間話 父の行方
その男の名はヴィディア・フェイトリスという。
畑仕事に精を出し、真面目に働き妻と子を養う、どこにでも居そうな一人の父親だった。
ある日、いつものように仕事から帰ると、家には妻の亡骸と黒い装束に身を包んだ二人の男の死体が転がり、息子は消えていた。
男はただ、呆然と立ち尽くしていた。
二、三時間ほどだった後、男は突然剣を手に取り、指輪を左手の薬指に嵌め込んだ。
その指輪には、全てを吸い込む様な深い緑色の小さな宝石が一つ留められていた。
その様相は、二、三時間前の父親の姿では無かった。
顔には青筋が立ち、剣を握る腕には血管が浮かび上がり、その突き刺すような鋭い視線は目の前のある男を捉えていた。
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ。
俺たち、昔は"仲間"だっただろ?」
黒い装束を見に纏った男が陽気に話す。
「何故リディアを殺した?ヴィクターはどこだ?」
ヴィディアは声を荒げる。
「リディア?……ああ、お前の奥さんね。
忘れちまったのか?俺たちには規則があっただろ?
人を消す時は家族全員消す規則。今日は、お前さんが消される番だってことだよ。ガキの方は邪魔が入って殺れなかったがな」
男がヴィディアの方へ歩き始める。
「俺を狙う理由はないはずだ!」
「あんま怒鳴るなよ、似合わねえぞ。狙う理由?そんなもん知るかよ。俺は"あの御方"にやれと言われればやるし、やるなと言われれば何もしないさ」
刹那、男がヴィディアの方向に踏み込み、剣を鞘から抜刀した。
鋭い剣戟が響き、斬撃が家を切り裂く。
十数回ほど、互いの剣が交わり、弾き合った頃、ヴィディアの影から別の黒い装束の男が飛び出し、背後から短剣をヴィディアの胸部に突き刺そうとする。
しかし、ヴィディアは後ろを見ることなく、無駄のない動きでその男の首を蹴り飛ばす。
そして、仲間だった男の左肩に一撃を加える。
感域拡張の"賜物"持ち、想像以上に手強い……
一度引くべきか……
「空間よ、歪め、転移」
男は逃げた。
父は、妻を埋葬した。
そして、復讐の旅に出た。
子を探すことはしなかった。
それが、子の危険につながると知っていたから。
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