きっかけ
翌日からヴァリーはいつも通り、冷静にトレーニングを行っていた。
アインツもその様子を見て安心する。
トレーニングが終わった後、アインツは二人に魔法学について相談した。
「ヴァリーくんとエルお姉ちゃんは魔法って使える?」
二人は当たり前のようにうなずいた。
「俺は親父から魔法教えてもらってたから、一応使える。まだ火の魔法だけだけど」
ヴァリーは父親からアルマを教えてもらっていたとあって、魔法に関しても一通りできるように鍛えられていた。
意外なのはエルだった。
「私は水と木と土の魔法が使えるかな。ウチ畜産農家だから、必要そうな魔法は早めに覚えたよ」
エルの家は豚や鶏など様々な家畜を育てている畜産農家だ。
広い牧場を有しているため、魔法を使う機会は多い。
ただ、そうだとしても小学生で三種類の魔法を扱えるのはかなり優秀だと言える。
「お前って見かけによらず、すごいんだな」
ヴァリーから珍しく褒める言葉が出たので、エルは上機嫌だった。
「まぁね。一応これでも優等生ですから」
エルは学校では成績優秀な生徒として知られている。
そう、ちょっと歪んだ性癖を除けば、エルはとても優秀な子供だった。
「二人ともすごいなぁ」
アインツはちょっと落ち込んだ。
しかし、アインツが魔法を使えないのは別におかしなことではない。
小学校を卒業する前の準備段階として、高学年で初めて魔法を覚える子が多いからだ。
ヴァリーとエルはむしろ早すぎるのである。
落ち込んだアインツを見て、エルはすごく元気になった。
「しょうがないわね。私がアインツに魔法のいろはを教えてあげるわよ」
ベンチに座ってるエルは、アインツを自分の横に座らせて、嬉しそうに木の棒で地面に文字を書く。
ヴァリーもついでにその様子を眺めていた。
「まず、魔法っていうのは基本属性があって、火・水・風・木・土の五種類が基本五属性ね。この属性は無属性からマナを変換してそのまま使うことができるから、基本って呼ばれてるの」
次にエルは氷と金の文字を書く。
「この二つは上級属性と呼ばれるものね。この属性のマナを作るのには二つの基本属性のマナを組み合わせる必要があるの。氷は水と風、金は火と土、っていう具合にね」
以前三人が見たアルマの試合でも氷や金の魔法が使われていたが、あれは選ばれしアルマのプロ選手だからできることである。
「で、最上級と呼ばれる属性もあるの。例えば雷とかね。雷は氷と風を組み合わせて作られるの。だから使うためにはまず上級属性の氷を使えるようになって、それからさらに雷属性を使えるようにならないといけないのよね。ハードルは本当に高いと思うわ」
上級属性だけでも覚えられるのは一握りだが、その上の最上級属性の魔法が使えるのは、この国でも数えられるほどしかいないだろう。
「属性に関しては大体こんな感じね。一応光と闇っていう上級基本属性って言うのもあるけど、あれは努力とかでどうこうなるものでもないし」
アインツはその名前に疑問を持った。
「基本なのに上級ってついてるのはなんでなの?」
「光と闇って無属性から変換できるから一応基本属性なのよ。ただ、変換効率がすご~く悪くて、他の基本属性の100倍マナが必要だったりするの。だから上級扱いになっているわ。」
エルの説明にアインツは納得した。
エルは説明を続ける。
「ただ、ときどき変換するのが得意な人がいて、その人達は光や闇属性を使えるらしいの。まぁ、実際に使ってる人なんて見たことないけどね。都市伝説みたいなものよ」
変換効率が悪いということは、それだけ体内のマナを大量に消費するということである。
人の体内に存在するマナの量は個人差があるとはいえ、そこまで大幅に増減するものではない。
だからこそ変換効率が悪い、光や闇の魔法は使われなくなっていた。
「魔法を使う上でまず大事なことは自分の得意属性を調べることだけど、こればかりは実際に魔法の練習をやってみないとね」
だが、三人が魔法の練習をするには大人が付いていないといけない。
少なくとも今日行うのは無理であった。
三人は相談の結果、早朝トレーニングに付き合ってくれそうな親を見つけるということで本日は解散となる。
帰り道の途中でアインツはエルにお礼を言った。
「ありがとうエルお姉ちゃん。すごくわかりやすかったよ」
そんなアインツの言葉にエルはときめいた。
そして、すぐさまアインツを抱きしめていた。
「アインツのためだったら、いくらでも魔法に詳しくなるからね。ぐへへ」
「う、うん。ありがとね」
こうしてアインツの何気ない一言から、エルは魔法について異常なまでに詳しくなっていくのである。




