兎狩り
アインツは二周、ヴァリーは三周のハンデ戦。
この勝負がなかなか面白い。
一周分ハンデがあるということは、二人同時にスタートした後、走り終わるまでにアインツがヴァリーに抜かされればアインツの負け、抜かされなければアインツの勝ちである。
つまりアインツは逃げる側、ヴァリーは追う側になるのだ。
だが、肝心なのは走っている間に相手との距離がわからないことである。
そう、二人はお互いとの差がわからない中、見えない敵と戦うのだ。
こういう風にプレッシャーをかけられると自然と速く走りたくなるものである。
しかし、これは長距離走。
約1時間半もの勝負である。
スタミナ配分を間違えると、逆にタイムが遅くなってしまう。
いかに自分を自制しながら最高の走りができるか。
その一点が勝負を決める。
翌日、二人はいつも通り公園に集まり、一緒にストレッチを済ませる。
そして、アインツは二周、ヴァリーは三周、全力のハンデ戦が今始まろうとしている。
「3.2.1.スタート!」
ヴァリーの掛け声で二人は一斉にスタートした。
同時にスタートすれば、やはりヴァリーが速い。
アインツとの差をどんどん広げていく。
アインツは少しでも差が開かないよう、必死に走る。
が、どんどんヴァリーの姿が小さくなり、とうとう見えなくなった。
アインツは焦るが、これ以上ペースは上がらない。
それに体力の心配もあった。
今回アインツは二周走らなければいけない。
アインツはできるだけ急ぎながらも、疲れないように走ることを心掛ける。
そして、アインツは一周目を走り終え、二周目に入る。
アインツの体力はまだ残っている。
この一か月間トレーニングを続けてきた成果だ。
一周目よりもペースは少し落ちているが、それでもまだアインツはしっかりと走っている。
こうして二周目も残り三分の一となったところで、アインツがかすかな足音に気づく。
アインツが振り返ると、まだ距離は離れているものの、目視でヴァリーを捉えることができた。
ヴァリーにはもちろんアインツが見えている。
ペースを上げ、アインツに追いつこうと必死だ。
アインツも負けじとペースを上げた。
体中の筋肉が悲鳴を上げているが、それでもアインツは耐えて走る。
ヴァリーに負けたくないからだ。
お互いに限界は超えていた。
ここからは意地の張り合いだ。
アインツは必死に腕を振り、大地を蹴り、前へ進む。
後ろから聞こえてくる足音は次第に大きくなってきた。
ヴァリーとの差が縮んでいるのは明らかだ
だが、アインツは振り返ることはしない。
ただ前を向いて走り続けた。
そして、アインツが抜かされないまま、残り1kmを切ったところで事件が起きる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!アインツぅぅぅ!」
ヴァリーが吼えた。
これにはさすがのアインツも後ろを振り返る。
するとどうだろう。
普段クールな表情のヴァリーが、獣のような表情で追いかけてきていた。
それはまるで獲物を追いかける狼のように。
アインツは再び前を向き、必死に逃げる。
アインツには後ろから追われる恐怖があった。
だが、負けたくない。
その気持ちがアインツを突き動かす。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
アインツも吼えた。
二人は残った力を全て出し切って走る。
全力の走りだ。
そして、その結果…。




