流れ
ヴァリーが自陣の水晶柱前に到着した時には、すでにアインツとケニーはやられていた。
前半の残り時間があとわずかなところで、Aチームは攻撃陣二人を失うこととなる。
ジャドンは現在の状況を踏まえて、次の作戦を考える。
「ヴァリーには悪いけど、今は防御に専念するしかないな。攻撃したとしても一人で三人の防御をかいくぐるのは難しいだろう」
ジャドンの言葉にヴァリーは悔しさをにじませるが、その提案は受け入れた。
攻撃することを諦めるということは、前半にAチームが150点しか取れなかったことを意味する。
用意されたマナの半分しか得点できなかったことは、攻撃陣にとって敗北を意味していた。
だが、ジャドンの言う通り無理に攻撃しようとしても今は味方の援護がない。
ヴァリーが一人で敵陣に突撃したところで、得点できる可能性は0に近かった。
それが理解できないヴァリーではない。
だからこそ、ヴァリーは攻撃の中止を受け入れ、守備に徹することにしたのだ。
「相手は何人で攻めて来ますかね?さすがに四人同時に攻めてこられるとしんどいですけど」
ヴァリーの考えにジャドンは首を横に振る。
「いや、こっちもまだマナを所持しているんだ。攻撃の可能性は捨てきれないはず。相手も防御を完全に捨てて、攻撃して来ることはできない」
「それなら最大でも三人。数的不利にはなりませんね」
1対1の勝負ならアインツとの練習でヴァリーも鍛えていた。
ここは、練習の成果を発揮する場面だとヴァリーは考える。
ヴァリーは自分の頬を叩いて気合を入れた。
「絶対に止めましょう先輩!」
「あぁ!このピンチみんなで乗り切ろう!」
こうして、二人は相手を迎え撃つ準備を始めた。
対してBチームのアッサとザラはすでにボールを持ち、Aチームのゴールに向け走っていた。
ザラはシグルムと通信で連絡を取りながら、状況を確認する。
「そうか、作戦は上手くいったか。シグルム助かったよ」
「いえ、これもザラ様のおかげです。ザラ様の指示がなければここまで上手く行きませんでした」
ザラは事前にアインツとケニーが同時に攻めてきたことを考え、シグルムに作戦を伝えていた。
その作戦の通り行動したシグルムは、見事アインツとケニーを仕留めることに成功したのだ。
「俺は作戦を考えただけだよ。それを実際に行うにはかなりの技量が必要とされる。シグルムでなければできなかったことだ」
「もったいないお言葉。ありがとうございます」
シグルムはザラに対して必要以上に丁寧な言葉使いをする。
それはザラが尊敬する先輩であり、忠義に似た感情を持っているからである。
対してザラもそんなシグルムのことを、信用できる後輩だと思っていた。
「では、守備の面はシグルム達に任せるよ。俺とアッサは相手ゴールを攻める。ここで逆転したいからね」
「ご武運を」
二人が通信を終了すると、アッサがザラに質問する。
「シグルムさんには手伝ってもらわないんですか?攻撃面でも頼りになるって聞いてますけど」
シグルムは攻守共に優秀な選手である。
だからこそ、シグルムが攻撃に参加してくれれば、得点する確率を上げれるとアッサは考えていた。
だが、ザラの考えは違う。
「今流れはこっちに来てる。だが、ここで相手に得点を許すとその流れをもっていかれる可能性がある。それは避けたいところだね」
ザラは長年の経験上、アルマの試合において流れというものが存在するのを感じていた。
「流れというものは恐ろしくてね。油断するとすぐに相手の方に傾いてしまう。そして、流れを味方につけたチームは強い」
ザラの言葉をアッサは熱心に聞いていた。
これはザラなりの講義である。
ザラはアッサに強い選手になってもらいたいがゆえ、自分の経験談を伝えていた。
アッサはそんなザラに対して質問をする。
「まだ、相手に流れをつかむチャンスがあると思いますか?」
その問いに対して、ザラは即答する。
「相手が得点を取ればね。それだけ得点を取るということは相手に希望を持たせるんだ。俺たちはまだやれる!逆転できる!ってね。そうなった時の相手は手ごわいよ。アッサくんもよく覚えておくといい」
ザラはそのことを考えて、シグルムを防御に残したのだ。
自分たちの攻撃が失敗することよりも、相手の攻撃が成功してしまう方が流れが悪いという考え方だ。
「なるほど、参考になります」
アッサはザラの考えをすぐに受け入れた。
アッサが最強を目指す上で、ザラの持っている知識は必要なものだと感じたからだ。
そんなアッサに対してザラは好感を持っていた。
「さぁ、しっかり相手を攻めようか。ここで得点を取れば流れはこっちのものだよ」
「はい!」
二人は残り少ない時間、全力で相手を追い詰めることを決意した。




