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奥の手

ヴァリーがゴールを決めたことにより、Aチームは80点差と大きくBチームとの点差を広げた。

しかし、その代償としてアインツは5分間の退場を強いられる。

また、BチームのFAであるアッサは70ポイントのボールを持ち、すでに敵陣に乗り込んでいた。

これがゴールされればお互いの点差は10ポイントとなり、Aチームの優位が失われるピンチでもある。

ジャドンは再びアッサに得点を取られることがないよう、策を練っていた。

アッサは木属性が得意で、特に竹を扱うのに長けている。

アッサは竹を自由自在に伸ばし、棒高跳びや高所からのシュートを可能にしていた。

だからこそジャドンは前後左右だけでなく、上も気を付けないと簡単に突破されてしまうのだ。

対してジャドンの得意属性は土、地面からの攻撃を得意とするが、逆に言えばアッサのように空中へ逃げる手段がある相手とは相性が悪い。

ジャドンはなかなかよい策が浮かんでいなかった。

「アインツくんやヴァリーが頑張ってる中、自分が情けないな」

ジャドンはテスト生たちの活躍と自分を比べていた。

チームとしては勝っているのでVPとしての仕事はできている。

だが、守備の面ではアッサにあっさり抜かれるなど失態もあった。

だからこそ、次はアッサ必ず止めたいと考えている。

だが、それに対していい案が思い浮かんでいないのもまた事実である。

「なら、自分にできることを最大限やるしかないよな」

ジャドンは腹をくくり、アッサを迎え撃つための準備を始める。


対してアッサはケニーによって遠回りを余儀なくされていた。

Aチーム側から見て左サイドを抜け、アッサは中央に向けて走る。

ゴールまで出来る限り最短ルートを通るつもりだ。

だが、そんなアッサの目の前には不思議な光景が広がった。

芝の上がまるでコンクリートで固められたように、ピカピカな状態で整地されていたのだ。

何かの罠かと思いアッサは恐る恐る地面に足をつく。

多少滑りやすそうな雰囲気はあるが、走っても大丈夫そうな地面である。

「一体なんでこんなものをわざわざ作ったんだ?」

先ほどのジャドンとの一戦から、ジャドンが土魔法を使うことは知っていた。

だが今回作られたこの地面に関しては、まったく意図がわからない。

アッサは少し警戒しながらも、整地された地面を走る。

少し走ると、大きな岩陰からジャドンの姿が見えた。

ジャドンは右手に綺麗に丸く整えた、ボールのような石を持っていた。

石の球には三つの穴が開いており、ジャドンはそこに指を差し込んで持っている。

アッサはますますジャドンの意図がわからなくなった。

アッサは攻撃に備えながらも、水晶柱目指し走る。

そして、ある程度ジャドンとの距離が近くなったところでジャドンがようやく動き出した。

「さぁ、いっちょやりますか」

ジャドンは手に持った石の球を胸の高さまで持ち上げた。

そこから、肘を伸ばし石の球が地面すれすれ通るように、弧を描きながら腕を後ろに下げる。

そして、地面を転がすように石の球を思いっきり投げた。

そう、これはボウリングである。

ジャドンは石の球が転がりやすくなるように、この平らで摩擦の少ないフィールドを作り出したのだ。

石の球はアッサに向かって勢いよく転がっていく。

アッサは突然のことに驚きながらも、石の球をなんなく避けた。

アッサが避けた石の球は、整地された地面を勢いよく転がり、芝ゾーンに入ってからようやく止まる。

見ただけでもかなりの威力があることはわかる

「当たったら洒落にならないな」

アッサは石の球を警戒しながら進む。

今はまだジャドンがいる位置と距離が離れているため石の球を回避するのも容易い。

しかし、ジャドンとの距離が近くなるにつれ、回避するのが難しくなって来るだろう。

アッサはその前に対策を考えなければいけない。

だが、ジャドンはそんなアッサに対して石の球を次々に投げる。

アッサはきちんと回避するが、その都度右へ左へ動かされ、進行速度を遅らされていた。

「これだと埒が明かないな」

アッサは試しに竹を1本生やして、石の球を防いでみる。

しかし、石の球は竹を簡単に破壊し、進行方向が少しずれた程度で終わる。

