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殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します!  作者: 大森 樹


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26 プロポーズ

「陛下、ご無事でなによりです」


「当たり前だろう。それに私にハニートラップをかけるとは舐められたものだ。ケントは敵情視察が甘かったな」


 ハッハッハと豪快に笑っている陛下は、傷一つなく元気なようだ。


「陛下のお傍を離れ、申し訳ありませんでした」


 ジルヴェスターは片膝をつき、深く頭を下げている。


「顔をあげろ。私の傍には聖獣(レイモンド)がいるし、デニスとケヴィンもいたのだ。何も案ずる事はない。それに騎士団長であるお前が、首謀者であるケントを追うのは当たり前のことだ」


 ケントはあのまま海に沈み、彼の生家のローデンヴァルト公爵家も隣国のスパイをしていた証拠が揃ったため取り潰しになったらしい。


 隣国はパチーニャ王国を内側から潰し、戦争を仕掛け……勝った暁にはローデンヴァルト家に領地を与え新しい国を建てる許可を出していたらしい。とんでもない計画だ。


 ケントはそれに大人しく従うふりをして、実際は隣国まで乗っ取り自分が大国の王になる計画だったようだが……やはり恐ろしい男だ。


 陛下は舞踏会の夜、招待客だった隣国の美しい第一王女に『気分が悪いので部屋に送ってくださらない?』とそれはそれは色っぽい視線を投げられたらしい。


 その誘いにわざとのる振りをして、逆に返り討ちにしたそうだ。ジルヴェスター曰く、陛下は好色だが自分の妻以外は決して手を出さない……らしい。例え口説いたとしてもそれは戯れの範疇ということみたいだ。


「まあ、ジルヴェスターが王女が偽物だと先に気が付いていたのもあるがな。お前は流石だよ」


「いえ、当然の事です」


 ジルヴェスターは王女とすれ違った時に、以前会った時より身長が低いことに気が付きおかしいと目をつけていたらしい。


 ――そんなことわかるの!?


 私からしたら信じられないけれど、彼は怪しく感じすぐに陛下や騎士団員達に秘密裏に報告をしていたそうだ。


「捕まえたが見事な変装だった。それに……暗殺役の女はケントの魔力で操られていた」


「やはりそうでしたか」


「何故自分がこんなことをしたのかわからないと泣き続けているらしい。さすがに無罪にはできぬが、彼女も被害者というわけだ」


 王宮内にはケントの魅了の魔法で操られ、知らないうちにスパイ活動をさせられていた女性達が沢山いた。侍女や貴族令嬢達……その数は両手では足りない程だったそうだ。


「隣国はなんと?」


「今のところ知らぬとしらばっくれているが、我が国を狙った証拠を集めて今の愚王を引き摺り下ろす。キッチリ落とし前つけてもらうさ。こちらに優位な友好条約を結ぶか我が国に吸収されるか……選ぶことになるだろう。必要な時はお前の力も借りるぞ」


