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終わり

大地震は、終わった。

碧黎が言うように、時々小さく揺れる事はあるが、あの時の余震と本震とは比べ物にならないほど小さなもので、人も問題なく日常を取り戻していた。

津波からは人命の被害は全くなかった。

長い年月地震と津波と戦って来た人は、神の助けを得て、その知識を使って多くの対策を取り、注意喚起して乗り切ったのだ。

土砂崩れはあったが、あれだけあちこち事前に落としておいたので、下敷きになる人も居なかった。

だが、揺れが大きく建築物の中に居たもの達は、中で振り回されて怪我をしたり、外に居たものは落ちてきた物で怪我をしたりという被害はあった。

古い家屋で倒壊した物もあった。

しかし、次はまたこれを教訓に更に力を入れて、安全対策を考えるのだろう。

あれほど大きな地震であったにも関わらず、なので人命は多く失われずに済んだ。

維心は、その報告を受けて心底ホッとしていた。

「…雨を、そろそろ降らせて行かねばならぬ。」維心は、義心を前に言った。「余震もそろそろなくなると碧黎から聞いておるし、このままでは木々が枯れて逆に山が崩れる原因になるからの。」

義心は、頷いた。

「は。では、そろそろ。」

維心は、頷いた。

「季節外れの大雨になるやも知れぬな。仕方ない、分かっておってやったことぞ。緩急をつけて年間雨量を調節しようぞ。」

そこへ、維月が入って来た。

「維心様。」と、義心を見た。「まあ、お仕事でしょうか。ならば後で。」

維心は、首を振った。

「良い、今終わった。」と、義心を見た。「軍神達も通常の輪番に戻せ。順番に休みを取らせよ。」

義心は、頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。

維月は、言った。

「十六夜がほとんど人命が失われずに済んだので、ホッとしておりました。それにしてもあの大きな波をようあそこまで逃せましたこと。龍達には感謝しかありませぬ。」

維心は、苦笑した。

「あまりに大きな力で我も溺れるかと思うたわ。しかし、全く失くす事はできずに。命は助かったとはいえ、人の営みが洗い流されてしもうて。」

維月は、首を振った。

「今は良い世になっておりますの。失った器は全て国が元に戻すことになっておりますから、もう工事が始まっておりますわ。昔ほど人口も居らぬので、あちこちの国からの支援も余るほどで。人は、進化しておりますの。ですから、暗い顔をしておる人はそう居りませぬ。寧ろ家屋が新しくなると喜んでおるものも居るらしいですわ。」

維心は、微笑んだ。

「ならば良かった。命が何より大切なのだと分かっておるのだな。もう、しばらくはこんなことは良いわ。我も疲れた。」

維月は、微笑んだ。

「人は神に生かされておることを自覚せねばなりませぬわね。これほどに皆様が人のために励んでおるのを、見る事が出来れば良いものを。」

維心は、苦笑した。

「仕方がないのよ。我らは同じ所に住んでおるのに違う流れの中に居る。あれらには見えぬ…見える場所に来ても意識が違うゆえ同じく階層が違って合間見えぬ。その内に皆が笑って同じ場所で合間見えること、それが天黎の目指す世であるのだろう。先は長い。が、いつかはやって来る。それを、楽しみに待つのだ。」

