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駆け引き

アインツがボール掴みを始めてから二週間が経過した。

アインツは家で毎日ボールを掴んでいることもあり、ボールを持ったままのランニングでも普段通りのスピードが出せるようになった。

そして、ヴァリーとのキャッチボールでも、ひょろひょろだったボールがズバン!と勢いのあるボールに変わっている。

「どう?ヴァリーくん。少しは成長した?」

「まぁ成長はしてるよ。ただここまでは前提条件だからな。シュート練習のための。」

ヴァリーはアインツの頑張りを認めながらも、褒めるようなことはしなかった。

なぜなら、ヴァリーがトレーニングメニューとして取り入れたかったのは、1対1のシュート練習だったからである。

アルマはボールを水晶柱に当てなければ得点にならない。

だからこそ、強いシュートを放てることは、アルマの強さに直結するのだ。

ヴァリーはアインツに丁寧に説明する。

「シュートの仕方っていうのは色々あるけど、基本的には利き手でボールを投げるのが一般的だな。」

「でも、ハッシェ選手は足でシュートしてたよ?」

「あれは異端中の異端な。足でボール蹴ったら威力はともかくコントロールが効かない。お前もやってみたらわかるよ。」

アインツは試しに目の前のボールを蹴ってみる。

すると、真っすぐ蹴ったつもりのボールが明後日の方向に飛んで行った。

それもそのはず、一般的なサッカーボールのサイズは直径22cmであるが、アルマのボールは片手でも掴める直径15cmである。

アルマのボールは本来、蹴ってコントロールするのには向いていないのだ。

「それができるハッシェ選手は技術的にも一流だし、スポーツ選手としても華がある。スター選手っていうのはああいう人を指すんだろうな。」

ヴァリーの話を聞いて、アインツは激しくうなずいた。

アインツはハッシェ選手の大ファンである。

ハッシェ選手が褒められるとアインツはめちゃくちゃ嬉しいのだ。

ヴァリーは公園に立っているオブジェを指さした。

石の台座に乗っているそのオブジェは上がキノコの傘のように半円でまだら模様、下はタコの足のような触手が何本も生えている、なんとも言えない不思議なオブジェである。

ヴァリーはそのオブジェに向かってボールを投げつける。

ボールはオブジェに勢いよく当たって跳ね返った。

跳ね返ったボールはベンチでウトウトしていてエルの頭に直撃する。

「いったぁ!!ヴァリー!よくもやったわね!」

エルはヴァリーに向かってボールを投げ返す。

もちろん、ヴァリーはそのボールを簡単にキャッチした。

その様子を見てエルは余計に腹が立つ。

ヴァリーはエルを無視してアインツに話を続ける。

「あれが水晶柱の代わりな。攻撃側はあれにボールを当てれば勝ち。守備側はそれを防げば勝ちだ。」

水晶柱の高さは本来3m、オブジェは2.5mほどの高さしかなかったが、子供のアインツ達からすればちょうどいいサイズだった。

まず初めはヴァリーがオブジェの前で構え、守備をする。

ボールを持ったアインツは、少し離れた場所で深く息を吐き集中をする。

「アインツ!いつでもいいからかかってきな。」

ヴァリーの言葉に反応するようにアインツは走り出す。

今はヴァリーが正面に構えているため、シュートコースはほぼ塞がれていた。

今はシュートできない。

アインツは右へ移動してシュートコースを探す。

が、それについてくるようにヴァリーは横にポジションをずらし、うまくシュートコースを潰す。

ヴァリーは守備もそれなりに鍛えていた。

アインツは苦し紛れで左へ切り返し、ヴァリーの隙をついてボールを投げる。

が、ヴァリーはそれを予想していたかのように、右腕を伸ばしボールをはじいた。

もちろんボールはオブジェには当たらない。

ヴァリーの勝ちだ。

「その程度のシュートじゃ、まだまだ俺は抜けないぞ、アインツ。」

「う~ん。シュートする隙を作るのって難しいね。」

1対1は駆け引きだ。

攻撃側はいかに相手を騙してシュートコースを空けさせるか、守備側はいかに騙されずに相手の邪魔をするか。

知恵と技術のぶつかり合いである。

「次は俺が攻撃する番だな。」

今度はヴァリーがボールを持ち、アインツが守備で構える。

守備にしてはいささか小さく、心もとないアインツだが、両手を左右いっぱいに広げて精一杯ヴァリーの邪魔をしようしていた。

「よし、じゃあ始めるぞ。」

ヴァリーがアインツに向かって走り出す。

それに応じるようにアインツも一定の間合いを取りながら、ヴァリーのシュートコースを塞ぐように動いた。

ヴァリーはボールを持った手を上や下に動かしながらフェイントを入れ、アインツをかく乱させようとする。

アインツもいつシュートが来てもいいように、必死に腕を上下させる。

ヴァリーが右に動けばアインツも左に、ヴァリーが左に動けばアインツも右に、一進一退の攻防が続く。

しばらく膠着状態が続いた後、ヴァリーは動いた。

ヴァリーは膝を曲げ、体の上体を低く構える。

アインツは下から抜かれると思い低い体勢を取るが、ヴァリーの狙いは違った。

ヴァリーはそこから膝を伸ばして飛び上がる。

そう、ヴァリーの狙いは高い位置からのジャンプシュートだ。

「いけぇぇぇ!!」

ヴァリーは落ちる勢いをボールに乗せながら、強くボールを投げる。

アインツも遅れて飛び上がり、腕を伸ばすがボールには届かない。

ヴァリーの放ったシュートはオブジェの頭に当たり、ボールは天高く跳ね上がった。

またもやヴァリーの勝利である。


その後も二人で1対1のトレーニングを続けたが、アインツがシュートを決めたのは二回のみ。

ヴァリーは二十回以上シュートを決めていた。

ここでもアインツとヴァリーの差が浮き彫りになった形である。

だが、へとへとになりながらもアインツは笑っていた。

1対1とはいえ、ボールを使ったアルマの練習ができること。

それが嬉しかったのだ。

「ヴァリーくん!もう1回やろうよ!」

アインツはまだまだ勝負を続けたかったが、ヴァリーは渋い顔をした。

「さすがに勘弁してくれよ。これ以上遅くなると馬車の時間に間に合わなくなっちまう。」

薄暗い早朝から始めたトレーニングだったが、気づけばもう太陽は高く上り、青空が広がっている。

アインツもヴァリーもエルも、この後学校があるのでそろそろ帰って準備をしないといけないのだ。

「じゃあ、また明日もやろうね。僕いっぱいシュートの練習するからさ。」

アインツとエルは公園でヴァリーと別れて家に戻る。

帰っている途中もアインツはずっとシュートの仕方を考えながら、エルに話しかけていた。

エルは楽しそうにするアインツの姿を見ながら、嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちになるのである。

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