諦めない心
アインツとジャドンは自陣水晶柱まで戻る。
ヴァリーがやられたという報告は二人にも伝わっていた。
ジャドンはそれを踏まえて、次の攻め方を考える。
「ザラを放置するわけではないが、今はヴァリーが退場していて打つ手がない。それならば、こちらはザラが得点する以上の得点を重ねるしかないな」
ザラは今70ポイントのボールを持ってこちらに攻めてきている。
現在は40ポイント差でAチームが負けているのだが、さらに70ポイントが加算されれば点差は110ポイントまで広がる。
これを逆転するには、アインツ達がそれ以上の得点をするしかない。
「さっきの奇襲はある程度効果があったが、次は相手も警戒してうまくいく可能性は低いだろう。それに早くしないとまたザラに邪魔をされてしまう。今回は各々が速攻で攻めることを考えよう」
ジャドンの作戦は、アインツとジャドンそれぞれが全力で走り、ザラが帰ってくる前にゴールを決めるといったものだ。
これだとコンビネーション技は使えないが、時間をかけずに攻めれるので、ザラの妨害が間に合わないと考えたのだ。
ザラはすでに攻守共に止められない存在となっている。
そのためジャドンは極力ザラとの戦闘を避けようした。
その作戦に対してアインツも快くOKを出す。
「全力で走るのは得意です。任せてください」
「心強いよ。頼りにしてるぜ」
二人はボールにマナを込める。
今回、アインツが80ポイント、ジャドンが50ポイントのマナをボールに込めた。
これでAチームが使える残りのマナは170となる。
アインツとジャドンはそれぞれボールを持ち、同時に敵陣へと走り出した。
二人が今回使うルートは最短距離の中央ラインである。
敵に会う確率も高いルートだが、相手ゴールまでの時間は確実に短くなる。
ジャドンはそれに賭けたのだ。
しばらく走っていると、アインツがジャドンの前を走るようになる。
ジャドンが全力で走っているのにも関わらず、アインツはそれよりも走る速度が速かった。
これにはジャドンも戸惑いを隠せない。
「いくら俺が守備中心のポジションだからと言っても、毎日最低限のランニングはやってるんだぞ」
だが、ジャドンとアインツの差はどんどん広がり、アインツはジャドンよりも数メートル前を走るようになった。
アインツは毎朝ランニングに特化したトレーニングを続けていたため、走る速度がかなり速くなっていたのだ。
アインツはどんどん前を走り先行していく。
そして、センターラインを越える頃には完全に一人になっていた。
敵陣に入るとアインツ前に立ち塞がる一つの影があった。
それはアッサである。
アッサの胸には50ポイントの表示が浮かび上がっていた。
アインツの方がポイントは多いのでスルーしたいところではあったが、さすがにそれはアッサが許してくれないだろう。
アインツはアッサとの一騎打ちに臨む。
まず行動したのはアッサの方だった。
「ウッド・ワン!ロード・ヴァインズ!」
アッサは地面から大量のつるを伸ばし、アインツの進路を妨害する。
しかし、アインツはこの技を以前にも見ていた。
アインツは走りながら姿勢を低く保ち、地を這うように魔法を放つ。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
アインツの放った光の弾は、目の前のつるを切断しながらアッサに向かって飛んでいく。
アッサはサンライトショットを草のクッションで防ぐが、爆風でシールド値が800に削られる。
「ちっ!なんて威力だ!」
アッサとアインツは同じレベル1の魔法を使っているが、威力はアインツの方が上である。
しかも、アッサはレベル2の魔法が使えないので、アインツの攻撃を完全に防ぐのは不可能であった。
正攻法であれば、アッサが明らかに不利である。
だが、アッサはここで諦めたりはしない。
少しでもアインツのシールド値を削ろうと果敢に攻める。
「ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」
アッサは地面と平行に竹を伸ばし、それに捕まって一気にアインツの所まで飛ぶ。
それに対してアインツも引かず、アッサへ向かって突撃する。
そんなアインツの攻撃的な姿勢にアッサは笑みを浮かべた。
