第4話
「——あっはっは、……面白いコト、言うねぇ?」
美しい顔の男は光の無い鈍色の目を細めて、目の前で座り込む女を見下した。男はオンボロな廃墟の埃に塗れたソファに腰掛け、長い足を組む。艶やかな黄金の長い髪が、割れた硝子の窓から差し込む月光を反射し、妖しく艶めく。
「『追手から逃げて此処に迷い込んだ』。そして、『その後、追手に見つかって、此処で致す羽目になった』——だっけ?」
女は必死になって、相手の言葉に頷く。今にも外れて転がり落ちてしまいそうなくらいに、必死だ。
美しい顔の男、ジャック・スケアクロウは少し首を傾げて、女の様子を観察する。その拍子に、黄金のうねる髪がさらりと溢れた。
女は兎の獣人のようで、柔らかそうな栗色の髪の隙間から覗く可愛らしい兎の耳が、恐怖で後ろに伏せていた。
15、6歳ぐらいに見える女の、未だにあどけなさの残る顔は事後の熱で些か赤らみ、榛色の大きな瞳に涙を浮かべている。
身に纏う服は所々に何かしらの体液や埃やらが付着した下着のみで、綿製の何ら飾りもないシンプルな物だ。脱がされる前に着ていたであろう衣類は部屋の端に乱雑に丸められており、床の埃に塗れている。
下着は乱暴された後らしく、裾が伸びきっていたり、解れていたり。或いは破けていた。
「——へぇ。それはそれは、大変に難儀なコトだね」
別に、珍しい事でもないけれど。ジャックは心中で溜息を吐く。
「——じゃあ『粉の入った袋』は君の……では、ないんだね?」
黒い革製の半手袋で包まれた手に持つ、ビニールの袋を女に見せびらかすように差し出した。
『……!』
女は必死に頷き、それはきっと襲った彼奴らの持ち物だとジャックに訴える。
「……ふぅん。なるほど、ねぇ」
ジャックは背凭れに凭れたまま、埃塗れの床に座り込む女に相槌を打った。ジャックは随分と永く生きている。仮に、女が訴えた事が事実だとしても、一旦薬を知ってしまったのなら、もう二度とと言っても良いほど、元の状態では居られなくなるのを知っている。このまま放って置いても、この女は何かしらの問題を起こすだろう。
それに、女が頷くまでの反応を見逃す程、ジャックは鈍くはない。
袋を取り出した瞬間、ほんの一瞬だけ、女は目を見開き口元が引き攣った。それを一瞬で取り繕い、何も知らないふりをした。
「……(コレは、間違いなく常習者……だろうね)」
ジャックは息を吐く。