青春は回り、僕は誰かを好きになる7
校門を出ると、ゆるやかな坂が駅へと続いている。
半ばまで来たところで、前方を歩く大き目で薄緑のビニール傘が振り返った。
同じクラスの小畑俊一が足を止めて、僕と確認してから、
「駅まで一緒にいかね?」
と訊いてきたので、うん、と返事をした。
小畑は僕の歩調に合わせると、ちょっと傘をくるくると回した。
「有末は世界史得意だよな。うらやましいよ、俺ぜんぜんダメだからさ。文系コースにしては数学は得意なんだけど。受験までまだあるし、三年から理系に転科するのは無謀かな。暗記、苦手なんだよなあ。なんかコツとかあんの?」
小畑のまったく邪気のない質問に、すこし面食らう。
「コツっていうか、歴史系の科目は丸暗記と思わない方がいいんじゃない。それより個別の事象を関連づけて、流れで覚えた方がいいかも」
横断歩道の信号が赤に変わって人々が溜まりだし、僕たちも足を止めた。
「流れ、ねえ。どうもピンとこねえな。やっぱ向き不向きの問題なのかもなあ」
「まあ、僕は逆に数学はさっぱりだから……」
信号が変わり、前から順に人の動きが起こってくる。
駅が近づくにつれて、人々の密集度は増していく。
それにつれて、傘の色も多彩になっていく。
僕の意見に小畑は何かひとりで首をかしげている。
背が高いので、小畑がさす傘はひときわ高いが、そのぶん顔あたりに他人の傘がきてしまう。
淡々と奇をてらわない割に妙に注目を集める小畑のことを、僕は好ましい人間だと知りつつも、ちょっと遠くに感じている。
駅に着いたところで、別の私鉄に乗る小畑とは別れた。
特段、親しいわけではない僕と駅まで歩いたのは、気まぐれなのか、本当に世界史のコツが知りたかったのか。
考えても仕方のないことだけが、明滅するように頭に浮かんでは消えた。