「お前面白いやつだな!気に入ったよ!」
アッサは上空から竹の棒でアインツを狙い突く。
アインツはその攻撃を身体をひねってかわし、カウンターで魔法を放つ。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
しかし、アッサはアインツが攻撃して来ることを読んでいた。
アッサは地面から新たに竹を伸ばして、それに捕まり上空へ避ける。
そして、光の弾が通り過ぎた後、地面に着地した。
二人は少し間合いとって息を整える。
短い攻防の間で、アッサはアインツの強さを意外に思っていた。
「お前、どこでそんなに鍛えたんだよ?」
不思議そうにしているアッサに対して、アインツは自信満々にこう答える。
「いっつもヴァリーと一緒に朝練してるからね。1対1の攻防なら負けないよ。」
アインツの言葉にアッサは納得する。
あのヴァリーを相手に練習してれば、強くなるのは必然だと思った。
「じゃあ、手加減は必要ないようだな!」
アッサはより一層気合を入れる。
アッサは背丈ほどの竹の棒を作り出し構えた。
そして、竹の棒を回しながら、少しずつアインツに近づき間合いを詰める。
それに対してアインツはいつでも攻撃できるよう、右手に光のマナを集め構えた。
お互いに緊張の中、相手へ攻撃する隙を伺う。
先に行動したのはアッサだった。
アッサは竹の棒を勢いよく横へ薙ぎ払う。
アインツは間一髪のところでそれをしゃがみ避けるが、体勢を崩されて反撃はできない。
アッサはそこを狙って渾身の突きを放つ。
「くらえ!蛇襲一閃!」
アッサの一撃はまるで蛇が獲物を一瞬で捕らえるように、鋭く速い突きだった。
体勢を崩したアインツはそれを避けることができず、直撃を受けてしまう。
「くっ!」
アインツのシールド値は700に削られた。
「まだだ!」
アインツはサンライト・ショットで反撃するが、アッサはそれをかわし再びアインツに襲い掛かる。
「接近戦なら俺の方が上だ!」
アッサは棒術を幼い頃から父に叩きこまれていた。
そのため、接近戦では絶対の自信を持っている。
実際、アッサは攻撃を繰り返し、アインツに反撃の隙を与えない。
そして、アインツの体勢が崩れたところを的確に狙い、シールド値を削る。
アインツのシールド値は更に削られ400となった。
アインツにとっては苦しい状況だ。
しかし、アインツも黙ってやられているわけではない。
アインツは徐々にアッサの攻撃に慣れていく。
そして、アッサの攻撃に合わせ、カウンターでサンライト・ショットを放った。
アッサはそれを回避するが、当然その間は無防備になる。
アインツは意を決して飛び出した。
「ここだ!」
アインツはアッサにタックルをお見舞いし、アッサの体勢を崩すことに成功する。
「しまった!」
アッサは急いで起き上がろうとするが、アインツはすぐに光のマナを作り出す。
「ありったけの力を込めて放つ!ライト・ワン!サンライト・ショット!」
アインツの放った光の弾は体勢を崩したアッサに直撃する。
アッサはそのまま地面を転がるように吹き飛ばされ、シールド値を300まで減らす。
「くそ!やられた!」
アッサはよろけながらも立ち上がる。
さきほどの攻撃でアインツとの距離はかなり離れてしまった。
アッサがアインツへ攻撃を仕掛けるには、もう一度近づくしかない。
だが、アインツは警戒をしている。
そうやすやすと近づかせてくれる雰囲気ではなかった。
「なら、一か八かあの戦法を取るか」
アッサは竹の棒を何倍にも伸ばし、天高く持ち上げる。
アインツはアッサの行動の意味が分からず、攻撃を躊躇った。
そんなアインツに対してアッサは走り出す。
アッサの持っていた長い棒は徐々にアインツの方へ傾き落ちていく。
アインツはアッサの目的もわからず、攻撃を仕掛けた。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
光の弾はアッサに向かって飛んでいくが、アッサは光の弾が当たる寸前で竹の棒を地面に刺し、そのしなった反動で上空へ飛び上がった。
そう、これはアッサの得意とする棒高跳びである。
アッサはアインツが攻撃してきた時を狙って飛び上がり、上からアインツを攻撃しようとしたのだ。