気が遠くなるほどの時間になりそうだ。

だが、維月は微笑み返して、維心に寄り添って、癒しの気を流し込んで精一杯今回の労いをした。

維心は維月を抱き締めて、黙ってその暖かさに酔ったのだった。


怒涛の節分も終わり、やっと世の中は穏やかに回り始めたのだが、問題は残っていた。

松…瑞花の事だった。

漸は、変わらず娶る意思は示しているが、まだ高瑞に挨拶に行ってはいない。

いくらなんでももう、弥生は過ぎてそろそろ卯月の花見の季節になっていた。

「…弥生の会合では何も言うておらなんだよな。」炎嘉は、言った。「もう卯月ぞ。どうするのだ、漸。まさか、事ここに至ってしり込みしておるとかではなかろうな。」

卯月の会合が終わり、宴の席へと移って早々に炎嘉は漸を見て言った。

ここは、鳥の宮の大広間だ。

志心が、庇うように言った。

「だから弥生はまだ地震の後の処理の話で、空気が深刻であったではないか。そんな時にそろそろ月の宮へ婚姻の打診になど、言い出せるはずはなかろうが。」

しかし箔炎が言った。

「だが、卯月になったし本日の議題は通常と変わらぬものであったぞ。そういうことはハッキリしておいた方が良い。主、もしや今さらに婚姻が面倒になったのではないのか。」

皆の視線が漸に刺さる。

バツが悪そうな顔をしていた漸は、大きなため息をついて、言った。

「…実はの。婚姻だ何だと浮かれておった己が恥ずかしゅうなって。」

炎嘉は、驚いた顔をした。

「え、恥ずかしい?今さら?」

あれだけなりふり構わず松松言っていたのに。

漸は、頷いた。

「…我は、主らが我と同じく己の宮の管理だけを安穏としておって、時にお互いに助け合うぐらいなのだと思うておった。だが、此度の大地震の際には、全員で立ち向かっておった。己の領地外の人のことも助けようと励んでおった。それを見た時、よう考えたら黄泉で磁場逆転やら戦やら、維心を中心にこの島を守ろうと戦っておった事実を見ておったのを思い出しての。我らの種族は長年籠っておったし、そんな事は考えた事もなかった。同じ島に住む、大きな力の眷族であるのに。それが、堪らなく恥ずかしく思うたのだ。それで、主らが落ち着いてそんな話も気軽のできるのを待っておった。今も、松…いや、瑞花を娶りたいという気持ちは変わらぬ。宮の方も、炎嘉に教えてもろうたようにもう設え直しておるし、臣下に話も通しておる。こちらとしては、いつでも良いのだが。」

そんな事を思っていたのか。

維心は、そういえばあの直後に、漸が何やら思い詰めたような顔をしていたな、と思い出した。

こちらからしたら、これから慣れて行くのだと、段階を踏んでと考えていたのだが、漸からしたら長年何をしていたのかと、恥ずかしい気持ちが先に立って、婚姻などと浮かれることができなかったのだ。

むしろ、今炎嘉が言い出してくれて、ホッとしたような顔をしていた。

志心が、言った。

「ならば、もうすぐ月の宮で花見があるゆえ。毎年、梅は忙しい時期なのでそれぞれの宮で見るのだが、少し落ち着いた卯月の桜は最上位の王だけが月の宮に集まって見るのよ。その折、高瑞に話してはどうか?良い感じに養子にしてから時が開いておるし、反って良いのではないか。」

箔炎が、頷いた。

「そういう事なら良いではないか。卯月に申し込んで皐月も忙しくないし、長引いても文月には宮へ迎えられるのではないか?」

炎嘉は、同じく頷いた。

「そうよ。ならば主もそのつもりで、もう明後日のことであるが、今一度申し込みの文言をしっかりさらっておけ。もう忘れたとか言わぬだろうの。」

漸は、少し安堵したように答えた。

「それは何度もそらんじておったら、寝ておっても言えるのではないかというほど上達した。ゆえ、問題ない。」

漸は、言い出すこともできずに悶々としていたのだろう。

途端に明るい顔つきになっていた。

維心は、苦笑した。

「こちらは分かっておることであるのに。あの時も言うたではないか、まずは慣れる事であると。瑞花ならば主を導いてくれるのだろう?ならば、早い方が良いのよ。我ら、いきなり主に多くを求めておるのではない。これまでの事も、何千年という歳月があるのだから今さら何も言わぬ。全ては、これからぞ。主は間違いなく我らの助けになってくれる。お互いに助け合って行こうぞ。」

漸は頷いて、手にした酒をやっと口に運んだ。

皆がやっと懸念が無くなるかと思った時、檀上に並ぶ維心達のその下に、一人の王が進み出て頭を下げた。

それは、上から二番目の序列10位である、峡だった。

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