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会議

維月が消えた後、維心は皆を振り返って、言った。

「…遊んでおる場合ではないが、今すぐ我らに何とかできるものではない。津波も、結局は碧黎が力を逃し切って最後の最後にならねば起こらぬし、今から人に申しても、信じるのは我らの声が聴こえる宮司ぐらいのもの。それらの言う事を他の人が聞くかどうかも怪しいゆえ、備えることなどできぬ。焦っても始まらぬわ。とりあえず、先にどう対応するのかここで話し合っておこう。分かっておったら動くのも面倒がないだろう。」

炎嘉は、ため息をついた。

「…そうであるな。焦ったところで地震を止めることはできぬのだから。碧黎自身ですら苦労しておるのに、我らにどうにかできるわけはない。放置しておったら今頃大地震で甚大な被害が出ておるところぞ。あれがジリジリと動かしておるからこそ、僅かに気取る程度にしか動いておらぬのだ。とりあえず、津波がそう大きくならぬ事を願おう。龍に頼むことになるが、事前に分かっておったら少しは凌げようか。」

維心は、ため息をつきながら頷いた。

「…まあ、分かっておったら沿岸に軍神達を配置して皆で波を逃せるように海中を泳がせるつもりだが、ナシにできるほどではない。大きければどうしても被害は出るだろう。とにかく、近付いて参ったら頻繁に人に知らせるための兆しを示そう。さすれば読むだろうから、何とか逃れてくれようし。」

皆は、ウンウンと頷いた。

蒼が、言った。

「広間で良いですか?会合の間の方が良いようなら、急いで準備をさせますが。」

維心は、答えた。

「広間で良い。どうせ話す事は同じよ。その時のために具体的に話し合っておこう。今は昔と違って碧黎が直前に教えてくれようし、問題ない。参ろう。」

そうして、皆は来た時とは全く違う空気になって、広間へと向かったのだった。


王達が対応を話し合っている最中、海に面していない蒼の領地はやることがないので、話を聞くのは十六夜に任せて、蒼は裕馬達と人世のニュースを傍受するのに力を入れた。

ポールシフトからこっち、電波が一部を除いて一切使えなくなったので、今では世界はケーブルで繋がっていて、そのうちの一つが月の宮の近くまで伸びているので、そこから勝手にケーブルを引いて来ていて、人世のネットワークには唯一月の宮だけが繋がる事ができる。

ネットニュースを見ていると、どうやら人は、今回の地の変動を早くから気付いていたようだった。

昔から、東海地方は海底プレートの関係で、よく大きな地震に見舞われていた。

前は確か、五百年ほど前のことだったはずだ。

それがまたまずい状況になって来ているのは、人は賢いので分かっていたようだった。

正月であるのにそのニュースが時々に挟まり、一応人も備えは始めているようだった。

「…人はやはり賢いな。分かってるんだよ、そろそろだって。」

蒼が言う。

裕馬も頷いた。

「前の時も被害が出たから、あちこち防波堤が建設されてて波消しブロックも多いし、よっぽど巨大なのが来ない限りは大きな被害は出なさそうだけどな。ほら、海岸には避難塔もいっぱいあるだろう。最近のは上に休むところも作ってあって、数日閉じ込められても生きてける準備があるんだ。とりあえず、できるだけ波を抑えたら人は人で何とかできるよ。問題は、耐震構造の建物がどこまで踏ん張るかだな。前ので学んでるから、さらに進化してるはずだけど。」

恒が、頷く。

「十六夜も何とか引っ張るとか言ってたし、月の重力も使って波はあんまり心配してない。揺れた時に崩れた山とかに飲まれる建物とかないか心配だね。建物は踏ん張るけど、山は昔も今も変わらないからさ。」

蒼は、考え込む顔をした。

「…落ちそうな岩は先に落としておく方が良いかもな。人が居ない夜中にやっとこうか。街側の斜面がヤバそうだから、大雨の度に警戒してたんだけどね。多分、落石防護ネットじゃ無理だろうし。」

