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握力

次の日の早朝、アインツとヴァリー、そしてエルは公園に集まっていた。

エルはベンチで眠たそうな顔をして座っている。

エルの姿を見たヴァリーはアインツに不満を漏らした。

「なんでこの女がいるんだよ。」

「なんか、僕が心配でトレーニングの様子を見に来たみたいなんだよ。」

二人はベンチに座ってるエルを見る。

あくびをして眠そうにしているエルは明らかに不機嫌だった。

早朝からアインツとヴァリーが何をしているのか気になって、エルは無理して起きたのだ。

当然まだ眠いし、自分がなんでこんなことしないといけないのだと若干逆ギレ気味に二人を見ていた。

そんな視線から二人は目を逸らし、昨日話していたシュート練習の方法を確認する。

ヴァリーは家から持ってきたクリスタルボールを取り出した。

「これ、お前にやるよ。今度からそれを使って練習するから、早朝トレーニングに忘れず持って来いよ。」

「うん。わかった。ありがとね、ヴァリーくん。」

ヴァリーから受け取ったボールは、子供の手には少し大きい直径15㎝のボールである。

ガラスのように透き通る色をしたボールは弾力がありながらも結構硬い。

これがアルマの試合で使われる、クリスタルボールである。

選手はこのボールを片手で持ち、守りながらフィールドを駆け抜ける。

ヴァリーはもう一つのボールを取り出し、左手で掴む。

「まずはボールを持ちながら走ってみろ。これができないと話にならないからな。あ、持つのは利き手と反対側にしろよ。」

ヴァリーに言われた通りアインツは利き手とは反対の左手でボールを掴む。

これがアインツにとってはかなりしんどい。

ボールが大きいのに加え、慣れない左手でボールを掴んでいるからだ。

「ヴァリーくん。なんで利き手使っちゃいけないの?」

「いや、だってボール持ちながら魔法で攻防するんだぞ?魔法を放つなら利き手の方が絶対速いだろ。」

ヴァリーの言う通り、アルマでは魔法での攻防が必須である。

そのため、普通選手は利き手を空けておき、いざという時に対応できるようにしておくのが一般的である。

「じゃあ今日のランニングはボール持ちながらな。途中で落として無くしたりするなよ。」

そういってヴァリーはボールを持ち、いつものランニングを始める。

ヴァリーに置いて行かれたアインツは「待ってよぉ。」と焦りながらヴァリーを後を追いかけた。

そんな二人を余所にエルは…完全にベンチで眠っていた。


ボールを持ったままのランニングは、アインツにとってかなりきついものとなっていた。

「あっ!」

アインツはボールを落とす。

これで4回目だ。

アインツは再びボールを左手で掴み、走り出す。

このようにアインツはボールを落としては拾うことを繰り返していた。

それもそのはず。

まずボールのサイズがアインツの手に対して大きい。

かなり手に力を入れないとボールが手から零れ落ちてしまうのだ。

しかも、慣れない左手でのボール掴みである。

ボールを掴んで維持するだけでも、握力をかなり消費した。

そして、極めつけはランニングの衝撃である。

ただでさえ不安定なボールは、地面に足をつく度に手から滑り落ちそうになる。

それを必死に耐えながらアインツは走っていた。

だが、アルマの選手からすれば、ボールを掴んだまま走ることは当たり前のことである。

その当たり前のことが、実は難しいことなのだということをアインツは身をもって体験していた。

結局今日のアインツはボールを20回以上落として、ランニング二周を完了した。


アインツが公園に帰って来ると、ヴァリーは待ちくたびれたように、公園のオブジェに向かってボールを投げ、一人でキャッチボールをしていた。

「遅いぞ、アインツ。そんなにボール持ちながらのランニングはきつかったか?」

ヴァリーの言葉にアインツは疲れた表情を見せる。

「すっごく大変だったよ。ヴァリーくんはボール落とさなかったの?」

アインツの言葉にヴァリーは笑う。

「落とすわけないだろ。俺とか赤ん坊の頃からこのボール使って遊んでたんだぞ。」

そう、ヴァリーの父親はアルマの元プロ選手だ。

小さい頃からボールと触れ合う機会があっただろう。

ヴァリーは自分の持っているボールをアインツに向かって投げる。

アインツはちょっともたつきながらそのボールをキャッチした。

「今からキャッチボールするぞ。その方が早くボールに慣れるだろ。ほら、アインツもボール投げて来いよ。」

アインツはヴァリーに向かってボールを投げる。

ボールは勢いがなくひょろひょろと飛んでいくと、ヴァリーよりもかなり手前に落ちて転がるようにバウンドした。

「お前…腕力弱すぎだろ…。」

これにはヴァリーも呆れていた。

そう、アインツは元々筋力が低い。

ヴァリーとのランニングのおかげで、体力と脚力は付いたものの、腕力に関してはほとんど成長していなかったのである。

「ほんと、ごめん。」

アインツはしょんぼりした。

するとヴァリーは殺気を感じて振り返る。

そこにはいつの間にか起きて、ベンチから睨みを利かせるエルの姿があった。

アインツにひどいことするんじゃないぞという無言の圧を放っている。

ヴァリーは再びアインツの方を向き、何事もなかったかのようにキャッチボールを続けた。

「まぁ、こうやって続けていれば自然とボール投げるのも上手くなるよ。」

結局この日はキャッチボールをするだけでトレーニングを終了した。

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