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殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します!  作者: 大森 樹


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22 絶体絶命

「全部終わるまでここで大人しくしておいてくださいね。出港までまだ時間がありますから」


 彼はそれだけ告げて、また扉を閉めガチャンと鍵をかけた。どうやら私は港の近くにいるらしい。最初の予想通りここは馬車の荷台なのだろう。


 ――ジルヴェスターが死んでる?


 まさか。そんなことはあり得ない。彼はこの国一強いのだから。


 私は縛られた腕を必死に動かして、ポケットを探った。そこに私が探していたものがちゃんとあった。


『防御魔法を指輪に込めれるだけ込めた。衝撃があれば自動的にバリアを張って君を守ってくれる。同時に君の居場所も私にわかる』


 ジルヴェスターはそう言っていた。なぜ私はあの時、指輪を外していたのかと後悔した。


 私は苦戦しながらもなんとか指輪をつけることができた。ここで……防御魔法を使うことが正しいのかはわからない。


 きっとこれからもっとピンチな場面があるだろう。だけど、どちらにしてもこの指輪がケントに見つかれば捨てられるだけだ。


 私は覚悟を決めた。これを使えば、ジルヴェスターに私の居場所がわかるし『生きている』ことは伝えられる。もしかしたら、私のことを考える暇などないくらい彼自身がピンチな場面かもしれないけれど。


「痛そう……」


 そもそも自分で傷つけてこの指輪は防御してくれるのだろうか。もの凄く不安だけど、やるしかない。女は度胸よ!


 私はケントが置いていったグラスを投げて割った。ガシャンと音がしたので、肝を冷やしたが……誰も来ることはなかった。私はずりずりと身体を動かして割れたグラスに近付いた。


「よし……!」


 私は目を瞑って、尖ったグラスの破片に向かって手を思い切り押し付けた。


 その瞬間、私の身体に光が纏いパリンという音と共に指輪の石が割れた。


「痛く……ない」


 ホッとしたら、ふりゃりと力が抜けた。細かい破片で小さな傷はできたが、こんなのかすり傷だ。これからどうなるかはわからないが、私はギリギリまで絶対にこの命を諦めない。あんな男に何度も殺されてたまるものか。




