油断
アッサに得点を許してから数分後、アインツが自陣水晶柱へ戻って来る。
戻ってきたアインツをジャドンは温かく迎える。
「アインツくん。ナイスゴールだったよ。それに比べて俺たちは情けない」
ジャドンは二人がかりでもアッサを止められなかったことを悔いていた。
しかし、アインツはそんなジャドン達を責めることはしない。
「ジャドンさんの作戦のおかげで自分はゴールできました。それに、まだ20点差です。いくらでも逆転できますよ」
そういうアインツの前向きさが、今のジャドンたちにはとてもありがたかった。
ジャドンは気を取り直し、次の作戦をアインツに伝える。
「アインツくんは、さっきと同じように50ポイントで攻めて欲しい。いけるかい?」
「はい。いけます。シールド値は相手も削れてるはずですし」
アインツは先ほどの攻防でシールド値を600まで削られた。
だが、対するBチームのツクオは300、ジェットは400までシールド値を失っている。
シールド値が0になれば5分間フィールドから退場するペナルティが発生する。
そのため、相手の防御陣営は積極的にアインツを止めることができない状況である。
「今ウチのチームでは左サイドにいるケニーの手が空いてる状態だ。だからアインツくんが攻めるタイミングに合わせてケニーも攻撃へ向かわせる」
今、相手は中央の防衛で二人、ヴァリーがいる右サイドの防衛に二人で左サイドは完全に空いていた。
そこで、左サイドに配置していたWSのケニーをアインツと合流させて、中央の防衛を倒してしまうという戦略だ。
「それにケニーがいれば、ボールをパスすることもできる。アインツくんのシールド値が少なくなっても、ボールを失うことは避けられるはずだ」
ボールを持っている状態でシールド値が0になれば、ボールに込めたマナを失ってしまうが、パスできる相手がいればそのリスクを回避することも可能である。
ジャドンは用意していたクリスタルボールをアインツに手渡した。
「頼んだよ。アインツくん」
「はい!行って来ます!」
アインツは再びボールを持ち、敵陣へ走り出した。
アインツが再び敵陣へ向かっている中、Bチームはツクオの行動を巡ってもめていた。
「ツクオ!お前さっきなんで身体を張って止めなかった!」
「いや、だって僕が退場したら困るでしょ?VPですよ僕は」
ジェットは先ほどツクオが逃げ腰になったことを許せなかった。
確かにツクオが言う通りVPが退場になるのは痛い。
だが、ボールを持っていない選手の退場は、ボールを持っている選手よりは軽い。
だからこそ、ボールを持っていたアインツを最後まで攻めるべきだと、ジェットは考えていた。
そんな二人が揉めている中、アッサが帰還する。
アッサは二人が揉めてる様子を気にもせず、ボールのチャージを始めた。
「ツクオ。次も70ポイントで攻めていいか?」
「……」
アッサの言葉にツクオは何も答えなかった。
今は確かにBチームが優位だがアインツという不安要素がある以上、このまま攻めていいのかとツクオの判断に迷いが生じていたのだ。
そんなツクオを先に見限ったのはジェットだった。
「アッサ。もうそんなリスクの高い攻め方はやめろ。お前の手の内はもう見せたんだ。さっきのようにはいかないぞ」
ジェットの言う通り、アッサはもう攻め方を相手に知られている。
次に攻める時は、対策を取られていることだろう。
だが、アッサはそれでも再びボールに70ポイントのマナを込める。
「大丈夫ですよ。自分強いですから。それにまだ奥の手は残していますよ」
そういってアッサは再び敵陣へ走り出す。
ジェットは頭を抱えた。
アルマの試合で必要なのはチームワークである。
それが現在壊滅的なのだ。
ジェットは試合に勝つことよりも、まずこのチームワークがどうにかならないかと思っていた。
しばらくしてアインツは再びセンターライン付近までボールを持って走って来た。
さっきと同じ50ポイントのボールだが、今回は重みが違う。
今は20ポイント差でAチームが負けている状態だ。
なんとしてもこのボールはゴールしないといけないと思っていた。
そんなことを考えながら走っていると、左側の方から声が聞こえる。
「ハーイ、アインツこっちこっち」
それは同じAチームのケニーだ。
ケニーは負けているのを感じさせない程、明るく元気にアインツに声をかける。
アインツとケニーは敵陣に入り、並走しながら会話を続ける。
