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窮地

アインツ、ヴァリー、エルの三人はそれぞれの親に魔法の練習を見てもらえないか相談した。

しかし、どの親も早朝は忙しくOKは出なかった。

そのため、ここ数日は魔法の練習を諦めて、普段のトレーニングを行っている。

ランニングではエルがストップウォッチを持って、二人のタイムを計っていた。

エルは気が付けばマネージャーのような立ち位置になっている。

「相変わらず、あんたたちってすごいわね」

エルはタイムを記録したノートを見返しながら二人に言った。

アインツ、ヴァリー共にランニングのタイムがどんどん早くなっているのだ。

特にアインツは最初が遅かったのもあり、急激にタイムが伸びていた。

「う~ん。でもヴァリーくんにはまだまだ追いつけないんだよね」

アインツはそう呟く。

アインツの目標はヴァリーとの並走なのだが、簡単に並走できるほどヴァリーのタイムは甘くなかった。

「俺はお前よりずっと前からトレーニングしてるんだ。そう簡単に追いつかれてたまるかよ」

ヴァリーは今よりもっと小さい頃からトレーニングを強いられてきた。

もちろん才能や体格に恵まれているのもあるだろうが、ヴァリーは人一倍努力を続けている。

その差が今のアインツとヴァリーの差に繋がっているのだ。

もちろん、ヴァリーがここまで必死に努力できるようになったのは、アインツのおかげである。

アインツが必死に努力するからこそ、ヴァリーも負けじと努力できるのだ。

二人はいいライバル関係となっていた。

そんな二人だが、最近はランニングのタイムが良くなってきたのもあり、いつも通りの練習メニューを行っても、時間が余るようになってきた。

しかし、これ以上トレーニングをしようと思っても、二人だけでできるトレーニングは似たようにものになってしまう。

それにヴァリーは悩んでいた。

「こうなってくると益々魔法の練習をしたくなるよな」

しかし、大人が付いていなければアインツ達は魔法を使えない。

もし使ったら法律違反となり、少なくとも補導されることは確実だ。

アインツも頭を悩ませる。

「親以外の人から協力してもらうのって難しいよね」

エルはうなずく。

「ウチの親だって早朝から仕事で忙しいし、普通早朝からぶらぶら暇してる大人なんて都合よくいるわけが…」

そうやって三人が話をしていると「何をしてるんだい?」と声をかける男がいた。

そう、スカータである。

三人は「「都合のいい大人だ!!」」と声を揃えて言った。

当の本人であるスカータは、状況が呑み込めていない様子である。


三人はスカータに保護者役をお願いする。

スカータは少し困った顔をしながら、「僕まったく魔法の知識ないけど大丈夫?」と聞く。

エルは大きな胸を張りながら「私が全部指導するので大丈夫です」と答えた。

「それなら、僕は見学でもしてようかな」とスカータはいつも通りベンチに座る。

交渉成立である。

三人は急いで魔法を使う準備をした。

エルは土の魔法で巨大な岩を作る。

「二人ともこれを狙って魔法を放つのよ。もし失敗した時は私が無理やり魔法を中断させるから安心してね」

その言葉に二人はうなずいた。

エルはそのまま話を続ける。

「まずは基本五属性からやってみましょうか。ヴァリーは火の魔法を使えるんだっけ?」

「あぁ、まだレベル1だけどな」

「それで十分よ。アインツにお手本を見せてあげて」

ヴァリーは両手を前に突き出して集中する。

するとヴァリーの前に赤く光る球体が現れた。

「アインツ、あれが火属性のマナよ。あれが見えてるってことは変換がしっかり出来ている証拠だわ」

そして、ヴァリーは呪文を唱える。

「ファイヤー・ワン!バーニング・ショット!」

ヴァリーの放った炎の球は岩に当たり爆発を起こす。

その衝撃で岩は少しだけえぐれていた。

エルはそれを見て感心する。

「レベル1の割にはなかなかの威力じゃない」

魔法のレベルというのは、変換するマナの量で決まる。

なので同じレベルの魔法だとマナの量は同じだが、威力はその後の成形によって異なるのだ。

ヴァリーの魔法はターゲットに当たった瞬間、爆発するという威力重視の魔法だった。

成形が簡単なので初心者によく使われる魔法である。

「じゃあ、次はアインツね。今ヴァリーがやったみたいに見様見真似でやってみて。大事なのはイメージよ」

「うん。わかった。やってみるよ」

アインツはヴァリーと同じように両手を付き出して、火属性のマナを作るようイメージをする。

アインツの目の前にマナのゆらめきのようなものは見られるが、しばらく待っても赤いマナに変化することはなかった。

「これは駄目そうね。アインツ一旦休みましょう」

アインツは両手を降ろす。

「なんか、すごく疲れた感じがするよ。エルお姉ちゃん」

アインツに疲れが見えることから、体内のマナを消費したのは間違いない。

「アインツは火属性が苦手なのかもね。マナを消費しても変換が完了できないってことは、変換効率が悪いのよ。多分」

エルは次に試す属性を水にした。

水の魔法はエルが使えるので、見本を見せることができるからだ。

「じゃあ二人ともよく見ておいてよね」

エルは右腕を前に突き出して、水の流れをイメージする。

すると、腕の周りから青く輝く帯のようなものが発生し、いくつも折り重なるようにして球体となっていく。

これが水のマナである。

「ウォーター・ワン。ストライク・ウェーブ」

エルが放った水の魔法は水の柱となり、覆いかぶさるようにして岩を削る。

アインツとヴァリーは「おぉ!」と二人で拍手をした。

エルは自信満々で大きな胸を張る。

「まぁ、こんなもんね。成形の時には水の柱とか波をイメージするといいわよ。二人もやってみて」

ヴァリーとアインツはエルと同じように水のマナを作り出そうとするが、なかなか上手くいかない。

どうやら二人とも水の適正は低いようだ。

その後も三人は基本五属性に挑戦するが、結局ヴァリーが使えたのは火の他に土の魔法のみ、アインツにいたってはどの属性の魔法も、成功することがなかった。

思ったよりも厳しい結果にエルも頭を抱え始める。

「アインツはおそらくマナの変換がうまくいってないんだろうけど、それにしても五属性全部うまくいかないっていうのは…」

魔法が苦手な人も世の中にはいるだろうが、一つも基本属性が使えない人はほとんどいない。

なぜなら、勉強でいうと全教科が赤点みたいなものだからだ。

どんな人でも普通一つくらいは得意な属性があってもおかしくないはずである。

アインツは見るからに落ち込んでいた。

エルはそんなアインツを見てどうにかしてあげたいと思っていたが、基本属性の変換効率に対処するのは非常に難しかった。

「もしかするとアインツは体内のマナが少ないのかな?」

一般的に体内のマナはあまり個人差がないと言われているが、極端に少ないのであればマナの変換に失敗するのもうなずける。

しかし、そうなってくるとますます対処法など存在しない。

アインツにアルマを諦めろと言うしかなくなってしまうのだ。

エルは藁にもすがるような気持ちでスカータに相談する。

「スカータさん。大人の知恵でどうにかならない?」

スカータは少し考える。

「そうだねぇ。体内のマナを増やす方法はないから、まだ挑戦してないことにチャレンジするしかないんじゃないかな?」

スカータの言葉にエルは心当たりがあった。

「それってもしかして…」

「そう、光と闇だよ」

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