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殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します!  作者: 大森 樹


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19/30

19 親友①

「恐らくデニス様は陛下の誕生祭に来られるはずです。全貴族が基本参加の行事ですから」


 陛下の生誕祭はよっぽどの理由がない限りは欠席は許されないらしい。陛下を敬愛し謀反の気持ちはないということを示すためにも、必須の行事らしいのだ。


 なかなか大変な世界ね。こっちの生活に慣れてきたとはいえ、ただの女子高生の私にはなかなか理解し難いわ。


「でも……じゃあ、一年に一度は顔を合わせるんじゃない!それでも仲直りできなかったの?」


「旦那様はその日はいつも王家の警護をされるため、舞踏会には参加されません。恐らくあえて顔を合わさないようにされているのだと思います」


「なるほど、そういうことね」


 お互い会わないまま五年か。あまりに長過ぎる月日だ。しかもその間に彼は両親を亡くし、女性を憎み遠ざけ……どんどん孤独になってしまっている。


「二人ともそろそろ前に進んだ方がいいと思う」


「そうでございますね」


「私、舞踏会に乗り込むわ!もちろんジルには内緒でね」


 それから私は舞踏会までの日々をデニス様の情報を集められるだけ集めた。


 ジルは何度か家に帰って来ているようだったが、私を避けているようで朝食を一緒に食べることもなくなっていた。


 家の中で一瞬すれ違った時に「ジル!」と呼び止めたが、彼は無表情のまま「私達はもうすぐ他人になるのだから愛称で呼ぶな」と冷たく言われた。


 ――愛称で呼べとか呼ぶなとか……自分勝手すぎる!


 日本人の私には難しい『ヴ』の発音をまたせねばならないのかと思うとゲンナリする。


 ジルヴェスター……名前が長過ぎでしょ。ジルって呼ぶのは楽だったのに。まるで最初の仲が悪かった頃に戻ってしまったような気分だ。







 ジルヴェスターは私を襲った犯人を夜遅くまで探しているがなかなか見つからないようだ、とラルフが教えてくれた。


 私を襲った実行犯はすぐに捕まったが、裏に誰がいるかの足取りが掴めないらしい。





♢♢♢






 舞踏会当日、ジルヴェスターからご丁寧に『今夜は家から出ないように』とメモが残されていた。まあ、言うことを聞くつもりはないけれど。


「よし、ジルヴェスターは行ったわね!みんな、秘密にしてくれてありがとう」


 彼が騎士の制服に着替えて出て行ったのをしっかりと見届けた。


「旦那様のためとはいえ、アンナ様お一人で大丈夫でしょうか?もし何かあれば……」


 ニーナはとても心配そうにこっちを見ている。


「大丈夫よ。護衛にも一緒に来てもらうし、シュバルツもいるしね」


 ジルヴェスターは私を避ける割に、気にかけてくれているようでずっとシュバルツは私の傍に居てくれている。


「ワフっ!」


 嬉しそうにすりすりと甘えるシュバルツを、私はギュッと抱き締めた。


「でもシュバルツと一緒に居ると、ジルヴェスターに居場所がわかるのよね?それって不味いわよね」


「旦那様は常に居場所がわかるわけではありません。シュバルツに遠隔で魔力を流して確認しない限り分からないはずです」


 なるほど。それならばきっと舞踏会の途中くらいまでは少なくとも大丈夫だろう。さっさとデニス様と会って話さないといけないわね。


「頑張ってくるわ!きっと仲直りさせてみせるから」


「アンナ様、よろしくお願い致します」


 沢山の使用人達に見送られて、私は王宮に向かった。バルト家の家紋の入った馬車では目立つので、ラルフが別の馬車を用意してくれた。


 私は移動中にジルヴェスターがくれた指輪をそっと外した。今夜の計画が上手くいけば、これも彼に返そう。彼はこの指輪は私を守ってくれると言っていたが、きっと高価な物だ。私が持っていていいものではないだろう。ハンカチに大事に包んでポケットにそっとしまった。


 裏庭に回ってみたが、流石陛下の生誕祭……ものすごい数の騎士達が守っている。しかし、これは予想範囲内だ。


 だからこそ事前にケヴィン様に手紙を出しておいた。ジルヴェスターに内緒で舞踏会に行くので中に入れて欲しいと。


「ケヴィン様」


 私はコソコソ隠れながら小声で声をかけ、ケヴィン様と約束した場所で落ち合った。


「ああ、アンナちゃん」


「変なこと頼んですみません」


 ペコリと頭を下げると、ケヴィン様はニッと豪快に笑ってくれた。


「団長にも色んな事情があるみたいですが……騎士団の皆はアンナちゃんがいきなり来なくなって寂しがってますよ。だから早く戻って来て欲しいです」


 そう言われて私は、嬉しくて涙が出そうになった。いや、ここで泣いてる場合ではない。


「ありがとうございます」


「それに……俺にとってはデニスさんも憧れの先輩で、可愛がってもらいましたから。あんなことがあったけど、二人には昔の関係に戻って欲しいと思っています」


 そうか、ケヴィン様はデニス様の直属の後輩なんだ。あの事件についてもよく知っているに違いない。


「なんとかしてみせます」


「はい。でも、くれぐれも無理はされないでください。何かあれば俺でも他の騎士でも頼ってください」


「わかりました」


「デニスさんは最初に陛下に挨拶をしに行かれるはずなのでメイン会場にいるはずですよ」


 私はお礼を言って頭を下げ、その場を後にした。一旦中に入ってしまえば舞踏会に潜り込むのは簡単だ。特に今夜はかなり出席者が多く国外の来賓者も多いので、異国人の私を見ても気にする人は少ない。