「毎回これで防ぐのは無理だな。威力も大して弱くならないし、どこに飛んでくるかもわからない」

アッサは次にロード・ヴァインズを放ち、つるで石の球を妨害しようと試みる。

しかし、コンクリートのように固められた地面は、つるをなかなか通さず少しひびが入る程度だった。

この程度のひびでは石の球を止めることはないだろう。

「思った以上にやっかいだな。この地面は」

ジャドンはかなりのマナを消費してこの地面と石の球を作り出した。

それだけ、アッサを止めるのに本気を出しているということである。

アッサが対応に困っている中、ジャドンはさらにアッサを追い詰める。

ジャドンはアッサのいる方向とは別の方向にゆっくりと進む球を投げた。

アッサが不思議に思っていると、そのゆっくりと進む球はカーブを描いてアッサに向かってきたのである。

更にジャドンは勢いのある球をアッサに向かって投げた。

そう、これは時間差による同時攻撃である。

ゆっくりとしたカーブボールと、勢いのあるストレートボールが同時にアッサに襲い掛かる。

急に逃げ道を塞がれたアッサは後ろに飛び退くが、襲ってきたストレートボールが足先に当たり、シールド値が750に削られる。

そして、アッサは体勢を崩して倒れ込んだ。

「しまった!」

アッサが倒れたのをジャドンは見逃さず、すぐさま石の球をアッサに向けて投げた。

アッサは立ち上がるが間に合わず直撃を受けてしまう。

吹き飛ばされたアッサはシールド値が更に削られて250となった。

絶体絶命のピンチである。

「とどめだ!」

ジャドンは渾身のストレートボールをアッサに向けて投げる。

これが直撃すれば、アッサのシールド値は0となり、同時に70ポイントのボールを失うこととなる。

「ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」

アッサは竹を2本生み出して、自分の身体を地面から浮かせた。

ジャドンの放った石の球は二本の竹の間をすり抜ける。

なんとかアッサは致命傷を回避した。

だが、ピンチはまだ続く。

ジャドンは再びアッサに向けて石の球を投げる。

今度はアッサを支えている竹を砕くつもりだ。

だが、アッサは不安定な支え方をしているため球を防ぐことができない。

ジャドンの投げた球はアッサを支えてる竹を1本砕く。

アッサはここで地面に落ちる…はずだった。

だが、アッサの身体は何故かまだ浮いたままである。

「一体何が?」

アッサ自身も混乱していると、アッサの背中の方から鳥が羽ばたく音がする。

アッサが振り返ると、アッサの服を掴んで一生懸命はばたくトンビが二羽いるのが見えた。

するとアッサにザラから通信が入る。

「なんとか間に合ったみたいだね。アッサくん」

「ザラさん。これはあんたの魔法か」

ザラはアインツが退場している間に、すでに攻めているアッサの援護に回ることにした。

すると、アッサがジャドンに攻められてピンチになっているのと遠くから目撃する。

急いで助けるためにトンビを2羽先に放ったというわけだ。

「アッサくん聞いてくれ。そのトンビ達は君の身体を浮かせるのが精一杯で、君をその場から移動させる力はない」

アッサは現在竹の棒一本に捕まりながら、トンビに身体を支えられてい状況だ。

今はかろうじて助かってはいるが、ジャドンの石の球を避けて前に進むことはできない。

「だが、今よりも高い場所に行くことができれば、グライダーのように滑空しながら先に進むことはできるはずだ。それが君にできるかい?」

アッサは即答した。

「行けます!ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」

アッサは今持っている竹を急激に成長させ、自分の身体をトンビごと持ち上げる。

アッサは地面から7メートルの高さまで行くと、勇気を出して竹から手を離した。

「いけぇ!」

すると、トンビ達は滑空しながらアッサの身体を敵陣の奥へと運ぶ。

もちろんジャドンにもその姿は見えていた。

しかし、ジャドンの土の魔法ではなかなか有効な手段が取れないのもまた事実である。

「だが諦めない!」

ジャドンは用意していた大量の石の球を土で固めて山のようにした。

ジャドンは山を駆け上がり、その上からアッサを捕えようとした。

