再開
またホールへと戻って来た王達に、義心は14:30から15:30まで個別の会話をして良いと言って、脇に控えた。
漸が、早速言った。
「…では、我は今一度皆の宿舎をザッと見て回って来るわ。どうせ何も無かろうが、一応調べて参らねば。我にも成さねばならぬ事があるのよ。」
箔炎は、頷いて立ち上がった。
「では、我はちょっと翠明と話そうかの。主、毅沙であったよな?」
翠明は、顔をしかめた。
「何ぞ?毅沙という男は碌な事がないゆえ、案じられるわ。まさか玄師の妻に手を出したとかではあるまいの。」
箔炎は、ムッとした顔をした。
「違うわ!というか、玄師は独身ぞ。とにかく参れ。」
翠明は、仕方なく重い腰を上げて箔炎と共に防音結界の部屋へと入って行く。
駿が、言った。
「どれ。我は旭と話そうかの。」
旭は、眉を寄せた。
「…主は来務に懸想しておったのではないか?言うたの、我は主が好みではないぞ。」
駿は、ハアアアとため息をついた。
「だから、我はそっちの趣味はないし、そも別の話があるのだ。参ろう。」
旭は、渋い顔をしていたが、仕方なく隣りの部屋へと向かって行く。
蒼は、もう真須が己の罪をげろった時点で自分は無理だと座っていると、維心も炎嘉も、あれだけ入れ替えに積極的であったのに、まだそこに座っていた。
なので、言った。
「お二人は、話に行かれないんですか?」
炎嘉は、首を振った。
「まだ良い。」と、蒼を見た。「主は行かぬのか?」
蒼は、苦笑した。
「いえ、オレはもう、駄目なんで。」どういう事かと二人が眉を上げると、蒼は続けた。「オレの成さねばならない事は、皆が満遍なく疑われて、投票が分かれて誰か一人に集中しないようにすることだったんですよ。ほら、ことなかれ主義の性格でしょう?永久は。だから、真須が犯人だと己から告白してしまったから、成せなかったんです。」
脇で聞いていた、志心が気の毒そうに言った。
「あー。主も面倒なものを引いておったのだの。誠によう出来た話よ。あちこち困難な指示を出しおってからに。ま、我も後で良い。それぞれ部屋を使いたいだろうし、後半になったら変わってもらうわ。部屋は6つだしな。」
見ていると、翠の覚が摂津の公明を誘いに来たり、結構皆成し遂げようと動き始めていた。
蒼は、自分は暇だなあ、と思っていると、英が言った。
「蒼殿。永久と話しがしたいゆえ、部屋へ参らぬか?」
犯人がオレに話?
蒼は思ったが、暇だったので頷いて立ち上がった。
「いいよ、じゃあ行こう。」
そうして、蒼は英に従って、部屋へと入って行ったのだった。
蒼は、初めて入る防音結界の部屋に、回りを見回した。
確かにあれだけ外で会話していたのに、あちらの音が全く聴こえない。
感心していると、英は言った。
「主がもう一人の協力者だったのだの。良かったことよ、我はそれを探し出し、協力せねばならなんだのだ。」
蒼は、驚いた顔をした。
「え?永久も協力者になるのか?」
蒼が言うと、英は苦笑した。
「何を今さら。隠された何も知らないもう一人を探し出し、それと協力して真犯人を隠匿するのが我の役目。ゆえに、犯人がうやむやにしようとしていた永久は、協力者なのだ。主が我を庇った時、そうではないかと思うてはおったのだがの。」
蒼は、目を丸くした。
ということは、真犯人は別に居るのか。
「…奈綱か…?」
英は、頷く。
「その通りぞ。我らは最初の個別の話し合いの時に、どうするか確認しあった。皆に話したことは、全て作り話ぞ。本当は奈綱が殺したのだ。と言うて、我も共犯だがの。アリバイ作りに加担しておるから。屋敷で寝ていたことにするために、わざわざ屋敷で飲んだのだ。」
そうなのか。
蒼は、まさかそんな事がと目を丸くしていたが、しかしバレないのだろうか。
「…炎嘉様はあまり疑っていないみたいだけど、維心様は何か引っ掛かると仰ってた。バレるかもしれないけど…証拠もないし、大丈夫なのかな。」
