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裏で

龍達は、戦っていた。

海面は龍の動きに翻弄されておかしな動きをしていて、人が上空に金属の乗り物で浮かんで観察しているが、不思議に思っているようだ。

本来真っ直ぐに高速で流れて行くはずの海面が、上空から見ると渦を巻いてうねり、戻っているのにそれに波自身が抗っているような、そんな動きだったのだ。

何しろ、何かが中で動き回っているかのように、白波が立って海が泡立っている。

クジラやシャチでもいるのかと目を凝らしたが、何も見当たらない。

しかし、そんな波の抗う動きにも関わらず、その一番先端はもう、浜へと到達していた。

《…一番高い所は30メートルはある。》十六夜が、上から見ていて言った。《維心達はかなり頑張ってる。オレだって必死に流して引っ張ってるが、距離があるから力が上手く伝わらねぇんだ。波消しブロックや防波堤が乱立してるからかなり高さは落ちたが、海岸線の町に襲い掛かってる…人は誰も残ってねぇから、問題ないがな。本来もっとデカかった。そしたら避難塔は飲まれただろうからヤバかった。》

蒼は、同じものを月から見ながら、月の宮の王の居間で頷いた。

「思ったより大きい揺れだったな。人のニュースを見てるけど、この辺りは最大震度4だったが、維心様の辺りは震度6弱、炎嘉様の所は言ってらした通り一番大きくて震度6強。翠明の辺りが震度5弱、公明の見ている甲斐の所で震度5強、焔の所は震度4だ。範囲がめちゃくちゃ広い。」

十六夜は、ため息をついた。

《親父が必死になるはずだよ。あれだけ力を逃し続けてこれだぞ?まともに来てたら島が真っ二つになって沈んでてもおかしくねぇ。よくこれで済んだな。》と、流されて行く建物を見つめた。《…また作りゃいい。人が全く海岸線に残ってなかったのはさすがだな。朝の三回の余震も良かったんだろう。あれでみんな警戒して、本震に備えられたんだからな。とにかく、命さえ助かったら後はこっちが何とかしてやるから、生き延びろってことだ。》

蒼は、ため息をついた。

「…だな。大変だろうが昔ほど人口も多くないし、助け合う精神が育ってる。すぐにいろいろ生活を立て直せると思うよ。しばらくは神達が気の流れを意識して良いように流すだろうし。」

十六夜の声は、頷いた。

《だな。》と、内陸へと流れて行く海水が、8キロほど登ったところで引いて行くのを見た。《お。戻り始めた。》

蒼は、海面を見つめた。

龍達が、次々に海から飛び出して宙へと浮き、波の様子を眺めている。

その中には、ひと際大きい龍身の維心も居た。


龍神たちが総力を挙げて波を逃そうとし続けた結果、当初望んだ10メートルには抑えられなかったが、何とか高い所でも30メートルまでに抑えることに成功した。

波が到達した範囲には、人は一人も残っていなかった。

避難塔の中に登っていた人達は、自分達の下を流れて行く波を、静かに見守っていた。

人が警戒している距離ギリギリまで駆け上った海水は、それ以上登る事無く、またゆっくりと引き始めた。

《…これ以上力を入れたら、引いてまた勢いで戻って行く。》と、維心は海中から飛び上がった。《全員、外へ出ろ!》

軍神達は、一斉に海中から空へと飛び出した。

その数は、海中に居た時にははっきり見えていなかったが、間違いなく全軍6万がそこに居て、浮いていた。

…この数と我の力をもってしても完全には抑えられぬか。

維心は、今回の地震の規模がかなりの大きさだったのだと痛感した。

波は、ゆっくりと地上の物を巻き込んで沖へと退いて行く。

維心が、無力感に苛まれながらそこに浮いて波を見つめていると、そこに地中から声がした。

《…維心様。お疲れ様でございました。》

維心は、ハッとした。

維月…維月が目を覚ましている。

《維月!碧黎はもう大丈夫なのか?》

それには、碧黎が答えた。

《すまなんだの、よう堪えたぞ、維心。海岸線には人的被害は出ておらぬように見える。問題は内陸の山が崩れた辺りや、亀裂が生じた辺りの方ぞ。波の方はこれからも来るが、それらは今の状態ならばもう案じる大きさではない。一番大きなところを主らが潰してくれたお蔭で、これぐらいの被害で済んだわ。安堵した。礼を申すぞ。》

