膝蹴り
ヴァリーが敵陣に入った時には、すでにザラが戻ってきた後であった。
相手の水晶柱前にはザラとジェットがいる。
さすがにヴァリーもこの二人相手では分が悪いと思い、その場に待機していた。
しかし、しばらくしてもザラはその場から動く様子はない。
何故ならザラはシグルムとツクオが復活するまで、攻める気はなかったからである。
そう、ザラはヴァリーの存在に気が付いていた。
だが、わざわざヴァリーを倒しに行かなくても、攻撃できない状況を作り出せばいいとザラは考える。
実際、ヴァリーの身動きが取れなければ、Aチームの攻撃役は一人減る。
それは退場しているのとほぼ変わらない状況だった。
ヴァリーにとって歯がゆい状況が続くが、ヴァリーはそれを必死に耐える。
ヴァリーはいつか来るであろうチャンスを信じていた。
そのために、今は不動を貫いているのである。
時を同じくしてアッサもほぼ似たような状況に陥っていた。
Aチームの水晶柱前ではケニーとクルドマンが待ち構えている。
アッサがゴールを決めるには、ケニーとクルドマン二人を相手にしなければいけない。
なかなか苦しい状況だ。
だが、アッサはできればここでゴールを決めたかった。
なぜならアインツによってAチームとBチームの点差がかなり縮められたからである。
ヴァリーが先へ行ったことも考えると、ここでアッサは得点をしておきたかった。
そのためにアッサは情報を整理する。
まず、アッサにとっていい情報は、ケニーとクルドマンがシールド値を減らしていることである。
ケニーとクルドマンはザラと交戦した際に、シールド値が500に削られていた。
アッサのシールド値は1000なので、シールド値で不利になることはない。
しかし、ケニーが守備にいることはアッサにとって厳しい状況だった。
なぜなら、アッサの攻撃は近接攻撃をメインとしている。
そのため相手を攻撃するには、ケニーの遠距離攻撃を回避しなければならないのだ。
これができるかどうかがアッサの課題である。
アッサは考えた末に、攻撃することを決める。
アッサは意を決してケニー達の前に飛び出した。
まずアッサはケニーとの距離を縮めようと走る。
そんなアッサに気が付いたケニーは、すぐにスリングショットを構えて弾を放つ。
アッサもすぐさま草のクッションを出して、その攻撃を防御する。
ここまではアッサの想定内である。
本番はここからだ。
ケニーとアッサの距離が縮まって来ると、ケニーのスリングショットは速度も威力も増していく。
アッサは必死に防御するものの、段々と防御が間に合わなくなって被弾する。
アッサはシールド値を700まで減らす。
「クソ!もう間に合わないか!」
アッサとケニーとの距離は残り100mほどである。
短距離走が得意なアッサなら、20秒程度で駆け抜けることができるだろうが、その20秒というのがアッサにとってはとてつもなく長い。
ケニーは20秒あればスリングショットを10発は放つことができるだろう。
その弾を避けるか防ぐかしてケニーに近づかないと、アッサは攻撃することすらできない。
「だけど、行くしかないよな!」
アッサは気合を入れて走り出した。
当然ケニーはアッサに対して、スリングショットを放ってくる。
アッサは防御を最低限にして、出来る限りかわしながらケニーとの距離を詰める。
しかし、そこは射撃の得意なケニー、アッサが近づけないよう適切なコースを狙って来る。
アッサはなかなか前に出れないまま、もう一度被弾する。
これでアッサのシールド値は400となった。
このままいけばジリ貧となるアッサは、一つ賭けに出る。
「ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」
アッサはいつものように竹に捕まって、それを急速に成長させる。
だが、いつもと違うのは竹を伸ばす角度である。
いつもなら地面と垂直方向に竹を伸ばすのだが、今回は地面とほぼ水平に伸ばしケニーとの距離を縮める。
ケニーは驚きながらもアッサにスリングショットを放つ。
もちろんアッサは避けることができないので直撃するが、まだシールド値は100残っていた。
アッサは勢いそのままにケニーへ突撃する。
「食らえ!」
アッサはそのままケニーの顔面に膝蹴りする。
さすがのケニーもその攻撃に怯むが、すぐさま態勢を立て直しスリングショットをアッサに向ける。
だが、アッサも竹を棒術のように構え、ケニーを狙い突く。
ケニーはその攻撃を避けながらスリングショットを放つが、避けながらアッサを狙うのは難しくなかなか当たらない。
ザラに言われた通り、近接攻撃への対応をおろそかにしてきた結果であった。
アッサの猛攻が次第にケニーを追い詰めていく。
徐々に攻撃がケニーへ当たるようになり、ケニーのシールド値も残り100まで削られることとなる。
お互いにあと一撃で勝負が決まる。
アッサは最後の力を振り絞り、ケニーへ攻撃を仕掛けた。
「これでとどめだ!」
アッサの突きがケニーを捕えようとした時、アッサの身体に異変が起きる。
腕が何かに引っかかり突きが中途半端になってしまったのだ。
「なにぃ!?」
アッサの身体に引っかかっていたのは、Y字型に伸びた木の枝である。
それはケニーが普段使っているスリングショットを巨大にしたものだった。
ケニーは寸前のところで、アッサの突きを防ぐ。
そしてアッサに対してトドメの一撃を放った。
「これで終わりネ」
ケニーの放ったスリングショットは、アッサの胸に直撃しアッサのシールド値を0にする。
この瞬間アッサの攻撃は失敗に終わり、ボールに込めた50ポイントを失うこととなった。
「くそっ!」
アッサは悔しがり地面を叩くが、そんなアッサに対してケニーは優しく声をかける。
「君はすごいネ。僕に比べたら色んな事ができて素晴らしいよ。努力しているのがよく分かるネ」
そんなケニーに対してアッサは目を逸らす。
「でも、俺は負けたし…」
「勝負なんだから勝つこともあれば、負けることもある。それは当然のことネ」
ケニーはアッサに手を差し出す。
アッサはケニーの手を借り、立ち上がった。
「大事なのはこれからでしょ?負けて悔しいなら次勝てるよう頑張ればいいネ」
ケニーの優しい言葉でアッサは再びやる気を取り戻す。
アッサはケニーに一礼してから、フィールドの外へと走り出した。
そんなアッサを優しい目で見守るケニー。
ケニーにとってアッサが敵であることは関係ない。
ケニーは自分と同じようにアルマを好きになり、努力を続ける人はみな仲間だと思っている。
だからこそ出た言葉だった。
こうして、アッサの攻撃は失敗に終わり、なんとかAチームは失点を増やさなかったものの依然としてピンチな状況は続くのである。
現在 Aチーム250:Bチーム290




