで生きて来たといっても過言ではない。


もし彼が今日来なければ、私はどうなってしまうのだろう…


そう思いながら、信じて彼を待つ。


そんな私に、近づいてくる人影、


彼では無い、そもそも彼は5人もいない


「やぁ、如月さんじゃないか」


私の前に立った男性5人組、その先頭で声をかけて来た優男風の美少年。


彼は…名前は忘れたけれど、私の通う高校で美少年として有名な生徒だ。


その周りの4人の男性も、私の同級生たちだ、……1人も名前知らないけど。


「こんにちわ」


挨拶は返すが、何がやぁなのだろうか。


周りの4人の男子と共に、遠くでこちらを見ながら話していたくせに。


偶然を装っているが、バレバレである。


「今日は1人かい?」


「いいえ、待ち合わせよ」


「ふむ、友達と?」


何故人のプライバシーをそう聞けるのだろう。


「貴方に教える必要はないわ」


「おぅ、随分と冷たいね」


「貴方みたいな人に親切にするほど、私は人間が出来てないわ」


「っ、これは、ちょっと教育が必要かな?」


男の額に青筋が浮かぶ、いつの間にか、他の4人に周りを囲まれてる。


「…何する気?」


「何、着いて来てくれるだけ――」


『ゴーン、ゴーン』


「っ!」


響き渡る、駅前にある時計塔にしては重厚な音。


午後2時を告げる鐘の音。


2時を過ぎた…


男の言葉も、周りを囲まれていることも忘れ、地面にへたり込みそうになった瞬間、






「午後2時だ、ナンパ男は帰って寝てろ阿呆」






男の人の、怒気を含んだ声が聞こえた。


私はすぐさま、そちらを振り向く。


前の面影はほとんどない、男性らしく低い、それでいて涼しげな凛とした声。


でも、私は確信を持っていた。


この声は、


「麗華、元気そうで何よりだ」


私の愛する、彼の声。


「な、なんだてめぇ!!如月さんを呼び捨てに!!」


すぐさま私から、真夜へと向く男の矛先。


「ん?お前こそなんだこの野郎」


相変わらず、私に何かしようとする男には挑発的な彼に笑みをこぼしながら、

懐かしいその姿を確認する。


前と変わらずかっこいいが、男らしく、大人の男性へと成長している。


身長も私より断然高く、脚も長くて本当にかっこいい、凛々しい美青年だ。


真夜の気迫に押され始めている優男とは天と地の差だ。


でも相変わらず、黒色の服ばかり着ているのに再び笑みが零れる。


そして、あの頃から全く変わっていない彼の優しい瞳に、

私は今日一番の笑みをこぼしたのだった。


「て、てめぇ!!」


と、口では勝てないと判断したのか、優男が真夜に殴りかかる。


だがそれは、この場面で最悪の選択肢だ。


何故なら、


「お?」


『ヒュンッ』


「く、避けるな!!」


真夜は、


「殴り合いか?」


『ヒュンッ』


小学生の時から、


「後悔するなよ?」


『ヒュンッ』


高校生相手だろうと、


「次は俺から行くぞー」


喧嘩で負けた事は、


「そぉい!!」


『ドガァ!!』


「ぐべっ!?」


一度もないのだから。


「なっ!弘樹ひろき!!」


綺麗に吹っ飛んだ優男に駆け寄る残り4人の男子生徒。


あ、あの人の名前弘樹か、今思い出したわ。


「弱いな…」


「て、てめぇよくも弘樹を!!」


「なんだ?やるか?」


「く、くそ!!行くぞお前ら!!」


あっけなく優男を担いで去っていく4人。


「何と言う逃げ腰」


呆れた様子でそう言う真夜を見て、私は遂に我慢できなくなる。


「真夜!!」


「うわっ!?」


いきなり抱きついてやると、昔みたいに驚く彼。


「ど、どうした?」




「ふふっ、大好きよ。おかえり、真夜」




私がそう言うと、昔と変わらぬ優しい微笑みを浮かべ、




「うん、俺も大好きだ。ただいま、麗華」




そう言って、抱き締めてくれる彼だった。






また、5年前のような至福の日々が始まる。






時計塔の下で、1組の男女が抱き合い永遠を誓う。



そんな、ある春の日の、昼下がりのお話。






~It's a happy ending.~~Thank you for reading.~



さて、どうだったでしょうか?


『永遠無限の厨ニ病マスター』私です、作者です。


といっても、私とこの私の挨拶を知ってる人が何人いるのかわかりませんが。


さて、今回は初短編です。


前々から書きたかったのですが、機会がなかなかなかったもので…


是非、一言でも感想をいただければと思います。


ちなみに、最後の英語は『めでたしめでたし』と、『読んでくれてありがとう』です。


それでは、皆さんにまたどこかでお会いできることを願って。



See you again.

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― 新着の感想 ―
[一言] 十六夜神月さんの作品の設定の基本である「長身」「最強」「鈍感」もあったので息抜き作品として読みましたが安心して読めましたw 息抜き作品といってもかなりいい話だったので他の方はわかりませんが私…
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