「失恋イェーイ!」「フォーウ!」妹にまた婚約者を寝取られたご令嬢、いい加減ヤケ酒に逃げる。
「失恋イェーイ!」
「フォーウ!」
ルイスはナディアのヤケ酒に付き合う。ナディアは、由緒正しい家柄のご令嬢。ルイスはその使用人だ。
「また妹に寝取られたぜー!」
「まあ結婚前で良かったよな、真面目な話」
ルイスがぽつりと溢せば、ナディアも頷く。
「結婚してから寝取られとか冗談じゃないわ」
「しかもニーナ様、寝取った後はさっさと捨てちゃうしな」
「それに関しては元婚約者ざまぁよ」
「ニーナ様の浮気を許すティオフィル様もすごいよな」
「あれは…筋金入りね。ヤンデレって奴よ。何が何でもニーナを逃す気がないわ。結婚したら絶対囲い込む。間違いない。その点、ニーナにも同情はするわ。そりゃ火遊びもしたくなるわよ」
とはいえ、こんなお家事情普通に人には言えない。お金は幸いあるので、関係各位にばら撒いて黙らせてはいるが。
「お父様とお母様があの子を甘やかして育てたが故とはいえ、お二人の心労を考えるともう何も言えないわ…」
「まあ、明日にはその問題児のニーナ様もついに結婚だし」
「姉を差し置いて、ね。これはこれで色々言われるわよ」
「あー」
「まあ、実際のところあの問題児を引き取ってもらえるのはありがたいけれど。絶対もう浮気は許されないだろうし。外に出られるかも怪しいわ。本当に同情する…」
とりあえず、ヤンデレ侯爵令息に捕まった哀れな妹に同情しつつも酒は飲む。
「とはいえ、結婚式前日にまたやらかすとは思わなんだわ」
「俺もびっくりした」
「…まあ浮気するようなクズが婿に入って来なくて良かったわ、本当に」
「そだな」
「…ということで、私女公爵になろうと思うの」
ルイスはその言葉にニンマリ笑う。
「ナディアはしっかり者だし、その方がいいよ。絶対向いてる」
「お父様とお母様もいい加減諦めたのか、認めてくださったわ。お父様の元でしばらく勉強漬けね。で、肝心なお婿さんなんだけど」
「うん」
「貴方、婿に入らない?」
ルイスの目が点になる。その後ケタケタと大笑いした。
「確かに、俺なら安心だよな!ニーナ様に誘惑されたこともあるけど、なびかなかったし!」
「そうなのよ。貴方のその自制心を買っての相談よ。どう?」
「いいぜ、ナディア。俺と結婚しよう」
ということで、ロマンスもへったくれもない婚約が決まった。
その後、ナディアとルイスは婚約を認められて結婚した。ナディアの両親は、もう浮気をしない男なら誰でも良かった。
ニーナはナディアの予想通り、ティオフィルに徹底的に囲い込まれて愛されている。それがナディアの目には幸せに見えないのは、どうしてだろうか。
ナディアは女公爵として家を継ぎ、忙しく過ごしている。なんだかんだでしっかりと支えてくれる夫とその間にできた可愛い子供達の顔を見るだけで、幸せを感じている。
「…まあ、雨降って地固まるかしら?ちょっと違う?」
「ニーナ様とのこと?…何度も寝取られたのは可哀想だけど、今幸せならいいんじゃねーの」
「そうよね。私、貴方のことなんだかんだで結構好きだし」
「俺もー」
相変わらずロマンスもへったくれもない二人だが、その間にはただただ幸せが溢れていた。