英は、笑った。
「大丈夫だろう。焔が部屋で文を焼いたのは漸殿に気取られておったが、上手く誤魔化せた。あれだけが物的証拠であったし、問題ない。後は、主が話を濁してくれたら良いのよ。我が告白しておるのに、誰が怪しむというのかの。」
まあ、確かにそうなんだけど。
二人は、まだホールで座っているのだろう。
いくら話し合っても証拠が燃やされている以上、問題ないはずだった。
だが、あの維心なので油断はできない。
蒼は、言った。
「…維心様は侮れないよ。あの方は何を考え付くのかわからないから。とにかく、あの二人の考えをしっかり聞いておかないといけないから、ホールへ戻ろう。」
英は頷いて、そうして二人で、またホールへと出て行ったのだった。
蒼と英が急いで出て来たにも関わらず、維心と炎嘉はそこには居なかった。
残っていた樹伊が、振り返って言った。
「お、早かったな。」
蒼は、頷いて椅子に座りながら、言った。
「あれ、維心様と炎嘉様は?」
志心が言った。
「何やらそろそろ話そうとか言うて、部屋へ入って行ったぞ。あれらはあれらで、何かあるのかもしれぬ。」
二人きりで何を話しているのだろう。
蒼は、気になってチラチラと維心達が入って行っただろう扉を見ては気にしていたが、当然のことながら、何の声も聴こえては来なかった。
その頃、維心と炎嘉は早めに裏からその部屋を出て、秋津の部屋だとかいう場所へと案内されていた。
時は、あちこちに設置されてある時計を見たら確認できる。
待っていると、15時になり、その部屋の中にあった気配が消えた。
「…秋津役の誰かが部屋から出た。」炎嘉が、小声で言った。「今ぞ、維心。」
維心は頷いて、一応気配を消してその部屋の中に足を踏み入れた。
そこは、一般的な侍女の部屋だった。
狭い居室の中に、それほど大きくはない天蓋つきの寝台が設置されてあり、側にはテーブルと椅子が二つある。
そして、女の部屋らしく、衣装用の厨子が多く並んでいた。
「…これは探すのに骨が折れそうよ。」炎嘉はため息をつく。「そも、文を置いていると思うか。」
維心は、眉を寄せた。
「分からぬが、探すよりあるまい。探す物が文だと分かっておったら簡単ぞ。」と、ジッと眉を寄せて辺りを探った。「…あちら。それからこちらに墨の波動がある。主はそっちの厨子の中をあらためよ。我はこちらの寝台の方の気配を見る。」
炎嘉は、感心した。
維心が軍神なら、それは優秀だっただろう。
炎嘉は、言われた通りに黙々と言われた厨子の中を探して着物を掘り起こした。
維心は、炎嘉から離れて寝台の布団を引き剥がして中を確認した。
確かに墨の気配がするのに、一向に文箱が見つからないのにイライラする。
ここは、きちんと再現されてあるのか、時々外を侍女と思われる気配がさらさらと衣擦れの音を立てて通り過ぎるので、その度に入って来るかと落ち着かない。
布団を引っぺがして全部床へと落としたが、それでも文箱は見つからなかった。
…どこぞ。
維心が思っていると、炎嘉が言った。
「こっちはあったぞ。」と、寝台の惨状を見て、顔をしかめた。「こら。いくらなんでも気取られようぞ。派手に撒き散らして。」
維心は、炎嘉に構わず考えた。
ということは、もしや下か?
寝台の下を覗き込むと、そこにはやはり、文箱があった。
「…見つけたぞ。」と、それを引っ張り出した。「さあ、戻ろう。中をあらためねば。」
炎嘉は、顔をしかめた。
「見るからに漁りましたとばかりな様子であるが、良いのか?」
維心は、頷いた。
「構っていられぬわ。さあ、参れ!」
維心は、撒き散らされた寝具を蹴散らして炎嘉を引きずるようにして、その部屋を出た。
炎嘉は、漁った事を隠すつもりもないのだなと、半ば諦めてその後について、ホール横の部屋へと急いで戻ったのだった。




