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誰も読まない恋愛小説  作者: せつなとわ
8/19

青春は回り、僕は誰かを好きになる8

家に着くと、玄関前で傘の水滴を落としてから引き戸をあける。


いつもはまだ薄暗いはずのダイニングから明かりが漏れていた。


中に入ると、


「おかえり。雨すごいわね。濡れたのなら着替えてきなさい」


母は寸胴鍋ずんどうなべで何かをコトコトと煮込んでいた。


共働きもあって、できあいのおかずや惣菜の頻度もそれなりだったが、時間があると母はたいてい長い髪をくくって料理を作る。


「きょう、暇なの?」


かばんを置きながら訊くと、母はお玉で何かをかき混ぜる手をとめた。


「ご挨拶ねえ。言ってなかったかしら、午後から半休だったのよ」


「へえ。で、なに作ってるの?」


少し笑った母は、いつものシチューよ、と答えた。


「じゃあ、部屋いってるから。できたら呼んで」


僕は言い置いて、階段を駆け上がった。


ちょうど部屋へ入ったところでスマホが鳴ったので、画面を見ると、〝永田朔太郎〟とあったのでスワイプして電話に出た。


「電話なんて、めずらしいな。なにか用あった?」


「いや、急用ってわけじゃないんだけど。その、『ブック・アラカルト』の原稿は書けたかなって思って」


「まだ、ぜんぜんだよ」


「そうか。でも、題材はもう決めたんだろう?」


と朔はわかったように言った。


「ああ。一応は決めたんだけど……」


「俺には言いにくい?」


「そういうわけじゃないよ。ちょっと気恥ずかしいというか。まあ、アンネ・フランクの伝記なんだけど」


朔は意外そうに、ふむ、と言うと、アンネの話を熱心に始めた。


その不自然な饒舌さに、ほんとうは僕に何か言いたいことがあるんじゃないか、と猜疑してみたりもした。


二十分ほど、朔はほとんど一方的に話したが、階下から夕飯の声がかかったのを機に僕は朔の話をさえぎって、母が呼んでるから、と電話を切った。


スマホをベッドに投げると、シチューの良い匂いのするダイニングへと降りていった。


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