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誰も読まない恋愛小説  作者: せつなとわ
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青春は回り、僕は誰かを好きになる6

中野さんはいつも図書室にいた。


僕らが入学する数年前から勤務しているらしく、図書室のことならなんでも教えてくれた。


いつも図書室でしか会わないので、常に本と共にいる人といったイメージだ。


初めて図書室に来たとき、あら、本が好きそうな顔、と言われたことを思い出す。


本は好きだったが、もしかしたら足繁く図書室に入り浸るようになったのは、あの一言がきっかけだったかもしれない。


図書室を使う生徒は多くいた。


それでも半月たつ頃には、中野さんは僕のことを認識していてくれたと思う。


僕はエキゾチックな彼女が時折見せる無垢な微笑みが好きだった。


だが、憧れと恋愛の中間のような、あいまいな好意はときに苛立いらだちを加えることもあった。


僕は自分の幼さがうらめしかった。


彼女の前で、どこか甘えたような態度をとってしまう自分も嫌いだった。


短い沈黙のあと、中野さんは、有末くんは、と言った。


「シュトゥルム・ウント・ドラングって知ってる?」


僕は息をひそめて黙った。


「あ、ごめんね。謎かけをしているわけではないの。日本語では疾風怒濤って訳されることが一般的なんだけど。要するにざっくばらんに言うと、感情を爆発させろ的な? うーん、ちょっと違うか、これじゃ岡本太郎になっちゃうね」


中野さんは自分で言って苦笑した。


「しっぷうどとう? 字がわからないです。意味もよく……」


「こうよ」


検索用のメモ用紙にさらさらと中野さんは書いてくれた。


「難しい字でしょ。これね、十八世紀ドイツの文学運動の名称なの。ゲーテやシラー、名前くらいは聞いたことあるかしら。一番有名なのは、たぶんゲーテの『若きウェルテルの悩み』ね」


中野さんは語りながら、どこか視線は遠くを見ているようだった。


「なんでこんなことを言うのかっていえばね、アンネも一生懸命に疾風怒濤の時代の作品を読んでいたらしいわ」


「そうですか」


と僕は頷いた。


それ以外の言葉が出てこなかった。


頭を下げたあと、図書室を早足で出ると、ため息が漏れた。


雨が降っている。


正面の校舎では、いつもはグラウンドで練習をしている運動部が筋トレやダッシュを繰り返している。


僕はなにも知らないんだな、と歯噛みしたくなる。


同級生より少し本を読んでいるからといって、授業中に得意気に解説してみせたところで、自分はちっぽけな存在だと、ダウナーな気分から逃れることはできなかった。


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