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第9話「亀裂」

 ◆


 夏休みが明けて、2学期が始まった。


 春斗と美香の関係は、表面上は変わらないように見えた。


 相変わらず一緒に勉強し、他愛ない会話を交わす。


 だが何かが違っていた。


 美香は時折言いたいことがあるような素振りを見せては、結局何も言わない。


 春斗も春斗で、自分の感情を持て余していた。


 ──このままじゃダメだ


 春斗は分かっていた。


 美香への想いは、もはや否定できないレベルまで膨らんでいる。


 でも──


 ──断られたらどうする


 今まで人間関係で怯えたことなんてなかった。


 むしろ孤立することを選んできた。


 なのに美香のこととなると臆病になってしまう。


 一方、美香も同じような葛藤を抱えていた。


 ──坂登君に、私の気持ちを伝えたい。でも……


 春斗の素っ気ない態度。


 それが照れ隠しだということは分かっている。


 でも、もし本当に自分のことを友達としか思っていなかったら? 


 そんな不安が美香を躊躇させていた。


 そんな調子で日々が過ぎ、そして10月のある日、決定的な出来事が起こった。


「佐伯さん、ちょっといい?」


 クラスメイトの男子生徒が、美香に声をかけた。


 爽やかな笑顔のサッカー部員。


 クラスでも人気のある生徒だった。


「何?」


「実は、佐伯さんに話があって……放課後、時間もらえる?」


 美香は戸惑いながらも頷いた。


 その様子を、春斗は遠くから見ていた。


 ──……なんだよ、あれ


 嫌な予感がする。


 いや、予感じゃない。


 確信だ。


 あれは──


 放課後、春斗は図書室で一人、勉強していた。


 美香は来ない。


 例の男子生徒と会っているのだろう。


 ──別に、俺には関係ない


 そう自分に言い聞かせながら、全く集中できない春斗。


 結局、その日は早めに帰宅した。


 翌日、美香は普通に春斗に話しかけてきた。


「坂登君、昨日ごめんね。急用ができちゃって」


「別に」


 春斗は素っ気なく答える。


 美香は何か言いたそうにしていたが、結局それ以上は何も言わなかった。


 それから、二人の間に微妙な距離ができ始めた。


 春斗は意地になって、より素っ気ない態度を取るようになった。


 美香もそんな春斗の態度に傷つき、少しずつ距離を置くようになっていく。


 ──これでいい


 春斗は自分に言い聞かせた。


 ──どうせ俺なんか、誰とも上手くやれない。最初から分かってたことだ


 春斗は再度言い聞かせる。


 予防線を張る。


 なぜなら傷つきたくないから。


 一言、尋ねれば済む事を尋ねる勇気がない。


 もしここで尋ねたならば、確かに告白は告白であったが、美香がそれを断った事を知れただろうに。


 そして11月。


 秋が深まる中、二人はほとんど会話をしなくなっていた。

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