才能
Bチームが2名の一時退場者を出し、尚且つゴールを決められたことは、ヴァリーの足止めをしているザラ達にも伝わっていた。
ザラはガラ空きとなったゴールを放置するわけにもいかないと思い、一緒にいたチームメイトのシグルムに指示を出す。
「ジェットが帰って来るまででいい、ゴールを守ってくれ。ここは俺一人で足止めする」
シグルムはうなずくとゴールに向かって走り出す。
これでヴァリーを足止めするものはザラ一人となった。
現在Bチームは守備が2人いない状態だ。
そしてヴァリーは50ポイントのボールを持っている。
なんとしてもヴァリーの侵攻を食い止めなければいけない。
ここが一番の勝負所である。
対してヴァリーはここを突破すればゴールできる可能性はかなり高い。
「そろそろ、攻めるか」
ヴァリーは敵陣に向けて走り出す。
もちろんザラはヴァリーが先に進めないように妨害する。
「ウインド・ツー!アサルト・バーズ!」
ザラは鳥にかたどったマナの塊を3つ作り出す。
その鳥はシマエナガのように白くて丸く、愛らしい見た目をしていた。
だが、そんな愛らしい見た目に反して、鳥はヴァリーに向かってものすごい勢いで突撃する。
「マジかよ!?」
ヴァリーはジグザクに走りながら突撃してくる鳥を避けるが、鳥はヴァリーに避けられてもなお、旋回してヴァリーを追尾する。
ザラは腕を組みながら、その様子を眺めていた。
「その鳥たちは自動追尾だ。どんなに避けても追って来るぞ」
「そりゃご丁寧にどうも!」
ヴァリーは鳥を無視してゴールに向かおうと思っていたが、ずっと追いかけて来るなら話は別だ。
どうにかして鳥を倒さないと、ここを切り抜けられそうにない。
ヴァリーは試しに一発魔法を放つ。
「ファイヤー・ワン!バーニング・ショット!」
ヴァリーの放った炎の弾は鳥に直撃する。
炎に包まれた鳥は「ピィー!」とかわいらしい鳴き声をあげて消えていった。
なんともかわいそうである。
「くそ!やりづらいな!」
見た目の可愛さで相手の戦意を削ぐ。
これもザラの作戦であった。
まぁ半分はザラの趣味であるのだが。
「そんな風に1羽ずつ丁寧に倒していたらきりが無いぞ。こっちはまだまだ出せるんだからな!」
ザラは再び鳥を3羽作り出す。
これで合計5羽の鳥がヴァリーに向けて突撃をしてくるようになった。
確かにザラの言う通り1羽ずつ倒していてもきりが無いだろう。
ヴァリーはこの状況を打破するため一つの決断をする。
「使うならここしかない!」
ヴァリーは走りながら右手のひらにマナを溜める。
そのマナはいつもの火ではなく土のマナだ。
「アース・ツー!ロック・タワー!」
ヴァリーは自分の足元から細長い石の塔を作り出す。
これがヴァリーの奥の手だった。
遡ること数か月前、ヴァリーの魔法を見ていたエルの一言がきっかけだった。
「あんたの得意属性は多分土ね。」
エルはそうヴァリーに告げる。
得意属性とはマナの変換効率がよい属性のことを表す。
変換効率がいいということは、それだけマナの変換速度も早くなる。
ヴァリーは元々覚えていた火よりも、土のマナの方が変換が早かった。
「あんたさぁ。なんで最初に火の魔法覚えたのよ。覚えるの大変だったでしょうに」
エルの言う通り、最初に覚える魔法は自分が一番得意な属性であることがほとんどだ。
だが、ヴァリーは最初に火の魔法を覚えた。
それには理由がある。
「親父が火の魔法が得意だったから、てっきり俺も火の魔法が得意属性だと思い込んでたんだよ」
そう、ヴァリーの父ケイネオスは火の魔法を自在に操ることで有名である。
属性の得手不得手は遺伝で継承しやすいため、ヴァリーもそうでないかと思い込んでいたのだ。
だが、遺伝というものはあくまでも確率であり絶対ではない。
ヴァリーにはそれを裏付ける、一番わかりやすい例が身近にいた。
エルはそれを例にあげて説明する。
「アインツのお父さんやお母さんは光魔法なんて使えない。だから得意属性は遺伝だけが全てではないの」
そう、アインツが一番身近でわかりやすい例である。
それを聞いてヴァリーはある程度納得することはできた。
後は気持ちの問題である。
「で、どうするの?今のまま火魔法を中心にトレーニングする?それとも土魔法を習得するための勉強をする?」
ヴァリーの気持ちとして火魔法に憧れがあるのは確かだ。
だが、土魔法が習得できれば戦略の幅が広がるとも思っていた。
そして、ヴァリーの出した結論は…
ヴァリーは細長い塔の上に立っていた。
急に目標を失った鳥たちは、次々に塔にぶつかって消えていく。
ヴァリーを追いかけていた鳥は一気に減り、残り1羽となっていた。
その様子にザラは目を疑う。
「まさか、火魔法に加えて土魔法まで習得していたのか。しかも、レベル2を」
ジュニアチームの中でもレベル2の魔法が使えるのは少数である。
しかも、その少数は一つの属性を中心に極めている。
複数の属性を習得しながら、レベル2まで魔法を上達させることは、彼らの年齢ではとてつもなく難しいことなのだ。
だが、それをヴァリーは7歳という年齢で達成した。
異例中の異例である。
そんなヴァリーの姿を見て、ザラは改めてヴァリーのすごさを実感していた。
「才能というものは恐ろしいな。つい自分と比較してしまう」
ザラはジュニアチームの中ではレギュラーになるほど優秀な方である。
そのザラから見てもヴァリーの成長速度は異常であった。
「だが、年の功というものもある。まだ負けるわけにはいかないな」
ザラは再び風のマナを鳥に成形する。