アッサは滑空中のため、自分では方向を変えられない。

トンビ達は真っすぐジャドンのいる方向へ突撃していた。

「今だ!」

ジャドンはアッサに向かって手を伸ばし飛び上がる。

ジャドンの手はアッサの持ってるボールまであと数センチのところまで来ていた。

だが、ここでアッサが再び動く。

「ウッド・ワン!グラス・クッション!」

ジャドンの手とボールの間に、草のクッションを作り出す。

ジャドンの必死に伸ばした手は草のクッションに阻まれて届かなかった。

「くそっ!」

ジャドンはボールを奪うことができず、そのまま落下していく。

数メートル上からジャドンは落下するが、ジャドンはそれを防ぐ手段を持っていなかった。

しかし、ジャドンは地面にぶつかる寸前で草のクッションに助けられる。

これはアッサの作り出したクッションだ。

「どういうつもりなんだ?あいつは?」

ジャドンは混乱していたが、この行為はアッサなりの敬意である。

「あんたは強かったよ。俺一人じゃ抜けなかった」

アッサはしばらく滑空して、ジャドンが整地したゾーンを抜けると、芝の上に着地した。

もう水晶柱は目と鼻の先である。

水晶柱前ではCKであるクルドマンが構えていた。

「来たか!次はさっきのようには行かない!」

クルドマンはいつでも魔法を放てる準備をしてアッサを待ち構えている。

それに対してアッサも本気でゴールを奪うつもりだ。

アッサは現在シールド値が250しかない。

油断でもすればすぐにやられてしまうため、アッサも全力で挑むつもりだ。

「ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」

アッサは前回と同じように一本の竹を伸ばして上からシュートする体勢に入る。

しかし、それはクルドマンも前回見た技。

対策していないわけがなかった。

「ファイヤー・ツー!レーザー・ハイネット!」

クルドマンが出した炎の網は前回に比べて縦に長くなっていた。

アッサ対策である。

炎の網はアッサの正面をしっかりと塞ぎ、シュートコースを潰していた。

「さぁ?どうする少年?」

炎の網はじりじりとアッサに迫って来る。

だが、アッサが焦ることはない。

何故ならアッサには奥の手があったからだ。

「ウッド・ワン!ラピッド・バンブー!」

アッサは再び竹を2本生やした。

これにはクルドマンも意図がわからない。

「どういうつもりだ?飛び移る気でもいるのか?」

だが、新たに生やした2本の竹はアッサが飛び移るにはかなり遠い位置だった。

これでは飛び移る前にアッサが地面に激突するだろう。

つまり、アッサの意図は別のところにある。

「これが奥の手だ!ピンボール・シュート!」

アッサの投げたボールは左に生やした竹に当たり、跳ねて反対側の竹に当たる。

予想外のボールの動きにクルドマンは目で追うことしかできない。

そして、次にボールが跳ねた先は水晶柱だった。

アッサのゴールである。

この土壇場で奥の手を出したアッサがニ度目のゴールを決め、再びBチームは70ポイントの得点を獲得する。

これでAチームとBチームの差は10点となったのだ。

アッサは竹から降りて着地すると、すぐさまザラに報告する。

「ザラさん。ゴールを決めました。あなたのおかげです」

アッサは自分が最強であると思っている自信家だ。

だが、他人の力を否定して認めないほど、横柄な態度ではなかった。

報告を聞いたザラは喜ぶと共に、新世代への恐ろしさも感じていた。

ヴァリーはともかく、アインツやアッサも年齢の割には明らかに秀でた才能を持っていたのだ。

「これはヴァリーの才能をさらに伸ばすために神様が用意したライバルたちなのかもしれないね」

時々、アスリートの世界では類まれなる才能を持つものが生まれてくることがある。

だが、そんな時必ずと言っていいほどライバルという存在もまた生まれてくるものである。

ヴァリーにとってはアインツやアッサがそのライバルになりえる存在なのだろう。

ザラはそう感じていた。

こうして、点差の少ない激戦となったジュニアチームの加入テストは前半残り10分、魔の時間帯に突入するのである。

現在 Aチーム150:Bチーム140

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