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別の未来

義心は、皆の期待に満ちた目に少し、躊躇いながらも、言った。

「…選択肢が無数にあるように、未来も無数にございます。今回は、実月と瀬那の誘導が上手く行って皆が同意して王を討つという結末になりましたが、過半数の同意が得られなかった場合、王の隠し子である来務が王に密告して実月と瀬那を含めた、反乱に同意した者達が全て処刑という未来もありました。来務自体が母親を知らないまま、王が父で事情があって預けられていると思って育っているので、松吏からの説明が無いままなら最悪の未来もありました。自分が王の理不尽な不貞行為の末に出来た子だと知った後なら、説得すれば言わない選択もあり、とにかく、未来は多岐に渡っておりまして、一つ一つが全て、結果に結びついております。僅かなミスで、未来は変わってしまいます。現実になるべく近い形になっておりますので。」

志心が、言った。

「そうであろうな。漸の何気ない秋津の監視が、その命を留めたのだろう。他はどうか?例えば、秋津の部屋を調べに行かず、奈綱の文が見つかっておらなんだ場合は、真須をそのまま犯人としておっただろうし、ここまで王を討つという意見が圧倒的だったとは思えない。奈綱と真須の過去を知ることもなかっただろうしな。」

義心は、答えた。

「はい。真須を犯人として投票した場合、王により真須は処刑される事になります。もちろん、その際奈綱が根回しできていて、秋津を使って真須を逃走させるように謀る可能性もありますし、奈綱にはその術があります。失敗した場合、真須は助かりません。そうなった場合、奈綱は宮を去りはぐれの神となり、自分が真犯人だったと書き置きます。秋津は後を追って行きますが女一人で行方を探せるわけもなく、途中で行き倒れて死にます。」

蒼は、それをじっと聞いていた。

あまり良い未来ではない。

今のところ、今回の結果が一番、救いのある未来だったような気がしていた。

維心が、言った。

「では、奈綱に投票しておったらどうなったのだ?」

義心は、答えた。

「王に処刑される事になりますが、基本的に奈綱は死なないでしょう。というのも、真須と秋津の二人が逃がそうと画策するからです。永久も力を貸すでしょう。真須よりも、奈綱の方が生き残る確率がなので高くなります。全ては永久、真須の力量次第ではありますが。」

ならば、恐らく奈綱は逃げおおせただろう。

永久と真須、それにNPCの秋津が味方についている、奈綱はとても強かっただろうからだ。

焔が、言った。

「結局、秋津という女はどう考えていたのだ。秋津に会うことは叶わなかったのか。」

義心は、答えた。

「秋津に会うことも、秋津が部屋に居る時間に訪ねれば可能でした。」皆が驚いた顔をする。義心は続けた。「秋津の部屋は奥宮にあり、正式に面会を申し入れても王が許さないので会えませんが、今回王と炎嘉様がなさったように、潜んで行くなら大丈夫でした。ちなみに会いたいと文を送っても、奈綱以外は秋津は返事を寄越しません。奈綱が来いと言えばここへ呼ぶことも可能でしたが、その選択はしなかったでしょう。なぜなら、奈綱は秋津をこれ以上巻き込みたくないと考えていました。巻物にもそれが書かれてあります。」

焔は、頷いた。

「その通りぞ。我は秋津を呼ぼうとは思わなかった。なぜなら、秋津が証拠を握っているのもであるが、奈綱が秋津を愛しておったからぞ。蒼が言うように、秋津に全ての罪を擦り付けることも奈綱にはできたが、それをしなかったのはそのせいよ。秋津なら、全ての罪を被って奈綱のために死んだだろうが、奈綱はそれをしなかった。そういう事なのだ。」

蒼が、言った。

「では、この未来なら奈綱と秋津は幸せになったのだろうか。そうあって欲しいのだが。」

義心は、微笑んで頷いた。

「はい、恐らくは。もう王は居らず何のしがらみもなくなり申しましたので。奈綱も解放されたのではないでしょうか。」

蒼は、ホッとした顔をした。

本当に良かった…漸の機転が無ければ、この未来はなかったのだ。

「そう思うと、漸は良い仕事をしたわ。」炎嘉が言う。「秋津が死んで見つかるなど、寝覚めが悪い。奈綱も自暴自棄になっておったやもしれぬしな。」

義心は、頷く。

「はい。秋津が死んで見つかったら、奈綱も後を追います。」

最悪だ。

これで、本当に良かったのだ。

「…誠に良かったことよ。」維心が言った。「駿にしても、旭に弟だと言うてなかったらまずかったしな。一つ一つが噛み合ってこの未来になった。我は、これで良かったのだと思う。」

翠明が、ため息をついた。

「誠に、終わってみたら運任せであったな。終始維心殿に進めさせておったが、今回は良い感じに配役がなされたので何とかなった。我が犯人やら筆頭軍神やらを引いておったらここまでできたとは思えぬわ。誠にかんがえさせられる遊びであった。」

