"Life Goes On"
掲載日:2026/08/27
風がそよいで居る
車椅子を押して丘を登るのは、楽では無いが
登り終えたあとに後ろを視ると、視界には空の青と森の緑、そして其れらの合間にぽつぽつと存在する家々が、模型の様に視える
それに、もうすっかり君の躰は軽くなってしまって居た
だが、何が変わろうとも、君と視る此の景色が僕は好きだった
「風が気持ち良いね」
君の耳元で伝えるが、返事は無い
代わりに、饐えた匂いが鼻腔に入って来る
少しだけ哀しい気持ちになったが
此れから自分がやる事を、僕は誰よりもよく解って居た
君のシャツのボタンを、上から順番に一つ一つ外していく
露わになった腹部には縦に、真っ直ぐな切開痕が在って
その内側は、まったくの空洞になって居る
真っ暗な肉の洞穴の奥底に、君の象牙みたいな背骨が、肋骨が覗く
其れは、星空の様だった
君を抱き締める
かさ、と云う音と共に、君は軽々と僕の腕に抱かれ、立ち上がる
不意に、「なんか」「飽きたな」と思った
君を、車椅子に座らせ直す
車椅子の取っ手を握り
少し考えたあと、僕は君の背を蹴飛ばした
斜面を車椅子が、風と太陽光を浴びながら何処までも滑っていく
其れに背を向けると、僕は歩き出した




