目標
試合を見ていた三人はしばらく言葉を失っていた。
今回の試合は選手の攻防や駆け引きがとてもハイレベルで、滅多に見れない激戦だったからだ。
「すごい試合だったね」
アインツはそう表現することしかできなかった。
そんなアインツと同じように「すごいよな。ほんとに。」とヴァリーは言葉を漏らす。
気が付けばヴァリーは画面を睨みつけていた。
これが自分の目指す険しい道だと、再確認したからだ。
エルはそんな二人の様子を見て、二人が真剣にアルマと向き合っているのを感じとっていた。
試合が終わり、ヴァリーがマナビジョンを消す。
そして、三人は作戦会議を再び再開した。
ヴァリーはアインツの部屋の本棚からアルマ完全マニュアルというタイトルの本を取り出す。
パラパラとページを確認し、ヴァリーが開いたページはポジションの説明が書かれてるページだった。
ヴァリーは二人にも見やすいようにページを開いて絨毯の上に置く。
「各ポジションの基本陣形は五芒星。センターラインを上で見ると中央上部がフロントアタッカー(FA)、右中部がインタラプションクリーナー(IC)、左中部がワイドサボタージュ(WS)、右下部がビクトリープランナー(VP)、左下部がクリスタルキーパー(CK)となっている。もちろん戦略によって配置や場所が変わることもあるが、一番スタンダードな形がこれだな。」
アインツとエルはヴァリーの説明を聞きながらうなずく。
「各ポジションの説明は試合中に言った通りだ。まぁ、ざっくり分けると攻撃役が上3人、防御役が下2人ってことだな。攻撃役は相手陣地に攻め入るから瞬発力、シュート力、攻撃魔法が必要。防御役は反射神経、判断力、防御魔法が必要。」
ヴァリーが説明した能力以外も必要ではあるが、特に優先すべき項目がこれである。
「まずはここから分けるか。アインツ、お前は前衛と後衛どっちがいい?」
アインツは少しだけ考えて「やっぱり前衛かな。ハッシェ選手に憧れてるのもあるけど、後衛って賢くないとできなさそうだし、自分向いてなさそうな気がする。」
それにはヴァリーも、そしてエルもうなずいた。
アインツがあまり賢くないのは、周知の事実であったからだ。
まぁエルはそんなアインツだからこそ、かわいいと思っているのだろうが。
ヴァリーは前衛に向いたトレーニングを一通りあげる。
「まず、瞬発力を身に着けるなら今やってるランニングも大事だけど、シャトルランのように短い短距離走を繰り返すのもいいよな。」
ヴァリーの提案に嫌そうな顔をするのは何故かエルだった。
「聞くだけでも苦しそうな練習ね。」
「そりゃそうだろ。トレーニングに楽なもんなんかねぇよ。意味ねぇし。」
ヴァリーは話を続ける。
「シュート力のトレーニングだったら、1対1でシュート練習するのが一番だな。ボールさえあれば公園でもできるし。」
そういうヴァリーにアインツは首を振った。
「僕ボール持ってないよ。クリスタルボールって意外と高いし。」
そう、アルマで使われるクリスタルボールは、マナを込めても大丈夫なように作られているため、意外と値が張る。
色んなグッズを買ってもらったアインツだが、クリスタルボール自体はまだ手に入れていなかった。
だが、そんなアインツに対してヴァリーは平然と言う。
「それなら1個お前にやるよ。ウチに腐るほどボールあるし。親父のお古だけど。」
そう、ヴァリーの父親はアルマの元プロ選手なのだ。
もちろん自宅で練習もできるように、クリスタルボールをたくさん持っていた。
だが、今は使われることがほとんどなく、倉庫でほこりを被っている。
ヴァリーの言葉を聞いてアインツは喜んだ。
具体的に言うと、ベッドの上で飛び跳ね、天井に頭をぶつけて痛がりながらも、笑顔でいられるくらいだ。
そんなアインツの頭を優しく撫でながらエルは言った。
「あんたのお父さんって元プロの選手なんでしょ?またボールを使うことってないの?」
エルの問いに対してヴァリーは少しうつむきながら言った。
「親父はもうアルマをすることはねぇよ。少なくとも俺はそう思っている。」
ヴァリーの表情は明らかに曇っていた。
なにか事情があるのだろう。
だが、エルはそれについて詳しく聞くことはしなかった。
ヴァリーもそれ以上、父親の話をせず話題を戻す
「じゃあ、明日から1対1でシュート練習をするか。ちょっと正規のボールはお前には大きすぎるかもしれないけど、今のうちに慣れておくのも悪くないだろう。」
「うん、わかった。明日から楽しみだね。」
嬉しそうなアインツの言葉が出たところで、本日の作戦会議は終了となった。