しかも、今回は先ほどとは違い1羽の凛々しくて大きな鳥を作り出した。
その姿はまるでトンビのようである。
「上空から襲われれば、さすがに塔で防ぐのはむずかしいのではないかな?」
ヴァリーは横からシマエナガ、上からトンビに襲われる。
ヴァリーは炎の弾で1羽ずつ倒していくが、その都度ザラに追加され、足止めを食らう形になっていた。
早くゴールに向かいたいヴァリーにとって、今の状況は最悪だった。
「クソ!どうにかして先に進まないと!」
鳥達を避けながら必死にゴールへ向かうヴァリー。
そんなヴァリーの前に一筋の光が見えた。
それは必死に走って来るアインツの姿である。
「アインツ!」
「ヴァリーくん!」
二人はお互いに叫んだ。
それだけで意思疎通には十分だった。
二人はすれ違う瞬間、同時に魔法を放つ。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
「ファイヤー・ワン!バーニング・ショット!」
アインツの放った光の弾はシマエナガを、ヴァリーの放った火の弾はトンビを撃墜する。
同時に倒したことでようやくヴァリーは全力で前に走れるようになった。
「ヴァリーくん!後は任せて!」
「おう!必ずゴールを決めてやる!」
ヴァリーはボールを持ってゴールに向かい、代わりにアインツがザラの前に立ち塞がる。
この展開はザラとしても望ましくない状況だった。
「ジェットが復帰するまであと2分もあるのか…なかなか状況は厳しいな」
ザラはCKであるジェットが復帰するまで、ヴァリーの足止めをすればいいと考えていた。
しかし、アインツが登場したことによりその計画は崩れる。
しかも、ここにアインツが現れたということは、先に行かせたシグルムが機能していないということでもあった。
実際シグルムは現在ケニーと交戦中である。
Bチームのゴール前は未だガラ空きとなったままだった。
それを直感で察知したザラは自分のなすべきことを早々に理解した。
「君を倒してヴァリーを追う!」
ザラは再びシマエナガを3羽作り出す。
そして、アインツに突撃させた。
それに対してアインツは真っすぐに突撃する。
アインツに策はない。
何故ならアインツはまだサンライト・ショット以外の魔法は使えないからだ。
サンライト・ショットで撃ち落とせるのは1羽のみ。
3羽を同時に倒すのは不可能であった。
だからこそアインツがやれることは一つである。
「回避してみせる!」
そう、襲い掛かる鳥たちを全力で回避する。
その一点である。
アインツは突撃してきた鳥をギリギリのところでかわす。
それを3回繰り返す。
鳥は旋回して再び突撃してくるが、それもアインツはかわす。
それを見たザラはシマエナガをさらに3羽追加する。
合計6羽の突撃。
それをアインツは必死にかわす。
かわす。
かわす。
かわし続ける。
その様子を見てザラは唖然としていた。
「鳥を防がれることは今までにも何度かあったが、ここまで避けられるのはさすがに初めての経験だな」
ザラはさらに追加でトンビを1羽作り出す。
ザラはアインツの必死な抵抗により、予定よりも多くのマナを消費させられていた。
それでも、次々に鳥を作り出したのはザラがアインツに魅入られていたからである。
アインツの限界を見てみたい。
それがザラの率直な気持ちだった。
結果アインツはトンビの攻撃を避けきれず、シールド値を0にする。
それと同時にアインツは緊張の糸が切れたように地面に倒れ込んだ。
限界だったのだろう。
そんなアインツを真っ先に抱きかかえたのは敵であるザラだった。
ザラは苦しそうに呼吸を繰り返すアインツに一言だけ伝える。
「この勝負、君の勝ちだ」
アインツは十分に時間稼ぎができていた。
ザラが今からヴァリーを追ったとしても、きっとゴールするまでには間に合わないだろう。
ザラはアインツをフィールドの外にいるスタッフに預けた。
そして、アインツがいない5分間をどのように利用するかザラは考えるのである。
ヴァリーは必死に走ってゴールに向かっていた。
ジェットが復帰するまで残り1分、ゴールの水晶柱はもう見えている。
だが、ボールを投げるには遠すぎる。
ヴァリーはその距離を必死に縮めようと走っていた。
対してジェットは水晶柱の横で、必死に復帰時間を待っていた。
「まだか!まだなのか!」
ジェットの胸にはカウントダウンしていく赤い数字が浮かび上がっている。
このカウントダウンが終わるまではジェットはフィールドに入れない。
ジェットは貧乏ゆすりをしながら、カウントダウンが終わるのを待っていた。
ヴァリーは走る。
身体中に悲鳴を上げるような痛みが来るが、それでも負けじと全力でヴァリーは走った。
そして、ジェットが復帰するまで残り10秒となったところで、ヴァリーは渾身の力でボールを水晶柱に向けて遠投した。
「届けぇぇぇぇ!!!」
ヴァリーの投げたボールは弧を描きながら水晶柱に向かって飛んでいく。
それをみたジェットは目でボールを追いながら、いつでもボールを撃ち落とせるよう魔法の準備をしていた。
ジェットの胸浮かんだカウントダウンは進む。
「3…2…1…0」
カウントが0になった瞬間、ボールは水晶柱の下部ギリギリの所に当たって地面に転がった。
Aチームのゴールである。
「よっしゃぁ!!」
ヴァリーは全力で雄たけびを上げる。
そして、ジェットは力が抜けたように肩を落とした。
これでAチームの得点は150となり、Bチームに大きく差を広げることとなる。
現在 Aチーム150:Bチーム70