「はい。しかし、できれば穏便に」


「わかっている。この国の利益になれば良いのだ」


 冷たい顔で微笑む陛下は……さすが一国の王だ。


「そういえば、お前はデニスとやっと仲直りしたそうだな」


「……はい。ご迷惑をおかけしました」


「全くだ。私は何度も会いに行けと言ったではないか!お前達二人が居れば騎士団は最強だったというのに、ケントに騙されて揉めやがって」


 ジロリと睨まれ、ジルヴェスターは無言のまま口を引き結んだ。


「陛下、もう勘弁してくださいよ。俺は遠くからこの国を守ると決めたんですから」


 陛下の後ろに控えていたデニス様がひょっこりと顔を出した。


「デニス……!お前、まだ王都にいたのか」


「ああ、色々あったから滞在を伸ばした。アンナ嬢が無事で良かった」


 デニス様はこちらを見て、優しく微笑んでくれた。私はペコリと頭を下げた。


「お前のおかげだ」


「ははは、俺って頼りになるだろ?」


「……調子にのるな」


 ギャーギャーと言い合う二人はまるで子どものようだ。いつものジルヴェスターとは雰囲気が違い過ぎて、私はくすりと笑ってしまった。


「こいつあの時シュバルツの気配が薄れたことでアンナ嬢に何かあったことに気が付いて、顔面真っ青で駆け出していったんだよ」


「おい、デニス……いらないことを言うな!」


 ジルヴェスターは焦りながら、デニス様の口を塞いだ。


「そうそう。こいつは一番に守るべき国王陛下の私を放置して君を選んだんだ」


 ニヤニヤと笑っている陛下も加勢して、ジルヴェスターを攻撃し始めた。


「……()()!その件はさっき謝ったではありませんか。それにあの時はもう安全だと確信してたから離れたんです」


 彼はムスッとしたまま淡々とそう話している。完全にこれは二人に揶揄われている。


「ハッハッハ、それだけアンナ嬢のことが好きだと言うことではないか。あの万年冷徹男がこうも変わるなんて恋愛とは面白いものだ」


「……誰が万年冷徹男ですか」


 ジルヴェスターは不機嫌にギロリと陛下を睨みつけている。


「もちろんジルヴェスターのことだろ!そうですよね?陛下」


「そうだぞ。お前は男にも女にも冷たい。ちなみに私にも冷たい」


「俺にも冷たいです」


『ジルヴェスターが優しいのはアンナ嬢にだけだもんなー?』


 二人の声が同時にハモリ、楽しそうにわいわいと騒いでいる。どうやらこの二人は性質が似ているらしい。


「……アンナ、行くぞ。もうここにいる価値がない」


 無表情のまま私の手を取って、陛下の部屋を出て行こうとした。


「ジルヴェスター、忙しいだろうが俺の結婚式に来てくれ」


 デニス様は少し緊張した様子でそう言った。どうやらブルーナさんに正式に婚約を申し込んだらしい。ああ、良かった。


「……行くに決まっているだろう。その前に私達の結婚式に君達二人で来い」


「ああ」


「お前が向こうに戻る前に一度飲みに行くぞ。騎士団にも顔出せ」


「……ああ」


 二人でコツンと拳を合わせて、フッと笑い合った。その様子を陛下は満足気に眺めていた。


 ――仲直りできて良かった。






♢♢♢







 ジルヴェスターは王宮からの帰りに、綺麗な川の流れる森の中に連れて行ってくれた。この辺りは結界が張ってあるので魔物は来ないらしい。


 もちろん移動は大きく変化したシュバルツに乗った。最初はこの移動が怖かったが、今ではもうすっかり慣れたものだ。


「シュバルツありがとう」


 お礼を言って顔を撫でると、嬉しそうに「ワフっ」と鳴いてペロリと頬を舐められた。


「シュバルツ、近いぞ。お前はオスだ。簡単にアンナを舐めたりするんじゃない」


「?」


 シュバルツは「ん?」と首を傾げている。グイッと私とシュバルツの間に手を入れて、邪魔をしてくるジルヴェスターは心が狭いらしい。聖獣に嫉妬ってどういうこと?まさかこの人が恋人をこんなに溺愛するタイプだとは思わなかった。


「デニスとまた話せるようになったのは全部アンナのおかげだ」


「え?」


「私は……怖かった。あいつにまた拒否をされるのが。周りからはこの国一強いなんて言われているが、誰よりも弱かった。そしてその弱さを自分で認めることすらできなかった」


 そりゃあ、あんなことがあったのだからそうなるのも当然だ。


「女性をあからさまに遠ざけていたのも、私のせいで同じような犠牲者が出るのが恐ろしかったからだ。それに私の中身なんて誰も見ていない。金や顔だけで好きだと言われるのも……うんざりしていた」


「そうだったの」


「でもアンナに出逢って……慣れないことを一生懸命頑張る君を好きになった。素直に怒ったり笑ったりする君が羨ましかった。君が居れば楽しくて、君がいないとつまらなかった。なのに、この気持ちを認めたら何かを失う気がして逃げていた」


 寂しそうな顔をして話すジルヴェスターの手をギュッと握った。


「アンナはいつも真っ直ぐで……とても眩しい。毎日暗かった私の生活に光をくれたのは君だ」


 彼はこちらを見て優しく微笑み、手を握り返してくれた。


「これを受け取って欲しい」


 彼は繋いでない方の手でポケットから、ビロードの小さな箱を取り出した。そしてそっと手を離し、箱を開くと私の前に跪いた。


「ジルヴェスター•バルトはアンナ・オオイシを愛しています。この命尽きるまで君を守り、君だけを愛することを誓う」


 箱の中にはキラキラと光り輝く指輪が入っていた。


「私と結婚して欲しい」


「……はい。喜んで」


 ジルヴェスターはくしゃりと顔を崩して笑い、私の左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。


「よく似合っている」


「ありがとう。嬉しい」


 私は指輪をつけた左手を空にかざして、何度も眺めてしまった。


「気に入ってくれて良かった。ずっと一緒にいよう」


「はい」


 まさかきちんとプロポーズをしてくれると思っていなかった。バルト家での告白がプロポーズだと思っていた私は、驚いたが……嬉しかった。








「実は、あなたが告白してくれるまでは日本に戻ろうかと思っていたの」


「……え?」


「ほら?ケントに命を狙われる危険も無くなったし、あなたの傍にいるのも迷惑かなって思っていたから」


「何だって!?アンナはそんなとんでもないこと考えていたのか!?」


 ジルヴェスターは余程驚いたのか、大声で叫んだ後私を後ろからぎゅうぎゅうと抱き締めた。


「ニホンに戻るなんて絶対に駄目だ」


「うん、ここにいることに決めたわ」


「君のいない世界なんて考えられない!そんなこと二度と言わないでくれ」


 その発言をしてからジルヴェスターにずっと引っ付かれて、私はこの日寝る直前まで彼に甘えられる羽目になってしまった。




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