三角蹴り
Bチームの水晶柱前では、5分間の一時退場を経てシグルムが戻って来た。
シグルムはザラの姿を見かけると一目散にザラに報告する。
「ザラ様、申し訳ありません。相手の見事な奇襲にやられてしまいました」
シグルムはアインツとジャドンの挟み撃ちによりポイントを失う。
また、アインツを止めれなかったことにより、点差を100ポイントも縮められてしまった。
シグルムの失態は大きい。
だが、そんなシグルムをザラは笑顔で迎えた。
「気にすることはないよ。シグルムが時間を稼いでくれたおかげで、ジャドンの攻撃は防げたからね」
ザラはシグルムに優しい言葉をかける。
それがより一層シグルムの忠誠心を高めた。
「次は必ずザラ様のお役に立てるよう頑張ります」
「期待しているよ」
シグルムが帰って来たことにより、Bチームの防御は三人となった。
ここでザラは動き出す。
ザラはボールに70ポイントのマナを込め、それを手にした。
「では再び俺は相手ゴールを攻めて来るよ。シグルムはツクオくんが帰って来るまでは防御役としてここにいてくれ」
シグルムは畏まってザラの命令を受ける。
「御意。ザラ様ご武運を」
ザラは指示を出した後に、なぜかBチームから見て左サイドへ走り出した。
相手ゴールへの最短距離は中央のラインであり、左サイドからの攻撃は遠回りとなってしまう。
しかし、ザラが左サイドに行くのには理由があった。
それはヴァリーの存在である。
ヴァリーはザラがゴール前にいるため、ボールを持ったまま攻めれずに左サイドで待機していた。
ザラはその存在に気づいていたため、わざわざ左サイドを通り相手ゴールに向かおうとしたのだ。
当然ゴール前の様子を注視していたヴァリーは、迫って来るザラの存在に気が付く。
「くそっ!なんでもお見通しってわけか!」
ヴァリーはゴールから遠ざかることを承知で後ろに下がる。
それはザラを出来る限り相手ゴールから離し、1対1で戦えるような場を作るためだった。
ヴァリーはザラに存在を知られていた段階で、戦闘は避けられないと覚悟したのだ。
だったら、少しでも自分が有利に戦えるような場にすることをヴァリーは考えていた。
ヴァリーとザラの追いかけっこはしばらく続いたが、走る速度で上回るザラが次第にヴァリーとの距離を詰める。
そして、ヴァリーを射程内に収めると、いつものように攻撃を開始した。
「ウインド・ツー!アサルト・バーズ!」
ザラの放った三羽のシマエナガがヴァリーを襲う。
ヴァリーはシマエナガをギリギリまで引き付けると石の塔を作り出す。
「アース・ツー!ロック・タワー!」
石の塔はヴァリーを乗せ高く伸びる。
シマエナガ達は次々に塔にぶつかり爆散していった。
ここまでは以前と同じであるが、ザラはヴァリーが塔の上で動けない間に、ヴァリーとの距離を更に詰めることに成功する。
ヴァリーに防がれるとわかっていながら、わざわざシマエナガを出したのはこのためである。
ヴァリーは作り出した塔の上からザラを見下ろした。
同じ様にザラもヴァリーを見上げる。
ザラは笑顔でヴァリーに話しかけた。
「ヴァリー、逃げてばかりだと俺は止められないよ?所持しているポイントは俺の方が上だからしっかり攻めないとね」
ザラの言う通り現在所持しているポイントはザラが70、ヴァリーが50である。
そういった場合ポイントが少ない方が、相手を妨害するため攻めるというのがアルマでのセオリーである。
だが、ヴァリーはザラを攻めるよりも逃げることに専念していた。
「自分、ザラさんが思ってるよりも臆病なんですよ」
こう返事したヴァリーだったが、逃げることに専念しているのには理由がある。
それは、ザラの足止めだ。
現在Bチームの得点を稼いでいるのは、ほとんどザラだ。
そのため、ヴァリーは出来る限りここでザラを足止めし、Bチームの得点を増やさないようにしようとしたのだ。
それは、ザラの攻撃にヴァリーがある程度対処できるからである。
ザラはヴァリーの目的に気が付いたのか、少しだけ困った表情を見せる。
「しょうがない。ここで出し惜しみをするわけにはいかないか」
ザラは新たにトンビを二羽作り出す。
トンビはシマエナガと違い、急降下してターゲットを上から襲う。
そのため、ヴァリーが防ぐには撃ち落とすしかないのだが、ヴァリーの攻撃魔法では一度に一羽のトンビしか撃ち落とせない。
だからこそザラは二羽のトンビを作り出したのだ。
ヴァリーは塔の上にいると回避が難しいと考え、下に飛び降りる。
そんなヴァリーを追跡するように、トンビ達も急降下する。
「ほんと厄介な鳥だな!」
ヴァリーは地面に着地するとすぐさま火球を一羽のトンビに向けて放つ。
火球はトンビに当たると爆発を起こす。
しかし、その隙を狙ってもう一羽のトンビがヴァリーを攻撃する。
トンビはヴァリーの身体に突撃すると爆発し、ヴァリーの身体を吹き飛ばした。