維心は、ホッと肩の力を抜いた。

《そうか、良かった。もしかしてもっと何かできたのではと思うておって。波をあれ以上抑え切ることができなんだ。現に炎嘉の領地の端四分の一は水浸しぞ。》

碧黎が答えた。

《そのままであれば島の半分は水に沈んでおったところぞ。》維心が驚いた顔をすると、碧黎は続けた。《ゆえにようやったと申したのだ。主らの力が無ければもっと悲惨な事になっておった。此度はかなりの大きさでプレートが持ち上がっておったゆえ…我も油断したと後悔しておるところであった。まだ余震は来るが、本震に比べたら大したものではない。もう、後始末を始めて良いぞ。》

維心は、頷いた。

《そうか。ならば戻る。》と、明蓮を見た。《他の将と話し合って一万は万が一のためにこちらに引き続き残し、残りは宮に引き上げよ。》

明蓮は、頷いた。

《は!》

そうして、維心は人型に戻りながら、龍の宮へと被害を確認するために戻って行った。

維月の声が言った。

《私も戻ります。居間でお待ち致しますわ。》

維心は、ホッと頷いた。

「すぐに帰る。」

維心は、地上の被害を確認しながら宮までの距離をゆっくり飛んで行った。


その少し前、渡はもうダメだと落ちて行く一瞬に思った。

牢番の男は、必死にこちらを覗き込んでいる。

…これで終わりか。

渡が思っていると、牢番は手を上げてこちらへ向けて何かの気を放った。

「…?」

渡が何をしたのだ、と怪訝に思っていると、牢の格子に掛けられていた、戒めの術がそれで解けて格子が力なく石から抜けた。

「…おお!」

渡は、スルリとその隙間から外へと抜けて、飛んだ。

石は、格子共々亀裂の底へと落下していき、粉々にくだけ散るのが見える。

…ようやった!

渡は、牢番の男に感謝した。

あのまま渡を見殺しにするのはさすがにできなかったのだろう。

まだ、瓦礫は落下してくるが、それは気を使えば簡単に避けることができる。

かなり下まで落ちて来ていたので、上に居る牢番の顔は全く見えない。

助けを呼ぼうかと思ったが、ふと、渡は思った。

牢番からは、恐らく戒めの術を解くのが間に合ったかどうかまで、わかってはいない。

こちらから見えないということは、あちらからも見えていないだろう。

そもそも、戒めの術さえ解ければ誰の助けが無くてもこの亀裂から抜け出すことは可能だ。

そこらの老神ではなく、渡は王であった神。

それぐらいの能力はあった。

何より、自分が助かっている事を知った関は、再び牢へと繋ぐだろう。

あれから一月ほど、関が渡に会いに来る様子もなく、処刑もしなければ牢から出そうという動きもない。

恐らくあのまま、牢で死ぬのを待とうというのだろうと思っていた。

抜け出そうにも、関が掛けた戒めの術は、許可された牢番しか解くことはできなかった。

昔の渡ならば簡単に強引に破ったものだが、老いた今の気の量ではとても関の術には敵わなかった。

それが分かっていたからこそ、いつまでも王座に居ては外聞も悪かろうと、隠居を勧める関の話に乗って譲位したが、関は王となってから全くこちらの言う事は聞かなかった。

松のことすら、宮に戻すと言っていて、それだけはと臣下を言いくるめて恥になると反対させ、やっと諦めさせていたぐらいだ。

楢は最上位の樹伊に娶られて鼻が高いが、松の事だけは隠し通したかった。

ほんの少しの気の緩みで、あんなことになって王妃からもかなり責められた。

知らぬで通して、どちらにしろ恥には変わりないので、王妃も松の顔を見に行く事がなくなり、月の宮から話が来た時は、月に知られたと焦ったものの、蒼は宮を閉じているので面倒もなかった。

それを、今になって高瑞の娘になど、神世に恥を晒すことになるのではないのか。

何より、松がこちらを恨んでどんな仕打ちをしてくることか。

渡は、そこに居た一瞬でそれを考え、まだ大騒ぎの宮を後目に、亀裂の中を飛んで誰にも気取られずに宮の結界を抜けた。

そのまま、渡はどこかを目指して飛んで行ったのだった。

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