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3、初めましてボヌールの皆さん。



煌びやかなボヌール公爵家の家紋が入った馬車が玄関前に到着した。世情に疎いエリスでもさすがと言いたくなるほど立派な馬車でだった。


今日はエリスがこの家から出て行く日だ。空の色は驚くほど晴天で朝の光が眩しいほどだ。


玄関で抱き合うお父様とエリス。「――――エリス、必ず幸せになるんだよ。」と話し出すお父様。

カトレアとキャサリンは当然の如く居なかった。エリス本人もあの2人がここに居ない事にほっとした。


「はい、お父様頑張りますね。でも一度もお会いしていないのだけが心配ですが。」と不安げに話すと

お父様が小さな声で「・・・・もし耐えられそうに無ければここに行きなさい。」と四つ折りにした小さな紙を持たせてくれた。


「――――最近わかったのだが、亡くなったお前のお母様の妹がそこに住んでいる。」


「お前の事は既に話してある。悪いようにはしないと思う。」と私の頭を撫でながら話してくれた。


「――――私はこれからちょっとだけ忙しくなる。この家の溜まった膿を出す大掃除をするからね。」とそう言って笑うとウインクした。


横にいるトーマス爺が「エリスお嬢様、旦那様の事は安心して私にお任せ下さい。」と胸を叩いて和ませてくれた。


「そろそろ出発です。」と御者が声をかけたので、エリスは慣れていないので、ゆっくりと馬車に乗り込む。


「――――では行きますね。お父様、トーマス爺も皆様お元気で。」とさよならを告げた。



馬車に3時間ほど乗ると大きなお屋敷が見えて来た。一体どこまで続くのかしら?と思うほど長く続く塀。


歴史を感じさせる立派なアーチを潜ると、大きな玄関の前へ着いた。「ようこそいらっしゃいました。こちらでございます。」と門番に馬車の扉をすうっと開けられた。


「ありがとうございます。」とひと言お礼を告げると、そこに年の頃は壮年ぐらいの執事らしき男性が私を見ていた。


「エリス様で間違いないでしょうか?」と聞かれたので、


「はい、エリス=アトランテと言います。宜しくお願いしますね。」と会釈した。


「私は執事のセバスチャンといいます。旦那様と奥様がお待ちです。こちらへ。」と屋敷の中へと案内され、よく手入れの行き届いた廊下を通り、旦那様が待っていると言う部屋へ案内された。


「――――エリス様がお着きです。」とセバスチャンが扉をノックし伝えると「どうぞ。」と中から声がした。


中へ入るとご夫妻なのだろうか?知的で優しそうな男女がソファにかけてこちらを見ていた。


「エリスさん、よく来られた。」と2人とも私の方へ歩み寄りまず握手を求められた。

ご夫婦それぞれと握手を交わし、着席を勧められたので向かいのソファに腰かけた。


「私はこのボヌール公爵家のウォルス、ここに居るのが女房のステラだ。宜しく頼むよ。」と自己紹介を受けた。


「早速だがエリスさん、あの子に会う前に話しておきたい事がある。聞いて貰えないか。」と真剣な表情で旦那様が話し始めた。


「はい、わかりました。お聞きします。」と返すと「これから話す事は是非とも他言無用で頼む。」と話し始めた。



「まず、どうして君に婚約の話を持っていったのかだが・・・・」とそこまで話すと奥様がエリスの方を見ながら、


「貴方ここは私が話しますね。」と奥様からのお話になった。


「実は私は貴女のお母さんを知っているのよ。」と私の目を見つめてゆっくりと微笑みながら話し始めた。


「えっ、そんな話は今まで一度も聞いた事が無かったです。」これには正直本当に驚いた。一通り遺品も全部見たがそんな事を記した物は一切出てこなかったはず。


「そうでしょうね。私たちは学生の時に知り合ったの。私たちには身分の差などなくお互いに信用しあい大切な友人として付き合っていたの。」と話す奥様の目が遠くを懐かしむ目になっている。


「私たちの付き合いは結婚してもしばらくは続いてたのよ。私は貴女が産まれた時にすぐに会いに行ってるのよ。」


貴女本当に可愛かったわよ。と言いつつ


「その時には私にはもうレオンが居たし、純粋に女の子が羨ましかったわ。」と優しい目で私を見つめていた。


「でもあの子は流行り病に倒れてしまってそのまま帰らぬ人になった。」と目を伏せた。



「でも私達は貴女が立派な淑女になり、いつかパーティなどでお会いするのをずっと楽しみにしていたの。なぜかいつまでたっても貴女を見る事は叶わなかった。」


――――その先は私が話そう。と旦那様が話しを変わった。


「なので申し訳ないが人を使わせてもらった。エリスさん、貴女、あまりあの家で大切にはして貰えなかったんだね。」と言われた瞬間、ぼろぼろと涙が溢れて止まらなかった。


「うぅ、うぅ。」泣きたく無いのに涙が止まらない。見かねた奥様が私を抱きしめてくれた。「辛かったね。辛かったね。」と背中を優しく撫でてくれた。



「そこで私たちからの提案だ。」


「私たちとここで一緒に暮らして見ないか?レオンの婚約者として。もちろんダメだったとしても、私たちが責任を持って君を最後まで面倒見るよ。」


「でっ、でも私なんかではレオン様が気の毒ですし、本人にとってもどんな気持ちになるか。」とお断りするつもりで言った。


「レオンはね、知ってるかも知れないけど、タチの悪いある噂が立てられててね。」


「えっ!!」


「エリザベス王女と恋仲と言う噂だ。」


「レオンは王女様付きの近衛兵でもあるんだ。だが、以前から王女様から慕われてるらしい。そこで君に婚約者になって貰い、早々に王女様にレオンを諦めて欲しいんだ。ここだけの話、王女様にはもう隣国の王太子と婚約が内定しているんだ。」


「――そうでしたか。」


「この件はわかりました。今日からお世話になりますが、私もただお世話になりっぱなしは嫌なのです。お願いします。このお屋敷でも王宮内のどこでも構いません。私を働かせて下さい。」と頭を下げてお願いした。


「・・・本当にそれで良いのかい?」


「はい、それと王女様がレオン様を諦めたら婚約解消をお願いします。」


「わかった、この件に関しては私に任せて欲しい。そうしたらこれから倅を紹介しよう。」と言うと旦那様は部屋を出て行かれた。残された奥様と2人で顔を合わせて息子さんが来られるまで待っていた。


ガチャっとドアノブが開く音がすると、背が高いサラサラの銀髪の男性が入ってきた。

目がとても蒼く目付きの鋭さが彼の知性を表していた。驚くほど男前だが残念な事に、一文字に結ばれた口元が彼の不機嫌さを表している。



「息子のレオンだ。」と旦那様が紹介すると「せっかく来てもらって悪いが、俺はハッキリ言って婚約者は必要ないと思っている。何度も両親にはそう話していたのだが・・・」と私をギッと睨みつけ、ぶっきらぼうに言い放った。



「初めまして、私はエリス=アトランテと言います。確かにそうですね、自己紹介も出来ない子供に婚約者は要らないでしょうね。」と微笑んだ。


音が聞こえそうなほど顔を赤らめて「うっ、うるさいレオンだ。」とボソッと言った。



「貴方はどこのお家のレオンくんですか?」と笑って聞き返してやった。


「――――ったく煩い女だ。レオン=ボヌールだ。これでいいか!」と叫んだので「よくわかりました。これから宜しくお願いします。」と笑って言ったらムスッとしていた。


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