それと同時にヴァリーのシールド値は500に削られる。
「くそ!」
ヴァリーはすぐに態勢を立て直す。
しかし、トンビに対するうまい対処法は思いつかず、内心では追い込まれていた。
ザラはそんなヴァリーを見て笑みを浮かべる。
「ヴァリーでもそんな顔をするんだな。少し安心したよ」
ザラはジュニアチームで何度もヴァリーの姿を見てきたが、どんな練習も余裕でこなすヴァリーはいつも何か物足りないといった表情をしていた。
そんなヴァリーが今は感情をむき出しにして、苦しそうな表情をしている。
ヴァリーの姿が実に人間らしいとザラは安心したのだ。
「ヴァリーは運動神経に関しても、魔法の才能に関しても人よりかなり上を行っていたからね。もしかすると人間じゃないのかと思っていたよ」
ザラは冗談交じりに言った。
だが、そんなザラの言葉に対して、ヴァリーは皮肉を込めて返した。
「俺よりもザラ先輩の方がよっぽど人間離れしてると思いますけどね。マジで」
そんなヴァリーとのやり取りを、ザラは楽しそうに笑う。
「ヴァリーからそんな風に言われると少し嬉しいね。でも、ヴァリーの力はこんなもんじゃないだろ?もっと見せて欲しいな」
ザラは再びトンビを二羽作り出す。
ヴァリーはトンビ達の攻撃を避けるため出来る限り後ろに下がるが、大空を飛ぶトンビ達を振り切ることはできない。
トンビたちは上空から虎視眈々とヴァリーのことを狙っている。
しかし、ヴァリーには上空から来る攻撃を防ぐ手がなかった。
「どうすることもできないのか!」
諦めかけたその時、ヴァリーはトンビの飛び方を見て気づくことがあった。
トンビは大きく広げた羽をほぼ動かさず、風の流れに乗って滑空しながら飛んでいる。
それを見てヴァリーは一つ考えが浮かんだ。
「どのみちやられるなら、やるしかないよな!」
ヴァリーは覚悟を決めその場で足を止める。
トンビたちはヴァリーが止まったのを見ると、一斉に急降下し襲い掛かる。
ヴァリーはトンビたちをぎりぎりまで引き付けてから、魔法を放つ。
「アース・ツー!ロック・タワー!」
ヴァリーは自分の足元から塔を作り出し、急上昇する。
そして、トンビたちが飛んでいる高度よりも、更に高い位置まで塔を伸ばした。
目標を失ったトンビは周囲を旋回する。
「やっぱりトンビは自分よりも高い位置にいる敵を攻撃できないのか」
ヴァリーの読みは当たっていた。
トンビは翼を大きく広げ滑空する鳥である。
そのため高い位置から急降下することはできるが、上昇するには上昇気流などを見つける必要が出て来る。
そのため、自分より高い位置にいる敵を狙うことは困難なのだ。
それに気づいたヴァリーは、自分が作ることができる塔の高さまでトンビを引き付ける。
そして、トンビが降りて来たのを確認すると、すぐさま塔を伸ばしトンビよりも高い位置を陣取ったのだ。
ヴァリーは下にいるトンビたちを火球で狙い撃つ。
ヴァリーの放った火球はトンビたちを焼き払う。
その様子を見てザラは大層ご満悦だった。
「素晴らしいよ。さすがヴァリーだ。この短い時間でよく攻略法を見つけたね」
そんなザラをヴァリーはにらみつけるように見ていた。
ヴァリーはザラの攻撃を凌いだが、まだザラを倒す手立てが見つかったわけではない。
ヴァリーが不利な状況には変わりがなかった。
だがザラはそんなヴァリーに対して考える時間を与えない。
「では、次はこう出るとするか」
ザラはタラリア・ウイングを作り出し、ヴァリーの塔を蹴り上げる。
そして、三角蹴りをしながらヴァリーの塔を登り始めたのだ。
「おいおい、嘘だろ!」
ヴァリーは塔の上にいるので逃げ場がない。
塔から飛び降りること自体は可能であるが、そうすれば先ほどと同じようにトンビの攻撃を食らうだろう。
だが、迫りくるザラを倒す方法も今のヴァリーにはない。
ヴァリーは破れかぶれで火球をザラに向かって放つ。
「ファイヤー・ワン!バーニング・ショット!」
そんなヴァリーの攻撃をまるで読んでいたかのようにザラはシマエナガを作り出す。
「ウインド・ツー!アサルト・バーズ!」
火球はザラに当たる前にシマエナガにぶつかり爆散する。
ザラはもちろん無傷である。
「くそ!」
ヴァリーは迫りくるザラを止めることはできなかった。
ザラはそのまま塔を登りきり、塔の上にいるヴァリーよりもさらに高い位置へ飛び上がる。
「これで終わりかな?ヴァリー」
ザラはヴァリーに向けて三羽のシマエナガを放つ。
ヴァリーにはもう打つ手がなかった。
ヴァリーはシマエナガの突撃を受けてシールド値を0にする。
それと同時にヴァリーが持っている50ポイントも消滅した。
ザラの勝利である。
ザラは最後にヴァリーに向けてこう言い放った。
「なかなか楽しめたよ。ヴァリー」
その言葉を聞いたヴァリーは歯を食いしばりながら心の中で誓う。
次は絶対に負けないと。




