勇者の凱旋
その日、西の果てから海を超えて、五人の使徒がローゼンハイムの港へやってきた。
【バッツ 】─「ロキ、見てみろよ、すっげえ数の船だぜ」
【 ロキ 】─「ああ、すごいな。こんな数の船が一箇所に集まってるのなんて、初めて見た」
二人の目線の先には、無数の船が停泊していた。世界の東西南北、ありとあらゆる国々から集まった船団が、ため池を埋め尽くす浮草のように、海面を覆い尽くしていた。
【カイン 】─「たしかにすごいね、世界中の誰も、いままでこんな光景を見たことないと思うよ」
マストに寄りかかっていたカインが同意した。
【バッツ】─「おーい、アル!メーベル!見てみろよ!港がすげーんだよ。船だらけだぜ!」
バッツは船室に向かって大声で叫んだ。しばらくすると、船室の中からアルが姿を見せた。
【アル】─「わあっ!」
アルは子供らしい声を上げて感動した。
メーベルも一緒に港を眺めたが、彼女の目線は居並ぶ船よりも、むしろその上に見える町並みに向いているようだった。
【メーベル】─「綺麗な街ね」
【 ロキ 】─「ああそうだな。さすがは王都ってだけある」
船が桟橋に着くと、彼らは船の縁から飛び移った。そして、彼らは桟橋を歩いていった。
港には、数え切れないほどの船が停泊していた。どの船も、ロキたちの船より遥かに大きく、間近で見るとより美しかった。本来海を渡るにはこれぐらい大きな船でなければならないのだろう。彼らがあの小さな船で海を渡ってこれたのは、ひとえに神様がくれたあの魔法の帆のおかげだった。
ロキはそうやって、あれやこれやの船に目を奪われながら歩いていたところ、一つの大きな船に徹底的に目を奪われて足を止めてしまった。
その船は、漆を塗ったような黒い船殻に覆われていた。船べりには、金色の文字で、刺繍のように美しい紋様が描かれている。マストは40メートルはあろうかというほど高く、畳まれた帆に黒いインクで描かれた魔法陣はとても繊細で、他の帆船と比べても格段に美しい。そして船尾には、理由はわからないが、二つの大きな黒龍の羽が据え付けられていた
ロキが船を見上げていると、船べりから縄梯子が降ろされ、それを伝って怪しげな風体の男たちが降りてきた。
彼らは不気味な風体をしていた。彼らは全身を黒ずくめの布に覆い、この暑い日差しの中肌を出していない。先頭に立つ男などは、中世のペスト医師がかぶるようなくちばしマスクを被っている。
仮面の男はロキの肩を押すと、威圧するように言った。
【仮面の男】─「どけ」
その声は、冷たい響きを放っていた。ロキはその感覚に覚えがあった。それは、殺気というやつではなかろうか。
【バッツ 】─「はあ?なんだと?」
バッツは仮面の男を睨み返す。しかし、ロキに引っ張られると、彼はしぶしぶ脇に避けた。
彼らが去ってゆくと、バッツは聞えよがしに言った。
【バッツ 】─「なんだあいつら。むかつくヤローたちだ」
【 ロキ 】─「ははは。まあ、まあ。それにしても、すごい船だな……」
【 漁師 】─「それはザクセンの船だよ」
ロキが感嘆していたところ、漁師らしいおっちゃんが声をかけた。彼はすぐそばで、小舟の係留ロープをたぐっていた。
【 ロキ 】─「ザクセン?」
【 漁師 】─「ああ、海の向こう側にある大国だよ。その国とはずっと小競り合いが続いていたんだが、王女の戴冠式だって言うんで、さすがにこの日ばかりは大使が派遣されるのさ。知らないのか?」
【 ロキ 】─「ああ、俺達は遠くから来たんだ。なあ、あの船の後ろについてる竜の羽はなんなんだ?」
【 漁師 】─「この船は竜帆船っていうんだよ。竜の羽は風を生むから、それを利用して高速で走れるんだ」
【 ロキ 】─「へええ……すごいな、今ここでは世界中の船が見れるんだな
【 漁師 】─「ま、俺達漁師にとっちゃいい迷惑だがね。なんせこいつらの場所を空けるために、浜に船を上げなきゃならんだから」
【 ロキ 】─「祭りのときぐらい漁を休まないのかい?」
【 漁師 】─「馬鹿野郎、祭りのいまこそが掻き入れ時なのよ。それに、わざわざ来てくれた旅の人間に、腐った魚なんか出せねえしな」
漁師はウインクすると、街の方に去っていった。ロキたちも、街へ行くことにした。
