青春は回り、僕は誰かを好きになる14
仰向けになって、澄み切った星空を眺めていると音も時間も消える瞬間がある。
刺激のない田舎は嫌いだが、こんな時ばかりは幸福に思う。
人間を葦にたとえた哲学者がいるけれど、果てのない宇宙を想うとあらゆることがちっぽけになるのは間違いない。
朔とふたりで腹を割るときは、いつもここへ来る。
この『星美』と呼ばれる山頂の公園は、意図的に灯りが抑えられていて夜は静かだった。
「星を見るときばかりは、夜景がなくていいよな」
隣に寝っ転がっている朔の声だけが中空に吸い込まれていく。
朔の表情も佇まいも何も見えないが、どこか遠くまで一緒に意識を飛ばそうとしているという感覚だけは伝わってきた。
朔が僕にあわせてくれることが当たり前になっていて、時折、朔には朔の人生があることを忘れそうになってしまう。
「怒ってるか? ここ数日、海の様子がへんなのは俺のせいだよな。だから、謝ろうと思って」
朔は申し訳なさそうに言い、僕は首を振った。
暗闇のなか、隣の朔には見えるはずもなかったが、それは伝わっていると思った。
横を向くと、朔もこちらを見ていた。
気配だけで目が合うと、朔は気まずそうに視線を空へと戻した。
「朔のせいじゃないよ」
「気をつかわなくていい。パソコンルームのときの俺の態度はひどかった」
朔の声は真摯でいて、恥ずかしそうで、さらに気まずそうで、いろんな感情がごちゃまぜになっている。
「ほんとうに朔のせいじゃないんだ」
「なら……」
と半ば絶句するように朔はうめいた。
「くだらないことなんだ」
僕は呟いた。
空の星々はすべての感情を吸い込むかのように瞬《またた》いている。
「理由を教えてくれないか?」
と訊く朔の気配は再びこちらを向いていた。
僕は虚空に視線をとどめたまま、嫉妬なんだ、と思い切って答えた。
「嫉妬? よく言っている意味が分からないけれど……」
「朔、最近僕の知らないところで小畑くんや相沢梨亜子と話しただろ。そこで僕の書いている内容を話したよな」
朔の体が動いた。
動揺が伝わってくる。
「なんか、まずかった……?」
「まずくないよ。別に隠すことじゃないし。だから言ってるだろ、ただの嫉妬だって」
僕は星空から、もう一度朔の方を見て振り切るように言い放った。
あまりの自分のちっぽけさに、朔の顔を見れなくてよかったと思った。
そして、それでも暗闇に浮かぶ朔の体の輪郭に僕は何とも言えない苦味を覚えていた。