インターネットテレビでは、ひたすらに地震が起こったらどう行動すべきかを放送している。

それだけ人世の計器にも、碧黎の異変は伝わっているのだろう。

碧黎はそれを知っていて、人に心の備えをさせる時間を作っているのだと思われた。

「…じゃあ、オレは人の様子を皆に知らせて来るよ。二人は引き続き見ておいてくれる?」

二人は、頷いた。

「何かあったら知らせるよ。」

そうして、蒼は急いで広間へと戻った。


広間では、妃達は控えの間に帰したようで、王だけが深刻な顔をしながら話していた。

「だから前は五百年ほど前であるし、人は賢しいゆえあれこれまた対策を講じておる。此度はそこまで被害は出ぬのではないかの。先人が残した境界を守って住居を構えておるようだしの。」

炎嘉が言う。

維心は、ため息をついた。

「人は忘れるからの。うちの領地内では内海なのもあるし、海沿いを中心に発展した都市が多いゆえまだまだ海抜の低い場所にも多くの人が行き来しておる。樹伊の島もヤバイのではないのか。」

樹伊は、頷いた。

「まずい。過去には多くの犠牲を出した。何とか踏ん張ったが、我らの力にも限界があるのよ。島であるからな。内海で波が高くなるのだ。」

焔が言う。

「うちは山であるから波は問題ないが、そもそも崩れるのよ。まさかこんな時に登って来ようなどという人は居らぬと思うが、機の悪い奴はどこにでも居るもの。そやつらが巻き込まれるのではと案じてならぬ。山合の村も、下の都市も山がどこまで崩れるかで被害の程度が変わるからな。弦を帰らせて落ちそうな所は先に落としておくように言うたが、揺れの程度が分からぬとどこまでやって良いやら。維心、近くになったら雨を抑えてくれよ。でなければもっとまずくなる。」

維心は、頷いた。

「少し強引だが地震の一月前からは雨を止める。あちこち乾かしてからにせぬと、それこそ土砂だけでかなりの被害になろうしな。その代わりその後一月は雨ばかりになるぞ。供給量は決まっておるから、そうしないと梅雨の頃に季節外れの台風になるゆえな。またそれでまずい事になろうし。」

皆が、ウンウンと頷く。

蒼が、言った。

「人の事を調べて参りました。」

皆が、振り返った。

「おお、蒼。どうであった?」

炎嘉が言う。

蒼は答えた。

「はい。人は地を機械を使って観察しておるので、異変に気付いております。正月であるのに連日地震に備えろと報じており、気取っておるようです。この上に皆様があちこちで印を出せば、人はいよいよだと構えるでしょう。昔よりは被害が抑えられそうです。」

炎嘉は、ホッとした顔をした。

「やはり人は賢しいの。良かったことよ、ならばここは各地で来月から印を出そう。見えておる宮司には神託を下ろさせる。ここまでやれば、元々気取っておるのだから人は備えよう。」

樹伊は、頷いた。

「あとはどこまで揺れを抑えられるかだの。碧黎に期待するよりないわ。己の体の事であるから、あれも必死であろうから。」

ポールシフトの時に比べたら、恐らく犠牲は少ないだろう。

人はどんどん賢くなっているし、大丈夫なはずだ。

「…聡子は、知っておるのかの。」志心が、ふと言った。「あれは天黎に嫁いで話もできぬが、此度は答えてはくれぬのか。」

蒼は、顔をしかめた。

何しろ、聡子はここに住んでいるとはいえ、天黎と共に居てその守りの中に居り、言うなれば監視状態なので蒼ですら滅多に顔を見に行かない。

維心が、言った。

「だから、未来を知るがゆえにあれは天黎に嫁いだのだろう。でなければ今頃黄泉であった。話を聞く事はできまい。用があるのならあちらから参るだろう。」

そう、未来が漏れないために天黎と共に居るのだ。

恐らくは、話してはくれないだろう。

だが、炎嘉は言った。

「…顔ぐらいは見たいもの。あれに心を救われたのは我だけではないからの。ここへ呼べぬか。来ぬなら出向いても良いぞ。」

維心は、それを聞いて前にも炎嘉が聡子と話したいと言っていたのを思い出した。

ゴタゴタとしていて維月が里帰りできなかったので、維心もそれをこちらに伝えることができていないが、こうなったら今、少しでも話せないだろうか。

「…蒼、無理を承知だが天黎に聞いて来てくれぬか。否なら仕方がないゆえ。」

蒼は、維心の頼みは断れない。

なので、無理だろうなと思いながら立ち上がった。

「分かりました。」

だが、その時天黎の声がした。

《…未来のことは聞くでない。過去の事なら良い。そちらへ行かせるわ。》

良いのか…?

皆は、一気に緊張した顔になった。

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