【第1話】あの子との出会い
はじめまして。
俺の名前は『シゲル』。
アスペルガー尊大型って診断されているんだ。
幼いころに親が気づいてくれて、ちゃんと専門の検査や教育も受けたし、慈愛の心を学ぶためにキリスト教の学校へ通ったんだ。
わざわざ全寮制の学校を選んで、家族と過ごすことより社会性を学ぶことを優先したんだ。
俺の親父は、S国立大学の教授なんだけど、親父の研究室がすぐ近くにあったから、ほぼ毎日、ランチタイムは親父が会いに来てくれてたんだ。
他の奴らは学食で食べてたんだけど、俺だけは親父と一緒に外食してたんだ。
大学は東京のJ大学を卒業したんだ。
親父が心配して、大学の目の前のマンションを借りてくれたよ。
お蔭で学業に専念することができたよ。
大学を卒業して就職が決まった時も、親父が心配してわざわざ会社まで挨拶に来てくれたんだ。
俺のことについてちゃんと話しておいた方がいいって言ってな。
だから仲のいい奴らや、一緒に仕事をしている同僚は、みんな俺のことを知ってるし、理解してくれているよ。
同期入社のヒロキとは特に気が合って、誕生日も数日違いだし、家族構成も似てて、それにヒロキも名門大学出身なんだ。俺ら似ているなって意気投合したんだよ。
俺が苦労しないようにって、ヒロキは他の同期らとの仲介役をかってでてくれて、他の奴らと話すときはいつもヒロキが間に入ってくれていたんだ。
入社して2年たったころかな、俺がローマ支店に転勤になったんだけど、2年経って帰ってきたら彼女ができていたんだ。キヨミって名前なんだけど、キヨミも俺らと同期だったんだ。
俺がローマ支店から帰ってきた後は、キヨミと同じ部署になったんだけど、キヨミも俺のこと分かってくれてて、俺のお願いは何でも聞いてくれるよ。
いい会社に入って、いい同僚に恵まれて、いい友人ができて、幸せだよな。
俺がローマ支店から帰ってきてから半年くらい経った頃なんだけど、キヨミがプレゼントをくれたんだよ。もうすぐ誕生日だったからだと思うのだけど、すっごい気が利くよなって感心したんだ。その後も「何か欲しいものはない?」「休みの日は何をしているの?」って心配してくれて、ヒロキはいい人を見つけたよな。ある日は「飯食いに行かないか?」って食事の心配までしてくれて、まるで親父みたいで驚いたよ。
社内に暖房が効き始めたてもう冬だなって思っていた時期に、廊下で突っ立てる奴を見かけたんだ。変な奴がいると思って、声をかけてみたら、眼鏡を外していけって言われたって、面接室がここであってるのか迷ってたっていう奴だったんだ。
だから、採用担当の奴に声かけやって、「ここだ」って教えてやったんだよ。
その時にお礼を言われたんだけど、笑った顔が小動物みたいで可愛かった。
アイツの名前なんて言うんだろうって思って、特別に採用会場に入れてもらったんだ。
同級生のコバヤシかヤマダに似てるって思ったから、「おい、コバヤシ」って声をかけたんだけど違ったみたいで、「ヤマダだったか」って思わず言ってしまったよ。もしかしたら、パリにいたときに会ったかもしれないなって考えてたんだ。
そうしたら、「コバヤシ」って奴が他にもいたみたいで、「私、コバヤシです!」って押し寄せてきたんだ。「私もコバヤシなんですけど」って声かけてくる奴まで出てきて、気が付いたら周り囲まれてて、アイツの名前を確認し損ねてしまったんだ。
仕方ないから外まで追いかけて行って、声をかけようと見てたらまた道に迷っているみたいで、大丈夫かなって心配になって、そっと後を付いて行ってあげたんだ。
途中で躓いて靴が脱げたり、改札と逆の方向に歩いていくし、見かねて声をかけようとしたら、都心にある超有名企業から迎えの奴が出てきて一緒にビルに入っていったんだ。
超有名企業の本社オフィスに入っていくってことは、やっぱり名門大学出身者か、わざわざ迎えが来るってことは社長か役員令嬢に違いないって思ったんだ。
いまこの話を書いてくれているのもアイツだよ。
正確に言えばアイツの思い出とか、主観的なものが基になってる。
だから俺が覚えていることとはちょっと違うところもあるのだけど、アイツの思い出を大切にしたいから、アイツの主観的なものを叙述していくよ。