♢♢♢





「アンナ、行きますよ」


 しばらくすると、また急に扉が開き荷台から引っ張り出された。


「チッ、あの男……。本当に鬱陶しい」


 ケントは苛々しながら舌打ちをして、私を乱暴に担ぎ上げ大きな船に乗せた。


 ――きっと何かあったんだわ。


「あいつはなぜここがわかったんだ。しかし、海に出て隣国に渡ってしまえばこっちのものだ」


 そうだ……このまま船が動き出すのはまずい。どうにかしなければと私は必死に暴れ回った。


「助けてっ!」


 大声でそう叫ぶと、私を床に下ろして無理矢理手で鼻と口を塞がれた。息ができなくて……苦しい。


「アンナ、死にたいんですか?」


 冷たくそう言い放った彼の目は、日本で殺された時と同じように赤く光っていた。


「僕はあなたを殺したくないんですけどね?」


 口を塞がれたまま反対の手で、ギリギリと首を絞められる。そして私の薬指に付いている割れた指輪をチラリと見つめた。


「魔石……こんなもの隠し持っていたのか。じゃあ……アンナがあいつを呼んだんですね」


「ゔっ……」


「あなたは悪い女ですね?でも僕を一番愛してると言えば許してあげますよ。僕は心の広い男ですから」


 ニコニコと微笑みながら、首を絞めている姿はチグハグ過ぎて頭が混乱する。彼はいきなりパッと手を離した。


「チャンスは一度きりです。さあ、どうぞ」


 はぁ、はぁ……やっと息が吸えた。この男は本当に私を殺すつもりだ。


「十……九……八……」


 ケントは勝手にカウントダウンを始め出した。頭ではわかっている。こいつを『愛してる』と嘘をつけば、とりあえずは生き延びることができる。


「五……四……」


 たった一言『愛してる』と五文字を言えば、殺されないのだから簡単な話だ。


「……言うわ。よく聞いて」


 私がそう伝えると、ケントはニコリと微笑みカウントダウンをやめた。すう、と大きく息を吸い込んだ。










「私はジルヴェスター•バルトの婚約者。あなたのことなんて大嫌いよ!!」










「……残念」


 彼は無表情のまま、両手で私の首を強く締め付けた。さっきより遠慮のない締め付けに、本気で殺しにかかってきているのがわかる。


「ああ、アンナの能力無くすのは惜しいですね」


「ぐぅ……う……」


「だけど僕に楯突くなら仕方ない。外見もナハトに似ていてお気に入りだったのに。死んでも魔法でそのままの状態で綺麗に保管してあげるからね」


 この男に死体を奪われるなら、ここで海に落ちてサメの餌にでもなったほうがマシだ。


「さようなら。愛してたよ」


 目の前がだんだんと霞んできた。私は……やはりこの男に殺されてしまうのか。


「ジル……ヴ……スター」


 どうか無事でいて。ずっと辛かった分、あなたをちゃんと愛してくれる人を見つけてね。





 ――今までありがとう。










「アンナっ!!」









 私の名前を叫ぶ声が聞こえて、意識が飛びそうだったのに現実に引き戻された。


「その手を離せ」


 彼は剣を思い切り振り抜いたが、ケントは魔法でバリアを作り当たる寸前で避けた。彼が離れたことで私はやっと息が吸えた。


「げほっ……こほっ……こほ……」


「アンナ、大丈夫か?」


「だい……じょ……ぶ」


 ジルヴェスターは素早く縄を切り、優しく抱きしめてくれた。額に汗をかいた余裕のない彼を初めて見た。きっと急いで来てくれたのだろう。


「生きててくれて……本当に良かった。怪我をさせてすまなかった」


 彼はすぐに身体を離し、苦しそうに顔を歪めながら私の首をそっと撫でた。


「陛下は?」


「もちろん無事だ。向こうはデニスとケヴィンに任せてきた。デニスと話せたのはアンナのおかげだ」


 どうやらデニス様と仲直りできたらしい。それを聞いて私はホッとした。


「シュバルツは?シュバルツを出して。私に触れたら回復できるはずよ」


「……弱っているが大丈夫だ。アンナも傷付いてるからだめだ」


「お願い。シュバルツは私を守ってくれたの」


 私は懇願するように、ジルヴェスターの服をくしゃりと掴みじっと見つめた。すると彼は頷き、シュバルツを出してくれた。


「シュバルツ、ごめんね。痛かったね」


「クゥーン……」


 ぐったりしているシュバルツを抱きしめると、身体が光り出した。すると見る見るうちに元気になり、私の頬をペロリと舐めた。


「ああ、アンナ。何度見ても素晴らしい能力だ。やはり殺すのは惜しいですね」


 ジルヴェスターはうっとりとこちらを見つめるケントから私を隠すように前に立った。


「安心してくれ。必ず君を守る」


 彼は剣を構えた。ケントはふん、と馬鹿にしたように鼻で笑った。


「魔力があるのに剣を使うなんて無粋ですね」


「どちらも使えてこそ一流だ」


「あんたのそういうところ、本当に嫌いですよ。ドゥンケル、出てこい!やれ」


 あの時シュバルツを締め上げた白蛇が出て来て、ジルヴェスターに襲いかかった。


「シュバルツ」


 ジルヴェスターがシュバルツの名前を呼ぶと「ガルルッ……!」と威嚇しながら前に飛び出した。


 シュバルツはまるで動きがわかっているかのように、ドゥンケルの攻撃を避けガブリと噛み付いた。さっきとはシュバルツの動きがまるで違う。


 聖獣は主人が近くにいればいるほど力を発揮するのね。


「諦めろ。魔力も剣術も私の方が上だ。ローデンヴァルト公爵も陛下暗殺の容疑で捉えられた。もう終わりだ」


 ドゥンケルがどさりと倒れ込んだのを見て、ジルヴェスターは淡々と告げケントに剣を向けながらジリジリと追い詰めた。


「ははっ、父上が捕まったか。馬鹿な人だ。僕の完璧な計画が台無しじゃないか」


 ケントは自分の父親が捕まったというのに、ケラケラと笑っていた。


「お前……」


「僕一人でやれば上手くいったのに。父上は邪魔だった。僕は負けない。ドゥンケル、お前はまだやれる」


 彼は目を真っ赤に染めて怒りを露わにした。ドゥンケルの目も赤く染まり、むくりと起き上がった。


「おい、やめろ!聖獣に無理をさせたら死ぬぞ」


「ドゥンケルも僕のために死ねるなら本望だろう」


「お前……!」


 ケントはどこまでも自己中心的な男だ。道具のように扱われるドゥンケルは可哀想だ。


 彼の魔力を無理矢理注がれて力が暴走したドゥンケルは大きくなり、ジルヴェスターに襲いかかった。


「聖獣に罪はないが、こうなったら……斬るしかない!」


 ジルヴェスターは剣に魔力を込めドゥンケルを一撃で仕留めた。するとドゥンケルの姿がパッと消え、光が舞った。


「これで終わりだ」


「くっくっく、ドゥンケルは囮さ。君に愛するアンナを渡すくらいなら僕は一緒に逝くよ」


 ドゥンケルとジルヴェスターが戦っているうちに私はケントに捕えられていた。


「……アンナを離せ。その代わり俺を好きにしろ」


 ジルヴェスターは剣を投げ捨て、ケントに無抵抗だと示した。


「嫌だね。アンナ、あの世で一緒になろう」


 冗談じゃない。どうして私がケントと一緒に死なねばならないのか。ケントは暴れる私を無理矢理抱き上げた。


「絶対に嫌よ!離してっ!!」


「アンナ!!」


 ジルヴェスターが私に走り寄り手を伸ばしたのが、何故かスローモーションに見えた。私は悲鳴をあげる暇もなく、ケントと一緒に海の中に落ちていった。








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