結末
結末は、茶を飲みながらということになり、全員が離宮の広間へと集まって、そこで座っていた。
茶請けには、維月が龍の宮で作って来た、チョコレートケーキだ。
もちろんのこと、王達にもそれは振る舞われ、初めて見る王は珍しくそれを口にして、口々に絶賛していた。
漸は、口も利かずにそれを完食し、そして言った。
「人が食しておるのは見たことがあったが、まさか甘い菓子がこれほどに旨いとは。初めて知った。」
漸が言うと、蒼が言った。
「そうか、客が来たら酒か茶ばかりで、食物は出したことがなかったな。まさか甘いものを好むとは思っていなくて。」
漸は、蒼を見た。
「月の宮にもこれが?」
蒼は、笑って頷いた。
「維月の里は月の宮だからな。そもそもが、これは人世のもので、オレが好むので維月が作ってくれていたものを、そのまま何百年も継がれているのだ。」
維月は、微笑んで頷いた。
「懐かしい味でありましたけれど、今ではしょっちゅう作るので定番の菓子になりましたわね。」
維心も、慣れた様子で食べながら頷いた。
「主が昔からこれの材料を取り寄せては作ってくれたものな。我も食べ慣れたものよ。」
できた端から維心に味見をさせたので、維心は今回持って来た菓子は軒並み年末に食べた。
元々甘いものはあまり好まない維心だったが、維月が作るととりあえず口はつけるので、最近では慣れて来て難なく食べるようになった。
おいしいと思っているかは疑問だが、維心は絶対に維月が作ったものにケチをつけないので、今も文句もいわずに食べている。
覚が、フッと息をついて口を懐紙でふきながら、言った。
「なかなかに楽しめたわ。珍しいものは良いの。宮でも作らせるかの。」
それには、天音が顔を輝かせた。
「まあ、誠に?侍女をやっても良いですか。維月様が、気に入ったのなら寄越して良いと仰ってくださいましたの。あれらに覚えさせて作らせたいですわ。」
覚は、驚いたが頷いた。
「あ、ああ。良いぞ。材料が手に入りやすいものを教えさせてもらうが良い。」
チョコレートは難しいかな。
維月はそれを聞きながら思った。
維心は力があるし、蒼は人世に明るいのでさっさと買いに行かせるが、他の宮ではそうは行かないだろう。
そこへ、義心がやって来て、膝をついた。
「王。結果の巻物を持って参りました。ご説明をしてもよろしいでしょうか。」
維心は、頷いた。
「皆が楽しみに待っておったわ。前に立って、結果を述べるが良いぞ。」
義心はアタマを下げて立ち上がり、皆から見える位置に立って、巻物を開いた。
そして、固唾を飲んで見守る皆の前で、言った。
「皆様、お疲れ様でございました。それでは、皆様のご選択の末に、その後どうなったのかご説明を致します。」
皆が、頷く。
義心は、早く早くとせっつくような空気の中で、巻物に視線を落とした。
「…16人の軍神達は、巽を殺したのは奈綱、手助けしたのは真須、そして、刀を盗んだのは斗起、手助けしたのは佐津間だと突き止めましたが、犯人を王に差し出すことはしませんでした。その代わり、知った事実とこれまでの所業により王を討つことに決め、実月を先頭に王を討ち取ることに成功しました。宮は筆頭軍神であった実月を王として、存続する事になりました。」
ざわざわと皆が話し始める。
しかし、義心が口を開いたので、またピタリと静かになった。
「…事件の後、王の娘であった加賀は侍女として宮に仕えることになり、秋津も同じく宮に残りました。事件の後、己の部屋が荒らされているのを見た秋津は、そこに秘密の文箱がないのを確かめて、奈綱に容疑が掛かると恐れて、命を絶とうとしました。」
炎嘉が、あ、と維心を見た。
「…だから言うたではないか。見るからに荒らしましたという風に残しておいて良いのかと。整えてから出たら良かったのに。」
維心が、眉を寄せる。
義心は言った。
「あ、いえ、確かにあのままならば、秋津は死んで見つかりましたが、漸様…古都の通う女に、古都が秋津を見張るように文を出していたので、それは回避されました。問題ありませぬ。」
炎嘉は、驚いたように漸を見た。
「主、よう分かったの。そんな機転が利くなど。」
漸は、苦笑した。
「そんなつもりではなくてな。我は、主らが秋津の部屋へと向かうのを、見ていたのだ。軍神達の部屋をもう一度調べて参ると我だけホールを出たではないか。あの時、戻りしなに個別の部屋から主らが出て行くのが見えた。気付かれぬように後を追い、どこかの部屋に入って行くのを見届けたゆえ、あれは誰の部屋だと義心に聞いたら、秋津の部屋だと分かった。」
義心は、頷いた。
「ただ個別の部屋を出るのを見ただけならお答えしませんでしたが、秋津の部屋に入るのを見ておられたので。お答えしました。」
漸は、頷いた。
「ゆえ、何かあるなと思うて、ならば、同じ宮の侍女だとかいう、我が通っておるらしい女に秋津を見張らせることは可能かと聞いた。可能だと申すから、ならば文を書いたことにして、そうしてくれと言った。だから、別に秋津を守ろうとかではなくて、監視するためであったのよ。」
それが功を奏したのだ。
本来、部屋に押し入られたのを知った秋津は、裏庭で自害して見つかるはずだったのだ。
「…とはいえそれが、秋津を救った。」炎嘉が言った。「寝覚めが悪いところだったわ。して?」
義心は、頷いた。
「これで巽を殺害した犯人は公にならぬままに、事件は表向き未解決のまま終わりました。次は、お一人お一人の勝利条件ですね。今回は、犯人を突き止めておりましたが、投票しなかったので『真犯人を突き止めて投票する』の条件は満たされません。焔様、真須様、蒼様以外はその点数は加算されません。」
維心は、眉を上げた。
「蒼もか?」
義心は、頷いた。
「はい。蒼様には『真犯人を突き止めて投票する』の項目はありませんでした。『犯人以外に投票する』ということになりますので、このお三人にはそこに振り分けた点数が加算されます。」
これでは負ける。
維心は、ため息をついた。
「最初にどこに重きを置くのかと決めておけと巻物に書いてあったゆえ、どちらも成せると見て100点を半分にしておった。ゆえ、もしかしたら我は50点では。」
義心は、頷いた。
「はい。王の場合、過半数に王を討つと言わせることが成すべきことでありましたから、それを成されたので50点加算でございますな。」
炎嘉は、目を丸くした。
「我も同じ事を成したのに!30点にしておったから、我は30点ではないか!」
義心は、困ったように頷いた。
「は。誠にそのように。しかしながら、最初に何に重きをおかれるかで決まって参りまして。」
志心が、言った。
「点数などこの際もう良いわ。我はそう思うたから高彰に刀を譲ったしな。それよりは詳しく知りたい。皆が何を思うてやっておったのか、他の未来がどんなものだったのか聞いても良いか。」
皆も、もう犯人を吊し上げないと決めた時から、いろいろ諦めていたらしい。
内容が知りたいようで、身を乗り出した。
義心は、頷いた。
「は。では、それぞれの思惑についてお話を致しましょう。」
全員が、義心をじーっと見て、次の言葉を待っている。
妃達も、ケーキを食べる手を止めていったいどうしてこんなことになったのか、詳しい事を聞きたくて仕方がないようだ。
維月はそんな様子に内心、楽しんでくれたのかなと思いながら、同じように義心の言葉を待っていた。