「アインツくんのフォローに来たよ」
「助かります。自分はこのままさっきと同じように攻めればいいですか?」
アインツの言葉にケニーは大きくうなずく。
「それでオッケーよ。敵が来たら僕も協力して迎撃するからネ」
そういってケニーが取り出したのはY字型の木の枝だった。
アインツが何に使うんだろうと思っていたら、ケニーはそのY字型の木の間に魔法のゴムのようなものを作り出す。
「アインツくん、スリングショットって知ってる?ゴムの反動を利用して弾をショットするやつネ」
「えっと、いわゆるパチンコってやつですか?」
アインツがそういうと、ケニーは笑顔でうなずいた。
「イエス!僕はこのスリングショットを使って魔法の弾をショットするんだ。命中率はそこそこだけど、結構威力は高いんだよネ」
ケニーのポジションはワイドサボタージュだ。
WSは相手の妨害がメインなので、遠距離から高火力で攻めれるケニーの武器は相性ぴったりだった。
しかも、今回は相手のシールド値がある程度減っている状態である。
ケニーからすればこんなに狙いやすい獲物はないだろう。
しばらく二人が走っていると、前から再びアッサがボールを持って走ってきていた。
今回もアッサが70ポイントのボールを持っていることアインツとケニーは確認する。
「オウ!さすがにこれは見逃せないネ」
ケニーはさっそくアッサに向けて、スリングショットを撃ち出す。
ケニーが撃ちだした弾はものすごい速度でアッサに向かって飛んでいく。
アッサは直撃する寸前で、身体をひねりなんとかかすっただけで済んだが、シールド値は50削られた。
アッサはケニーを警戒するように、一定の距離を保ちながら走る。
少し遠回りだがここを安全に通り抜けようとしたのだ。
それに対してケニーは再びスリングショットをアッサに向ける。
「アインツくん。悪いんだけど、少しだけ先に行っててくれる?」
アインツはうなずくと、そのままゴールに向けて走り出した。
ケニーはここでアインツと共に50ポイント得るよりも、アッサをしっかり足止めすることの方が大事だと判断した形だ。
「さて、お手並み拝見といきますかネ」
ケニーは再び、スリングショットをアッサに放つ。
警戒をしているアッサは、さすがにしっかりと弾を避けた。
そして、ここがチャンスとばかりアッサは走る速度を上げる。
「うまいネ。こっちが弾を撃ちだす準備をしている間に逃げるつもりネ」
ケニーはもう一度スリングショットをアッサに向けて放つが、アッサは草のクッションを出して弾を防いだ。
着地の時に使っていた草のクッションにはこういう使い方もあったのだ。
「さすがにもう1回撃つのは無理そうネ」
アッサは必死の走りでケニーの射程外に出ていた。
ケニーはこの時点でアッサの妨害を諦める。
結果的にアッサはシールドを50しか減らさずにケニーの攻撃を凌いだ。
しかし、半ば強制的に遠回りのルートを通らせたことは、時間稼ぎにはなったであろう。
ケニーはそれで良しとした。
「さぁ、準備運動はこれくらいにして、アインツくんを守りに行かないとネ」
ケニーはアインツを追いかけて再び走り出す。
アインツが再び相手水晶柱の前まで来ると、そこではツクオとジェットが二人で待ち構えていた。
ツクオはアインツの姿を見てあきらかに怯えている。
アインツは2対1という不利な状況だが、ここで止まる気はなかった。
アインツの頭の中には今持っているボールを何としてもゴールするということしかなかった。
アインツはまずジェットに向けて、攻撃魔法を放つ。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
それに対してジェットも風の障壁で応戦する。
「ウインド・ツー!ストーム・リフレクション!」
アインツの放った光の弾は、風の障壁を一部貫通してジェットにダメージを与える。
ジェットのシールド値は400から200に削られた。
光の弾の一部は跳ね返りアインツに襲い掛かるが、アインツはそれを再びサンライト・ショット放って、防ごうとする。
「ライト・ワン!サンライト・ショット!」
だが、このタイミングでツクオが動く。
「ウォーター・ツー!スプラッシュ・バースト!」
無数の水弾がアインツに襲い掛かる。
だが、アインツはすでに2連続で光の弾を放っており、水弾を防ぐことはできなかった。
「くっ!」