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街は活気に満ち、あらゆる沿道が人々で埋め尽くされていた。街中には色とりどりの装飾が施され、祝祭の雰囲気が広がっている。空には花吹雪が舞い、どこか遠くから人々の歌声が聞こえ、吟遊詩人のリュートの音色が響いてくる。四人は、街の賑わいに圧倒されながら、好奇心いっぱいに辺りを見回していた。
【 アル 】─「わたし、こんなにたくさんの人を見たのは初めて」
アルの声には興奮が混じっていた。彼女の目は大きく見開かれ、その輝きは明るい陽の光に照らされて輝いていた。
【 ロキ 】─「本当だな」
ロキもまた、この祭りに感嘆しつつ言った。
そんな二人に、突然声がかけられた。
【街の女】─「ちょっと、そこのかわいこちゃん!あなたよ!」
アルは驚いて声の方を振り返った。
【 アル 】─「(。゜ω゜)え?私?」
声の主は、小太りの街の女だった。
【街の女】─「(*´-`人)お嬢ちゃん、これをかぶりなさい。今日はお祝いだからね」
そう言って、女は花輪をアルの頭にかぶせた。それは鮮やかな赤い色で、彼女の茶色の髪の上でよく映えた。
【街の女】─「(゜▽゜)まあ!とってもよく似合ってるわ」
女の言葉に、ロキが軽く笑った。
【 ロキ 】─「似合ってるって。よかったな」
【 アル 】─「(〃 ̄ω ̄〃)そう?バッツはどう思う?」
【バッツ】─「( ˙-˙ )なんでオレ……?(゜∀゜;)ああ、似合ってる、似合ってるよ」
アルがふくれっ面をして拳を振り上げたので、とぐまは慌てて訂正した。その様子を見て、ロキとカインはにやにやしながら顔を見合わせた。
四人は再び笑い合いながら、街の賑わいの中を歩き続けた。
やがて彼らの前方に、より一層の人だかりが集まっているのが見えた。彼らは道の真ん中を開け、その両脇に並んで立っていた。皆は一様に期待に満ちた表情を浮かべ、右手の道の奥の方に顔を向けて、何かが来るのを待っていた。
これはきっと、勇者の凱旋を待っている人たちに違いない
【 ロキ 】─「あそこに登ろう」
ロキが、沿道とは反対側の、壁の方を指さした。そこには建物のバルコニーに続く階段があって、その上からは道路全体を見渡せそうだった。
【 アル 】─「うん、あそこからならよく見えるかも!」
【バッツ】─「早く行こうぜ!いまに勇者たちが来ちまうかもしれねえからな」
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やがて、道の奥に勇者たちが姿を現わした。遠くから太鼓の音が響いてくる。勇者たちはまだまだ道の先にいるが、それでも群衆の熱気をここからでも感じることができる。そして、勇者たちの行進が近づくにつれて、人々の歓声もまた大きさを増していった。
勇者たちは、白い馬に乗った騎士に先導されながら、ゆっくりと歩いてきた。彼らは、笑顔で沿道の人々に手を振り続けていた。彼らの足取りには揺るぎない自信が感じられ、一人一人が、いい知れぬ存在感を放っていた。彼らを歓迎する人々の歓声もまた、揺るぎない愛で溢れていた。それもそのはずだ。彼らはそれだけのことをやり遂げたのだ。
ロキは、勇者たちの姿に目を奪われた。もしオーラというものが存在しているのなら、きっと今目の前にしているもののことをそう呼ぶのだろう。
【 ロキ 】─「……すげえ」
ロキは思わず感嘆の声を漏らした。なにがすごいのか自分でもわからなかったが、ただその言葉が口から漏れ出た。勇者たち一行の中でも最年少のクロードは、ロキと年が変わらない。しかし、彼はその年齢で、魔王を打ち倒したのだ。それが、果たしてどれほどの偉業だろうか。ロキの目には、少年に返ったときような、純粋な憧れと敬意が宿っていた。
仲間たちもまた、その勇者たちの威風堂々たる姿に感動していた。そして彼らはそれぞれの胸に、勇者たちの姿を刻みつけたのだった。
そうして、やがて勇者たちは、城の方へ向かって去っていった。
そうかあ?俺なら勝てそうだがなー
「なっ……きみは何を言ってるんだ」
「ほーんやんのか?
「なにっ