 私は事前に調べ手に入れた姿絵を思い出し、デニス様を探した。


 ――この人混みの中、見つけられるだろうか?


 いいや、必ず見つけなければ。この機会を逃せば、彼は王宮に現れない。


 私がウロウロしていると、壁際で酔っぱらいに絡まれている大人しげな御令嬢が目に入った。


「見ない顔だけど、君可愛いね。あっちで俺達と一緒に飲もうよ」


「いえ、私にはパートナーがおりますので」


「君を放置する男なんてやめときなって。ほら、空いてる部屋で三人で楽しもうよ」


 明らかに嫌がっている御令嬢に、二人がかりで声をかけて肩や腰を触っている。わざと見えにくい場所でやっているのがタチが悪い。


 ――でも……申し訳ないけれど、今は彼女を助けてる場合ではない。


 ごめんなさい、他の人に助けてもらって。そう思って見て見ぬふりをしようとぎゅっと目を閉じた。


「きゃっ、嫌」


 その小さな悲鳴を聞いて、私は自然と身体が動き出していた。


 ――このセクハラ男!絶対に許さない。


 やっぱり、どんな理由があろうと見て見ぬふりなんてできるはずがない。


「離しなさい!嫌がってるでしょ」


「うわ、君も美人だね」


「ちょうどいいな。四人であっちで飲み直そう」


 男達は私の言葉を無視して、ケラケラと笑っている。隣にいる御令嬢の顔は青ざめていて、今にも泣きそうだ。


 ――可哀想に。


「誰がしょうもないあんたらなんかと一緒に飲むもんですか!ほら、行きましょう」


 彼女の手を取り、私は歩き出そうとしたが男達に道を阻まれた。


「ふふ、いいねぇ。俺は強気な女も嫌いじゃないんだ。服従させ甲斐がある」


 男は無理矢理顎を掴み、ニィッと不気味に笑った。


「ガウッ!」


 その時、シュバルツが男の足に思い切り噛みついた。流石だわ!シュバルツ、ありがとう。


「ゔわっ……!」


 男の一人が呻き声をあげると、もう一人の男が「なんだこの聖獣は!?さっさと消せ!」と言って私に殴りかかってきた。


 女に手をあげるなんて本当にこいつらは最低野郎だわ。私は痛みに堪えられるように、ぐっと歯を食いしばった。



「女性に手をあげるなんて許されることじゃない」



 その声の後にドサドサッと床に何かが倒れるような音が聞こえてきた。恐る恐る目を開けると、そこにはまさかの人物が立っていた。


 ――デニス•ブラマーニ。


 初めて会うが、見間違えるはずがない。だって……密かに手に入れた肖像画を何度も何度も確認して覚えた顔なのだから。


 私が今夜探し続けていた男が目の前に立っていた。



「乱暴な男はモテねぇぞ」



 カカカ、と豪快に笑いながらバルコニーの扉を開けてそのまま気を失っている男達を担ぎ上げポイっと二階から庭に放り投げた。


「ぐえっ」

「ゔぐっ」


 もの凄く苦しそうな声が下から聞こえたが、すぐに静かになった。


「うわー……」


 この男は笑顔でえげつないことをする。タイプは違うが、流石ジルヴェスターの親友だ。きっとあの男達、骨折れてるよね。


「頭冷やして反省しな」


 彼はパンパンと手を払い低い声でそう呟いた後、絡まれていた御令嬢に近付いて行った。


「ブルーナ、すまなかった。怪我はないか?俺が離れたばかりに……」


「デニス様、ありがとうございます。私は優しい方に助けていただきましたから、大丈夫です」


 怯えていた御令嬢は頬を染めて、デニス様を見つめている。


 あー……これ。彼女はデニス様を好きなんだわ。私は一目で気が付いてしまった。


「ブルーナを助けていただきありがとうございます。あなたも怪我はありませんか?」


「……はい」


「お礼がしたい。貴方の名前を教えていただけないだろうか?」


 たまたまデニス様と知り会えるなんて本当にラッキーだ。私はグッと拳に力を入れて、気合を入れた。




「私は……アンナ•オオイシと申します。ジルヴェスター•バルトの婚約者です」




 そう伝えた私を、彼は『信じられない』とでも言うように大きく目を見開き無言のまま呆然としていた。









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