焔が、ムッとした顔をした。

「あのな、我の身にならぬか。あれだけ嫌だと思うておったのに、犯人を引いてしもうて。後で部屋に帰って絶望したわ。とりあえず、英とどうやって隠れて話すかと悩んだもの。個別に話せて助かったがの。最後には、追い詰められてしもうたが。」

志心が、笑った。

「心地は分かる。我だって刀などなぜに盗むのだとため息が出た。しかし、無事に終わってホッとしたわ。何やら…遊びであるのに仕事をしておったような。」

高彰が笑った。

「とはいえ、何の責任もないゆえそこまで重くはなかったし、何より誰がなぜに殺したと突き止めるのはおもしろかった。こうなって来ると、秋津役にも会ってみたかったの。」

義心は、それを聞いて維月を見る。

維月は、皆も会いたいだろうと頷いた。

それを確認してから、義心は言った。

「…こちらに呼びましょうか。」

皆が、え、と顔を上げる。

秋津役も、会えるのなら待機していたはずなのだ。

「…会いたいの。」焔は言った。「奈綱が想う女とはどんな女であったのか。」

維月は、内心苦笑した。

何しろ秋津役は、維月の侍女の中でも殊の外美しいと評判の、阿木(あき)なのだ。

阿木は、最近維月の侍女になった若い龍で、慎吾の末の娘だった。

維月が側の侍女に頷き掛けて、侍女は阿木を呼びに行った。

維心は、言った。

「秋津役が誰なのかは、なんとのう分かる。なぜなら、我と炎嘉は秋津の部屋に潜んで行く時に、秋津が部屋を出るのを待っておったからの。あの気配には覚えがあるゆえ。」

炎嘉は、維心を見た。

「誠か。我は知らぬ気配であった。やはり龍であるな。」

維心は、頷く。

「慎吾の末の娘ではないかの。あれは最近になってまた妻を娶ってポッとできたのだとか言うて、恥ずかしげにしておったのだ。何しろ孫ほどの歳であるからな。ようできた娘で、最近維月の侍女に加わった。名は阿木。」

「侍女か。」焔が、残念そうに言った。「ならばそう期待もできぬかの。」

何を期待していたのだ。

皆が思ったが、気持ちはなんとなく分かる。

維月が微笑んで言った。

「あの子があまりに美しいので、思い付いた神物像ですのよ。なので、名もあの子に寄せておりますの。良い子ですのよ。」

皆は頷いたが、そこへ維月の侍女が戻って来てふと止まった。

維月の侍女は、言った。

「阿木殿を連れて参りました。」

維月は頷いた。

「これへ。」

妃達すら、キラキラと好奇心に溢れた瞳で待つ中で、阿木が入って来て維月に頭を下げた。

「王妃様。お呼びでありましょうか。」

皆が、息を飲んだ。

龍は皆美しいのだが、この阿木という女神は抜きん出て美しい。

長い黒髪は侍女のそれとして綺麗にまとめて結い上げていたが、それにより顔立ちがかえってハッキリして美しさが際立っていた。

瞳は薄い青色で、控えめな性質がその視線の動きからも見てとれた。

そして、かなり若かった。

まだ成人仕立てぐらいではないだろうか。

維月は、言った。

「此度は大役をお疲れ様だったわね。出番はありませんでしたが、いかがだったかと皆様があなたに会いたいと申されたので呼びましたのよ。」

阿木は、顔を上げたが錚々たる面々の皆の視線が自分に刺さっているので、戸惑う顔をした。

「はい、王妃様。我は…決められた時間に部屋を出て、また戻ってを繰り返しておりましただけで…。」

そうよね。

維月は頷いた。

こちらから関わりを持っていかないと、NPCは退屈なのだ。

「慎吾は何か申しておりましたか。」

とにかく何か話さねばと維月が話題をふると、阿木は答えた。

「はい。父は時々に部屋に参って巻物はしっかり頭に入れたのかとか、退屈ならば出番が来るまであちらを見に参るかとか申されて…我は、あちらに居るのがお役目なのでと、決められた時以外は部屋におりましたのですが。」

父も気になって仕方なかったのね。

維月は、慎吾の気持ちを(おもんばか)った。

年齢が上がってからの娘なので、可愛くて仕方がないようだったからだ。

しかもこんなに美しくてできた娘となると、気にもなるだろう。

炎嘉が、言った。

「秋津、いや阿木か。主が想う相手をやっておったのは、こやつぞ。焔。」

言われて、阿木は焔を見た。

焔は、何を思っているのかわからないが、真顔で無表情だ。

阿木は、頭を深々と下げた。

「秋津のお役を賜っておりました、阿木でございます。」

焔は、むっつりと会釈を返した。

志心が、呆れたように言った。

「なんぞ、だんまりか。やっと会えたのにの。」

皆が笑ったが、焔の顔は何やら固まったままだ。

維月は気になったが、しかしこれでマーダーミステリーのシナリオの一つを終える事ができたので、本当に安堵していたのだった。



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