アインツは水弾をモロに受けて、シールド値が600から100まで一気に削られる。
直撃はそれほどまでにダメージが大きい。
だが、先ほどアインツが放った一撃はしっかりとジェットにも当たっており、ジェットはシールド値を200から0に削られた。
この時点でジェットは5分間の退場を強いられる。
「とどめは任せたぞ!ツクオ!」
そう言ってジェットはフィールドの外へ出る。
そう、これはジェットが考えた作戦であった。
ジェットは自分の身を犠牲にしても、アインツにとどめを刺してボールを失わせる。
そうすればマナ50ポイントを無駄にさせ、アインツの猛攻を5分間止めることができる。
そういう狙いだった。
この狙いは大成功し、アインツのシールド値は100になる。
対してツクオのシールド値は300のまま、アインツに対して優位となった。
優位になったことを理解したツクオは、先ほどまでの緊張状態とは違い、一気にアインツを見下す態度に変わる。
「そうだ!そうだよ!僕がこんなところで君みたいな雑魚に苦戦するわけはないんだよなぁ!」
ツクオはジェットによってもたらされた勝機をここぞとばかりに堪能していた。
これがツクオの本性である。
人よりも上に立ちたいという欲。
ツクオがアルマを始めた理由もそれだった。
ツクオはアインツがこの危機的状況をどうするのか、まるで昆虫観察をするかのように眺めていた。
実際アインツがここでツクオを攻撃してもよくて相打ち、ボールを失わせるというツクオ達の目的は達成される。
アインツはここに来て身動きを封じられてしまった。
アインツはツクオとの距離を離そうと少しずつ後ろに下がる。
が、ツクオはそんなアインツを楽しそうに眺めながら、少しずつアインツに近づいて距離が離れないように保っていた。
「ほれほれどうした?僕のことを恐れて下がることしかできないのかい?」
ツクオはアインツを挑発する。
ツクオの計画ではアインツが攻撃した瞬間に反撃することで、確実にアインツを仕留められると考えていた。
だが、そんなツクオの思惑とは違い、アインツは後ろに下がることしかしない。
「最後に攻撃して終わろうという気もないのかい?弱虫だな君は」
そんなアインツにしびれを切らしたツクオは、自分から攻撃することを選択する。
ツクオは右手を前に出し、マナの変換を行う。
ツクオの前に集まった無数のマナは、まるで水滴のようにきらきらと輝きながら小さな水弾となる。
「さぁ、これで終わりにしようか」
ツクオがアインツに向かって魔法を放とうとした瞬間、ツクオの身体に何かがぶつかるような衝撃が起きた。
「くっ!一体何が!」
ツクオが衝撃を受けた方向を振り向く。
そこにはケニーが立っていた。
先ほどツクオが受けた衝撃はケニーによる遠距離射撃だったのだ。
「アインツくん。今助けるネ」
再びケニーはスリングショットを構える。
それに対して頭に血が上ったツクオは「クソがぁぁぁ!」と吼えながら水弾をケニーに向けて撃ちだした。
これがツクオの最大のミスである。
アインツはこの時を待っていたのだ。
アインツはひそかに右手の拳の中に貯めていた光のマナを一気に開放する。
「いっけぇ!ライト・ワン!サンライト・ショット!」
アインツの放った一撃はツクオの脇腹に突き刺さる。
ツクオは衝撃で吹き飛ばされ、仰向けに倒れ込んだ。
ツクオのシールド値は0である。
周りにいるスタッフは倒れて動かないツクオを強制的にフィールドの外へ担架で運び出す。
アインツはがら空きとなった水晶柱にボールを投げてゴールを決めた。
これでAチームの得点は100ポイントとなる。
「ケニーさん!」
アインツはケニーのところまで走る。
ケニーはアインツのことを笑顔で迎えた。
「アインツくん。よく頑張ったネ」
「ケニーさんが来てくれたおかげです。本当にありがとうございます」
アインツの言葉にケニーは笑みを浮かべて右手を上げた。
アインツはどうしたのだろうと首を傾げているとケニーは右手のひらを指さす。
「こういうときはハイタッチ…でしょ?僕らの常識ネ」
ケニーに誘われてアインツはハイタッチする。
二人は喜びを分かち合った。
「さぁ、急いでヴァリーくんの応援に行くよ。相手が二人も退場してるなんてめったにないチャンスだからネ」
「はい!」
アインツは元気よく返事をして、ヴァリーがいる右サイドに向かってケニーと一緒に走り出した。
現在 Aチーム100:Bチーム70