「くらえ!ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」
アッサは新たな竹の棒を作り出し、アインツに向けて伸ばす。
アインツにとっては予想外の上空からの攻撃。
回避行動が一瞬遅れ、攻撃を食らう。
アインツのシールド値はとうとう100まで削られた。
「これで止めだ!」
アッサは自分の得意な棒術でアインツに襲い掛かる。
絶望的な状況だが、アインツの心はまだ折れてはいなかった。
「まだ!諦めない!」
アインツはこの戦いで、自分にできることは全て出し切るつもりだった。
それがこの窮地を脱するための力をなる。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
アインツはアッサにではなく、地面に向けて光の弾を放った。
そう、これは以前にも使った、砂煙による攪乱である。
アッサは砂煙に視界を奪われ、アインツの姿を一瞬見失う。
「どこだ!」
アッサは思わず声を上げた。
それがアッサにとっては致命的なミスとなる。
アインツは声の聞こえた方向に魔法を放つ。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
それはほとんど、やぶれかぶれの行動だった。
しかし、その攻撃はアッサに直撃し、アッサのシールド値を0にする。
ギリギリのところでアインツが勝利したのだ。
砂煙が風に飛ばされ、アインツは膝をついて苦しむアッサの姿を見た。
そこでようやくアインツは自分の攻撃が当たったことを確信する。
「勝った?僕が?」
アインツは自分が勝ったことが信じられない様子だった。
それくらい、今回の戦いは苦しい戦いだったのだ。
破れたアッサは本当に悔しそうな顔をしていた。
ヴァリーや先輩達に負けるならともかく、同じテスト生であるアインツに負けることは、アッサにとってかなりショックな事実だ。
「お前、名前は?」
アッサは不意にアインツの名前を聞く。
そう、アッサは今までアインツのことを気にも留めてなかったのだ。
そんなアッサに対して、アインツは素直に答える。
「アインツだよ。アインツ・レイカー」
アインツの名前を聞くと、アッサはアインツに向かってこう言い放つ。
「アインツ!俺は絶対にもっと強くなってお前を倒す!覚えておけ!」
そんなアッサの言葉にアインツはキョトンとした表情を浮かべるが、すぐにアインツは笑顔になる。
「うん!また勝負しようね」
アインツはアッサの言葉を好意的に受け取った。
そんなアインツに毒気が抜かれたように、アッサはその場を後にする。
アインツがアッサに勝ったことで、アッサの所持していた50ポイントは失われることとなった。
しかし、そのために払った代償は大きい。
アインツのシールド値は100になっており、あと一撃でも攻撃を受ければ、アインツはポイントを失ってしまう状況になってしまったのだ。
そんな時、遅れていたジャドンがアインツに追いつく。
「アインツくん。大丈夫だったかい?」
ジャドンは周りの様子を見て、ここで戦闘が行われていたことを察する。
アインツはジャドンの姿を見て、一つアイデアが浮かんだ。
「ジャドンさん、ちょうど良かった。僕とボールを交換してもらえませんか?」
そう、アインツが提案したのはボールの交換である。
アインツが持っているボールは80ポイントだが、ジャドンの持っているボールは50ポイントである。
今のシールド値を考慮すると、ジャドンの方がポイントの高いボールを持つべきだと、アインツは考えたのだ。
ジャドンはアインツの提案を即座に了承し、アインツが50ポイント、ジャドンが80ポイントのボールを持つことになる。
この判断は正解だった。
その後、二人が相手ゴールを攻める際、アインツは途中でやられ退場する。
しかし、ジャドンは相手の隙をつきゴールを決め、80ポイントを獲得する。
Aチームの得点は330点となった。
一方その頃、Bチームのザラもゴールを攻めて、70ポイントを獲得する。
Bチームの得点は360点となった。
お互いに得点を取り合い、点差が縮まらない状況は続く。
しかし、試合はもう終盤、両チームは勝利するために最後の攻撃を開始するのである。




